第33話 ガラウスの街
翌日。
今、俺たちは竜車に乗っている。
そして、俺はエリーゼの膝の上に横になっている。
「あの、どうして僕はまた膝枕をされてるんですかね」
「あら、悪い気はしないでしょ?」
「その、こっ恥ずかしいというか」
悪い気なんてするはずがない。
でも、流石にみんな見てるし……。
竜車は、俺たちの乗る竜車の他に四台いる。
だから、こうして膝枕をされているところは思いっきり他の利用者の人たちに見られている。
周りから見れば、仲のいい姉弟くらいに思うくらいだろうが、俺は違う。
だって、中身はもうおっさんなんだもん。
昨日の夜もそうだが、12歳の少女に膝枕をされることに何故か罪悪感を抱えてしまう。
生前の俺はオタクをこじらせたヒキニートだったが、ロリキャラに興味はなかった。
「……ベル。昨日は、その……すみませんでした」
「? 何がですか?」
「酔った勢いで変なことをしてしまったらしいので。
調子に乗って飲みすぎるとああなってしまうんです。
そのせいで今も頭が痛いですし……」
「別に気にしてないですよ。
シャルロッテの膝枕もすごく気持ちよかっ……いでででで!」
やめて!
み〇えみたいにこめかみグリグリしないで!
冗談……ではないけど。
マジで気持ちよかった。
シャルロッテは、小柄だがスタイルは悪くない。
胸はまあ……小さいが。
太ももは、素晴らしいものをお持ちで……いだいいだいいだいいだい!
「あたしの太ももの方が気持ちいいでしょ?」
「その通りです」
中々際どい質問をしてくるな。
エリーゼは、筋肉質で温かい。
でも、硬いとは感じないほどよい柔らかさというか。
比べてシャルロッテは、ひんやりと冷たくて、柔らかい。
顔をうずめてスーハーしたい。
分かりやすく言えば、エリーゼは高反発、シャルロッテは低反発の枕って感じ。
みたいなことをペラペラと語ってしまったら流石に引かれてしまうため、ここは自制。
危ない危ない。
今後の関係に傷がついてしまうところだった。
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翌朝になって、俺たちは無事にガラウス付近に到着。
特にアクシデントもなく、あっという間に着いた。
地竜って、いいな。
馬車よりも快適だし、移動がとても速い。
その代わり、結構揺れが激しいから酔いやすい人間はしんどいかもしれない。
俺は車酔いはあまりしないタイプだったから、全然平気だったが。
道中はほとんどエリーゼの膝の上だったから、体が痛い。
今こうして立っていることに違和感を感じるほどである。
「今から依頼を受けるというわけにはいかないが、先にギルドの視察にでも行くか」
俺たちはまだ、街には入っていない。
街だというのに、城壁のようなものがある。
見上げると、かなり高い。
城塞都市は初めて見たな。
めちゃくちゃかっこいい。
「お前たち。止まれ」
城門をくぐろうとしたら、甲冑をまとった衛兵らしき男が二人やってきた。
結構厳しい街なのだろうか。
「最近、この辺りで少女を標的にした誘拐事件が頻発している。
だから、ガラウスに出入りする者全員に保安検査を行っている」
「誘拐事件?」
聞き捨てならないな。
何だその質の悪い誘拐事件は。
犯人は間違いなく変態だろう。
それもロリコン。最悪だ。
俺たちは、ランスロットから順番に事情聴取を含む保安検査を受けた。
二十分くらいかかって、ようやく潔白が証明された。
「赤髪のお前も、気を付けたほうがいい。
お前くらいの年齢の少女が標的だ」
「分かったわ」
エリーゼが攫われたら、原形がなくなるくらいに殴り殺してやる。
この言い方はちょっと語弊があるか。
もちろん、殺すのは犯人だ。
何か、大変な時に大変な街に来てしまった。
でも、ここが港町に行くための最寄の街なんだもんな。
頭がおかしくなるくらい働いて、早くこの街を出よう。
そして、デュシス大陸に渡るんだ。
「やあ、初めまして」
「む? 誰だ?」
「僕はナルシス。この街の観光ガイドみたいなものだ」
「初めまして。 冒険者パーティ『碧き雷光』です」
観光ガイド《《みたいなもの》》って何だよ。
何か胡散臭えな。
黒髪で、マッシュのような髪型。
話聞いてくれる系男子は嫌いだ。
こういうヤツは、チ〇チ〇に脳みそがついていやがる。
初対面だが……。
何となく、こいつ嫌いかも。
「君たち、さっきガラウスに来たみたいだけど……。
良かったら、僕に街を案内させてもらえないかな」
「せっかくだし、お願いしたいわ」
「どうもありがとう。じゃあ、着いてきてくれ」
成り行きで観光することになった。
まあまだこの街には来たばかりだし、初日くらいはいいか。
あんまり好きではないが、悪い奴ではなさそうだし。
「君たちは、どうしてこの街に来たんだい?」
「資金調達のためです」
「資金? 何の資金だい?」
「デュシス大陸に渡るためです」
「へえ。旅行か何かをしているのかな」
そんな生温いものではないが。
結構積極的に話しかけてくれるタイプの人だな。
さっきは嫌いとか言って悪かったな。
だいぶ印象はいい。
「ガラウスの街は、天大陸では三番目の大きさを誇る。
人口は天大陸でも随一でね。
天大陸一賑やかな街とも言われているんだよ」
「人口が一番多いのに、一番の街じゃないの?」
「人口が全てではないからね。
経済力とか評判とか、色々加味しないと」
そんなものなのか。
アヴァンってすごい街だったんだな。
グレイス王国に直属する街ってかなり競争が激しかったみたいだし、その中の第一都市ってことだろ。
……でも、もう滅びてしまっただろうな。
「どうしたんだい、ベル君。何か悩み事でも?」
「いえ、大丈夫です。少しお腹が痛くて」
「それは大変だ。どこかで休むかい?」
「大丈夫です」
優しくされればされるほど、最初にこいつに対して悪印象を持った俺への嫌悪感が増していくんだが。
すみません、ほんと。
人は見かけによらないって本当だったんだな。
……ただ、一つ気になる。
目が、笑っていないような気がする。
口元を見れば優しげな表情だと分かるのだが、目に光が灯っていないというか。
ま、気のせいか。
「そういえば、ガラウスで誘拐事件が多発していると聞きました。
私は狙われないとは思いますが、恐ろしい限りです」
「エリーゼちゃんくらいの年齢の少女を狙った犯行だから、君たちは特に気を付けたほうがいいだろう」
「あたしは強いから、そう簡単に捕まらないわ!」
盛大なフラグを立てやがったな。
本当にやめてくれ。
もし攫われたらたまったもんじゃない。
「でも、もし捕まったら助けに来てね、ベル」
「心配で死んでるかもしれません」
「助けに来なさいよ!」
まずは攫われたりしないことが第一だ。
そう考えると、やっぱりこの街で冒険者活動をするのはやめておいた方がいいのかもな。
ここが港町に一番近い街であり、そして効率よく金を稼げる街であることは間違いない。
だが、仲間の命には代えられない。
宿をとったら、提案してみよう。
その後、俺たちは街の色々な所を回った。
美味しいものもたくさん食べたし、綺麗な公園の噴水も見れたし。
しかも、食べ物に関してはナルシスの奢りだ。
最初に俺が勝手に抱いた嫌悪感を180度ひっくり返してしまうほど、ナルシスはいい奴だった。
またどこかで会えたら、改めてお礼を言っておこう。
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もう外はすっかり暗くなっている。
俺たちは既に宿をとり、いつものように一日を振り返っているところである。
「楽しかったわね!」
「ですね」
楽しかったが、ひたすら歩いたから足が痛い。
歩数計があれば、三万歩は計測しているだろう。
何より、美味しいものを食べすぎて食い倒れそうになった。
食べ終わった直後に運動すると横腹が痛くなるやつ。
「ナルシスさんのおかげでリフレッシュできましたが、明日からは本格的に冒険者活動を再開します。
僕たちの目標金額までは、まだまだこれっぽっちも足りません。
早いところお金を集めて、港町に向かいましょう」
「一つ、いいか」
「どうしましたか?」
ランスロットが珍しく挙手した。
小学生を思い出すな。
じゃなくて。
「――奴は、例の誘拐犯の可能性が高い。
というか、ナルシスが誘拐犯だろう」
「え?」
え?
何言ってるんだ?
何を根拠にそんなことを……。
ナルシスは、俺たちに対してとても友好的に接してくれた。
親切に街を案内してくれたし、奢ってくれたし……ってのはちょっと現金すぎるか。
でも、どこにナルシスを疑う要素があるというのだ。
確かに第一印象は悪かったが。
「ベル。エリーゼの背中を見てみろ」
「……何だこれ?」
「小さいわね」
「これは、対象を尾行するための装置だ」
「尾行!?」
何だその恐ろしいものは。
これを、ナルシスがつけたってことか?
いや、でもまだナルシスがつけたって決まったわけじゃない。
街を観光する上で、何人もの人と言葉を交わした。
だから、その中の誰かって可能性もある。
というか、こういう世界に「装置」とか存在するのか。
原始的なのか、近未来的なのか、この世界の基準がわからんから何とも言えない。
「俺は、奴が機会を窺っていたのを見た。
そして、エリーゼの背中に小さな何かを投げて張り付けたところも見た」
「そんな……いい人だと思ってたのに!
裏切られたわ!」
「人間には、どうしても『表』と『裏』が存在する。
表向きにはああいう感じで善良な人間を演じているだけで、裏ではどんな顔を持っているか分からない。
そういうものだ」
そういうもの、で割り切れないような。
少なくとも、ナルシスは敵ではないと思っていたのだが。
ランスロットがその瞬間を目撃していたのなら、間違いはないのだろう。
何というか……ショックだな。
同時に、怒りも沸いてきた。
人の心を何だと思ってんだ。
最悪な印象が払拭され、再び最悪になった。
「念のため、それは燃やしておけ。
何が起きるかわからん」
「分かりました」
俺は手から火を出して、手元の小さな装置を燃やした。
あ、ちょっと火傷した。
後で治癒魔法で治しておくか。
「この街にいては、危険な気がします。
私は、この事件には関与しないほうがいいとは思いますが」
「俺は、一人でも奴を止める。
子供の未来を奪う人間は、絶対に許さん」
ランスロットの目が滾っている。
彼は、人一倍正義感の強い男だ。
きっと、俺たちが別の街を拠点にすると言い出しても、一人でこの街に残って事件の解決に動くだろう。
だがもちろん、一人にさせるなんてことはしない。
「僕も協力しますよ」
「あたしも!」
「エリーゼ、お前は宿にいろ。
シャルロッテもエリーゼと一緒にいてやってくれ」
「何であたしはダメなのよ!」
「お前は奴の標的になったのだ。
迂闊な行動をとれば、攫われかねない」
エリーゼは一人前の剣士だが、仮にも誘拐の標的となったのだ。
俺としても、エリーゼには自分のことを一番大事にしてほしい。
シャルロッテも同じ女性だから、狙われないという確証はない。
エリーゼのためにも、そしてシャルロッテのためにも、二人には自分の身を守っていてもらった方がいいだろう。
「ランスロットは大丈夫だと思うけど、ベルは大丈夫なの?」
「馬鹿にしてますか?」
「違うわよ。……単純に、心配なだけ」
「……大丈夫ですよ。
エリーゼを置いて死んだりしません」
「本当?」
「神に誓って、生きて帰りますよ」
そんな命懸けになるかは分からないが。
でも、相手の素性が分からない以上、何があるかは分からない。
エリーゼがいつになく心配そうな顔をしている。
こんな顔、初めて見たな。
俺が気絶している間にこんな顔をしていたというのは聞いたことがあるが、
この目で見るのは初めてかもしれない。
こんなに可愛い仲間を置いていなくなったりなんてしないさ。
これ以上の被害拡大を防ぐためにも、俺たちがやるしかない。
あの裏切り者、絶対に許さない。
殺すかどうかは分からないが、無事に帰しはしない。




