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第20話 ライラとの日々

 一か月後。

 俺とエリーゼは、ルドルフに許可されてから毎日のように森の方へ行くようになった。

 魔物の討伐のために、という理由もあるが、もう一つ目的がある。

 それは、


「ベル! エリーゼちゃん!」

「ライラー!」


 隣村のヘコネ村に住む長耳族、ライラと遊ぶというものである。

 森で魔物に襲われていたところを助けたのがきっかけで仲良くなり、かなりの頻度で遊ぶようになった。


 俺達は森を突っ切って村に行くしかないと思っていたが、正規ルートが他にあったらしい。

 ちゃんと舗装された道であるため、魔物と遭遇する心配もない。

 エリーゼはちょっとがっかりしていたが。


 だが、森に行くまでに一時間弱もかかるし、

 そこから更に十五分くらいかけて行かなければならなかった。


 そんな俺たちに、革命が起きた。


 我が家はついに、馬を飼い始めたのだ。

 ルドルフは馬の扱いに慣れているから、俺も乗り方を教わっている。

 早くて半年はかかるらしいから、これも継続あるのみだな。

 今は、ルドルフが送迎をしてくれている。

 エリーゼとの一件を通じて、俺達に対する接し方が少し変わった。

 エリーゼは一体何を吹き込んだのか。


 馬を飼い始めたおかげで、自分の足で行くのに比べて所要時間が半分くらいになった。

 アリスの子育てでただでさえお金がかかるというのに、「二人のために」とサプライズで買ってきてくれたのだ。


 この家庭に生まれてよかった。

 いや、普段から思っているぞ。


 俺達は合流した後、いつも遊んでいる大きな樹の下に向かった。


「ねえ、ベル。私、あれやってみたい」

「どれ?」

「この前見せてくれたじゃん。

 私の傷をあっという間に治したやつと、

 洗濯物が乾かなくて困ってるときに手から風がぶわって出るやつ」

「あー、魔術のことか」

「まじゅつ? よくわかんないけど、それ!」


 魔術という名前すら知らないとは。

 というのも、この子は村の農民の子供。

 親から魔術のことを聞かされたことがないのかもしれない。

 俺はこの世界に降り立ったその日から魔法の存在を知っていたけどな。

 まあ、存在すること自体を知ったのはもう少し経ってからだったが。


 「手から風が出るやつ」とは、最近の変な天気のせいで中々洗濯物が乾かなくて困っていたライラの家で使って見せた「合魔術」だ。


 合魔術とは、異なる属性の魔法を組み合わせて使う魔術のことである。

 例えば、火魔術と水魔術を組み合わせて使うとお湯が出るとか。

 そんな器用なことまでできるようになってしまった。


 手から温風を出すのだって、エリーゼの風呂上がりに髪の毛を乾かすのに使わされている。

 ずっと腕を上げておかなきゃならないから、腕がしんどい。

 女の子にとって髪の毛は命だから、別にいいけど。

 あと、風呂上がりのエリーゼのいい匂いを誰よりも早く嗅げるし。

 とかいって調子乗ってたら、また殴られる。


「でも、七歳のライラに魔術の理論が理解できるとは思えないな」

「もう八歳になったよ!」

「そうよ! ベルが一番年下なんだからね!」

「ごめんなさい……」


 そうだった。

 ライラは五月の末頃に八歳の誕生日を迎えたんだった。

 俺はライラと同い年だと思っていたが、一学年上だった。


「それに、七歳のベルが理解してるんだから、私にもできるかもしれないでしょ?」

「ライラ。ベルを舐めてもらっちゃ困るわよ。

 この子はね、天才なんだから」

「そうなの?」

「は、ははは……。エリーゼはお世辞がお上手ですね……」


 どっちの味方なんだこいつは。


 俺は天才なのだろうか。

 俺の場合、努力を積み重ねていくうちに上達していったからな。

 自分でよく言う割に、疑問に思ってしまう。


 元々凄い才能があったわけじゃないから、「天賦の才」ってわけではなさそう。

 となると、「努力の天才」とでもいおうか。ははは。


「りろんとかどうでもいいから、早く教えてよ!」

「まぁ待て少女よ。まずは魔術のいろはを教えておかねばならん」

「どうして突然変な喋り方になったの?」

「真面目に聞かないでくれ」


 無垢って怖いね。

 ジョークに真面目に反応されると、こっ恥ずかしいったらありゃしない。

 とはいえ、魔術の使い方の前に教えるべきことは教えておかなければならない。

 早くも先生かぁ。


 お母さん、俺、出世したよ。


「せっかくだからあたしも聞いておくわ」

「いいですよ。 魔術が使えて損することなんてないですからね。

 まず――」


 俺は魔術に関することをできる限り説明した。

 これ、説明する側も復習になっていいな。


・「攻撃魔法」、「支援魔法」、「治癒魔法」の三種類が存在する

・攻撃魔法の属性は火、水、雷、風、土の五種類

・「階級」と呼ばれるものが存在し、初級、中級、上級、聖級、特級、神級の六つに分かれる


 などなど。

 俺は現在、火魔術で上級、水と雷でそれぞれ中級、その他は全て初級だ。


 基本的に、近接型の魔術師は支援魔法を覚えない。

 どちらかというと支援してもらう側だからな。


 だが、支援魔法を覚えている後衛型の魔術師はごく僅からしい。

 その理由として、「支援魔法は消費魔力が大きいから」というのがあるようだ。

 魔力最大量が多い魔術師じゃないと、覚えられても使うことができないという。


 そういう意味では、俺は後衛のほうが向いているのかもしれない。

 んなこと知ったこっちゃない。

 俺は前に出て戦いたいの。


「どの属性に興味がある?」

「うーん……。全部面白そう……」

「あたしはやっぱり火かしらね! ベルとお揃いだし」

「わ、私もベルとお揃いがいい!」

「ダメよ! あたしが先だったわ!」

「私の方が先に火がいいって思ってたもん!」


 なんだなんだこの展開。

 これはあのセリフが言えそうだな。

 もはやネタ台詞として扱われるようになってしまった、あのセリフ。


「やめて! あたしで争わないで!」

「――」

「――」

「……」


 先生、俺死にたいです。

 いや今の場合は俺が先生だった。


 結局、二人とも火魔術をやってみることになった。

 最初からそれでよかったんじゃ。

 そしたら俺もあんな恥をかくことはなかったのに。

 まあでも、二人で違う属性となったらどちらも交互に見てあげないといけないし、手間は省ける。


「まずは初歩魔術の『フレイム』を使ってみましょう。

 僕がまずお手本を見せますね」

「ふ……」

「エリーゼ、勝手に唱えようとしない」

「ちっ」


 何で悔しがるんだよ。

 唱えてたらエリーゼの勝利だったのだろうか。


 練習している時しかやらなくなったが、基本の形をとる。

 左手で右腕を軽く掴み、目を閉じる。 


「『フレイム』」


 唱えた瞬間、俺の手に炎が「ボッ」と音を立てて灯った。


「すごい!」

「いつも見てるはずなのに、改めてみるとすごいわね……」


 そうだろう、そうだろう。

 こう見ると、俺も成長したなぁ。

 最初は火を生み出したり水を生み出したりするのに二十秒かかっていたのに。


「では、やってみましょう。

 僕が合図をしたら唱えてください。

 はい、せーの」

「『フレイム』」


 二人は声を揃えて唱えたが、何も起こらない。

 俺が初めて魔術に挑戦した時を思い出すな。

 ただ技名を詠唱して、何の変化もなかったが、ロトアからの助言で一気にコツをつかんだ。


「イメージとしては――」


 俺が言いかけたその時、ライラの手に炎が浮かんだ。


 ……え? 嘘だろ?

 俺まだ何も教えてないんだけど。


「やったー! できたー!」

「むむむ……」


 そんな、バカな……。

 ここはなかなかうまくいかない二人にコツを教えて、「すごい!」ってなる場面では?

 魔術のことを何も知らなかったライラが一番早く掴むなんて……。

 やはり、魔族は魔術に長けているのか?


「全然つかないわ!」

「腹を立てていてはいつまで経っても成功しません。

 体の中を巡る魔力の流れを想像するんです」

「そんなこと言われてもわけわかんないわよ!」

「まずは目を閉じる。

 そして、魔力そのものになりきるんです」

「……?」


 やべ、自分でも何言ってるかわかんねえ。

 人に教えるのってこんなにも難しいものなのか。

 教えたいことは頭にあるのに、言語化ができない。


「左手から右手に魔力が流れていくのをイメージしましょう。

 行き場を失った魔力は右手の先に行く以外に道はない――」

「できないわ!」


 エリーゼは集中力を切らしてしまった。

 初めからしていなかったような気がするが。


「あたしに魔術は無理ね。

 興味はあったけど、あたしには合わないわ」


 エリーゼには剣術という取り柄があるから、何とかなるだろう。

 それにしても、ライラは何のアドバイスもなしに成功させてしまったな……。

 これを機に魔術に興味を持ってもらえるなら、俺はそれでいい。


 魔術は実に素晴らしい。

 俺たちの生活をより豊かにしてくれると言っても過言ではない。


「ライラもこれで、初級魔術師だね」

「そうなの?」

「どれか一つでも上の階級の魔術が使えるようになったら。その階級が自分の階級になるんだよ」

「なるほど……。

 いつかベルを越せるように頑張らないとね」


 本当に越されそうで怖いな。

 間違いなくスタートダッシュはライラのほうが完璧だった。

 ただライラのほうがスタートラインが後ろだっただけで。

 よーいドンで一緒に魔術を学んでいたら、俺よりも先に上級魔術師になっていただろう。

 追いつかれて追い越されるのも時間の問題か。


 別に誰かと競っているわけじゃないが、自然と競争心は芽生えてくる。

 

「おーい、お前らー。そろそろ帰るぞ」

「はーい」

「じゃあね、ライラ。また来るわ!」

「うん! またね!」


 ライラは健気に笑った。

 エリーゼとはまた違った癒しだな、これは。


---


 また半年が経った。

 年は明けて、1月。

 エリーゼは11歳になった。


 ライラはあれから魔術の練習を積み重ね、あっという間に初級魔術を網羅。

 なんと自前で魔術教本を買い、それを読みながら中級魔術に挑戦しているらしい。


 ライラの家は、決して裕福とは言えない。

 収入源は、父親であるサルバの農業のみ。

 ライラも色んな家の農作業の手伝いなどをして、お小遣い稼ぎをしているらしい。


 そんな彼女は、魔術を磨くためにほぼ全ての貯金をはたいて本を買ったのだ。

 言ってくれれば、いつでも無料で教えに行ってあげるのに。

 だが、ライラは三か月ほど前、「しばらくうちに来ないでほしい」と言ってきた。

 だから、中級魔術に挑戦しているという話も三か月前の情報だ。


 何故、突然「来ないで」と言ってきたのか。

 その理由が、たった今分かった。


「ライラ……」


 ライラの母親、リゼスが旅立ったそうだ。

 最後に会った三か月前は、まだ普通に言葉も交わせるくらいには元気だった。


 ここ二週間で急激に容態が悪化し、そのまま亡くなってしまった。

 ルドルフからは、それだけ聞かされた。


 会いに行くべきだろうか。

 葬儀は身内だけで執り行われるとのことなので、またしばらくは行かないほうがよさそうだ。


---

 

 更に3か月が経った。

 俺は8歳になった。


 ようやく聖級魔術に着手しだしたが、全くうまくいかない。

 上級魔術師が聖級で躓く理由が分かったかもしれない。

 聖級ともなるととんでもなく規模がでかくなるため、村や森からはかなり離れたところでやらなければならない。

 毎日遠くに行くのは大変なので、練習をする頻度も三日に一回程度になった。


 アリスの成長も順調である。

 一歳になったが、よく泣き、よく叫ぶ赤ん坊だ。

 これが普通なんだろうけど。

 事あるごとに、「ベルは育てやすすぎた」と言われる日々だ。


 魔術の方は行き詰まっているものの、最近一つだけハマっていることがある。

 それは、言語学習である。


 アヴァンに行った時にテペウスに買ってもらった他言語の本を読むのが、最近のマイブームだ。

 最初は何一つ理解できなかったものの、読んでいるうちに段々と分かるようになってきた。

 おかげさまで、日常会話程度ならできるようになった。

 知り合いに魔人語を話す人なんていないけど。


 魔族といえばライラがいるが、彼女は厳密に言うと魔族と人族のハーフらしい。

 お母さんが魔族だという話だが、そんな風には見えなかったな。

 外見に特徴が現れないタイプの魔族がいるのだろうか。


 ……そういえば、ライラとしばらく会っていないな。

 元気にしているだろうか。


「ベル、エリーゼ。ライラちゃんが来たぞ」

「えっ! 本当?!」

「うおっ!?」


 剣の手入れをしていたエリーゼは、剣を投げ捨てた。


 あっぶね!

 マジで死ぬとこだったじゃねえか!

 

 外はまだ昼間だというのに暗い。

 ここ数日、ずっと雨が続いている。

 何年か前からずっとこの調子なんだよな。

 水はけがいい土地だから何とかなってるが、そうでないところなら洪水が起きているレベルの雨だ。

 雷もずっと鳴ってるし、変な天気が続くなぁ。


「久しぶり、二人とも」

「会いたかったわ!」

「ちょっと背が伸びたね、ライラ」

「えへへ、そうかな」


 少し頬を赤くして頭を搔くライラ。

 心做しか、顔もちょっと変わったか?

 人って成長すると顔つきが全然変わってくるからな。


 なんか、可愛くなった。

 俺も今でこそ割と整った顔立ちだが、成長してどうなるか。

 前世みたいに道を間違えて太ったりしなけりゃいいけど。


 エリーゼはすごく嬉しそうだ。

 俺ももちろん久しぶりに会えて嬉しいが、エリーゼはいつになくニコニコしている。


「何してたのよ? 全然会わせてくれなかったじゃない」

「それなんだけどね。

 二人に直接伝えようと思って、ここまで来たんだ」

「伝える? 何を?」

 

 ライラは目を伏せてそう言った。

 リゼスが亡くなったことを、改めて伝えに来てくれたのだろうか。

 いや、それにしてはちょっと遅いような。


「――私、引っ越すことになったんだ」

「……えっ?」


 エリーゼと俺は、絶句した。


「そうか……ちなみにどこに?」

「ここから東にずっと行くと、スアルっていう街があるんだ。

 海も近くて綺麗なところなんだって!」

「スアルっていうと……どこだ?」

「一応、グレイス王国の中だよ」

 

 あれ。

 グレイス王国って内陸国じゃないのか?


 ……ルドルフあいつ、嘘こきやがって。

 まああいつのことだから、本当にそう思っていた可能性がある。

 剣術のことしか頭にないし。 


 海か……。

 もう何年もこの目で海を見ていないな。

 前世も含めるなら十年以上前に、一度だけ一人で電車に乗って海の方まで行ったことがある。

 泳げないし、特にやることは無かったから見ただけですぐに帰ったが。


「いつ頃引っ越すの?」

「三か月後だよ」

「見送り、行くね」

「うん! ありがとう!」


 ライラは本当に、これだけを伝えに来たのか。

 どうしてわざわざ、こんな天気の中来たんだろうか。


 俺は玄関先まで出て、ライラとサルバを見送った。

 エリーゼは出てこず、玄関で立ち尽くしている。

 ……あんなに仲が良かったし、そりゃ寂しいよな。


 俺以外にできた初めての友達で、ライラといる時間が一番幸せそうだった。

 出会ったばかりの時は何故か冷たく接していたが、すぐに仲良くなっていた。

 

「エリーゼ、大丈夫ですか?」

「……」


 話しかけても、反応はない。

 エリーゼは立ったまま下を向いて、ポロポロと涙を零していた。

 よっぽど、大好きだったんだな。

 俺達は歳も身分も違ったが、気が付けばずっと一緒にいた。


「……あれっ?」


 ……俺も、彼女のことが大好きだったんだな。

 目の前でそんなに泣かれると、こっちまで寂しくなるだろう。


「……大丈夫ですよ、エリーゼ。

 まだあと三か月ありますし、毎日ライラの家に押し掛けてやりましょう」

「そんなのっ……! 迷惑よっ……!」


 どうしてこんな時に限って常識人になるんだ。

 ライラも去り際に「いつでも家に遊びに来てね!」と言ってくれたし、毎日言っても許してくれるだろう。

 たまにサルバの農作業の手伝いをすることもあったから、サルバも俺達が遊ぶに来ることを嫌な風には思っていないさ。


 引っ越すまでに、まだまだたくさんの思い出を作ればいい。


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