表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/48

第16話 一泊二日、アヴァン旅行

 王宮に来る前に少しだけネタバレは食らったが、初見です、こんにちは。


 やっぱグレイス王国の都市ってのもあって、ラニカ村とはわけが違うな。

 なんというか、まず建物がでかい。

 アヴァンを東京とするなら、ラニカ村は島根って感じだろうか。

 ちなみに島根に行ったことはない。

 島根県民のみんな、ごめんね。


 ラニカ村もかなり活気のある場所だが、ガヤガヤ度が違う。

 言っちゃ悪いが、ここは空気はまずい。

 ラニカ村は広い平原が近いのもあって空気が澄んでいるが、ここは建物と人の密度が高い。

 目は疲れるが、目が暇になることがないのはいいな。新鮮な気分だ。


「ご存知の通り、アヴァンはグレイス王国で一番大きな街だ。

 人口は確か……150万人くらいだったかな」

「それ、世界的に見てもかなり大きいのでは?」

「グレイス王国自体、世界で見ても大きな国だからね。

 王国全体の人口は1000万人に達する」


 ってことは、本当に日本みたいなものなのか。

 人口が少ないのと、内陸国であることを除けばもう日本だ。


 グレイス王国には第八都市くらいまであるって話だが、何を基準に数字がついているんだ。

 やっぱ人口か?

 いや、面積かもしれないな。


「君は、図書館に行きたいんだったかな?」

「はい。人間語以外の言語を学びたくて」

「わあ、その年でかい? 本当に六歳なのか疑うよ」


 アラサーですよ、中身は。

 あんたよりもよっぽど年上だぜ。


「でも、図書館では本を借りることしかできない。

 三週間の貸出期限内に返さないと、罰金が生じる。

 この罰金がかなり厄介でね。割と痛い額を持っていかれる」


 語り口的に、経験があるんだろうな。

 王族のテペウスが言うんだから、相当なんだろう。


 というか、王族でもそういうことがあるのか。

 三週間後にまた、九時間かけてここに返しにかなきゃならない。

 本を返すためだけにここまで来るのは面倒だな。


「この街には図書館の他に、書店がある。

 エリーゼを救ってくれたお礼に、一冊何か買ってあげよう」

「ですが、お金はちゃんともってきて……」

「ワシに逆らうのか?」

「それやめてください」


 コーネルの真似をした。

 これ悪意あるだろ。

 あんま似てねぇし。

 でも、このご厚意には甘えるしかないな。

 命救っといてよかった。


「――ちょっと! あたしも連れて行きなさいよ!」

「どわっ! びっくりした!」


 背後から走ってきたのは、エリーゼだった。

 コーネルの膝の上から脱出したのか。

 自分から捕まりに行ってたが。

 テペウスは「仕方ないなぁ」と言って、歩き出した。


 エリーゼは久々のアヴァンにウキウキしている。

 テペウスは、ちょっと浮かない顔をしている。

 あー、これ、「エリーゼにも何か買わないとな」って顔だ。


 目の前で俺が何かを買ってもらっていたら、絶対エリーゼも何か欲しがるだろう。

 いくら王族で金持ちだとはいえ、思わぬ出費×2は痛いのだろうか。

 でも、流石に王族だし、痛くも痒くもないんじゃないか。

 それか、エリーゼがとんでもなく高価なものを要求するとか。


 ……後者が有力だな。

 普通に「こっからここまで全部買って!」とか言い出してもおかしくない。

 いやおかしいけど、エリーゼなら言いかねないだろう。

 こんなに容易く想像できることはない。


「エリーゼ、ベルは勤勉な子だよ。

 君も勉強は頑張っているのかな?」

「うぐっ……し、してるわよ」

「僕が色々教えていますが、よく『トイレに行く』と言ってサボっ――」

「あー、お勉強してるときだけお腹が痛くなる病気なのよ!

 でも、痛くないときはまじめに頑張ってるわ!」

「んー! んー!」


 嘘ばっかこきやがって。

 んな病気あってたまるか。

 と言いたいが、エリーゼに片手で口を塞がれているため何も喋れない。


「ベロベロベロベロ」

「何してんのよ!」

「ごはぁ!」


 塞がれている手を舐めまわして見たら、案の定腹パンされた。

 鳩尾に……綺麗に入った……!


「仲がいいね」

「これのどこを見て……ゲホッ……!」


 俺は水魔法でエリーゼの手を洗い、謝った。

 こいつ、俺の服で手を拭いてきやがった。

 俺の唾液を宿主に返そうとするな。


「ここだよ」

「わあ……」 


 ボロ……味のある店だ。

 でも、本屋とかって古びれている店のほうがいい味出てていいかも。

 この街の景観を見た後だと、ちょっと浮いて見えるが。


 書店に入ると、たくさんの本が並べられていた。

 当然だが、うちよりもたくさん本がある。


 言語に関しての本は……こっちか。


「どの言語が学びたいんだい?」

「なるべくまんべんなく勉強したいですけど……。

 一冊までなので、魔人語にします」

「ふむ……二冊くらいならいいだろう」

「えっ、でも……」

「ワシの――」

「ありがとうございます!」


 コーネルの真似キャンセルに成功。

 そこまでしてもらうつもりはなかったんだけど、せっかくの機会だしな。

 甘えに甘えさせてもらおう。


 俺は魔人語と竜人語の本を選び、手に取った。

 開いてみたが、何も読めない。

 勉強を続ければ、これが全部理解できるようになるのだろうか。

 人間語を完全に理解するのに二年くらいかかったが、どのくらい勉強すればマスターできるかな。


「グレイス金貨四枚です……って、テペウス様!?

 それにエリーゼ様まで……」

「こんにちは。これで足りるかな?」


 女性店員は突然の王子と王女の登場に狼狽えている。

 そりゃ急に現れた客が王族だったら驚くわな。


 グレイス王国には、「グレイス銅貨」、「グレイス銀貨」、「グレイス金貨」の三種類の通貨がある。

 銀貨は銅貨の十枚分、更に金貨は銀貨の十枚分だ。

 いやたけーな、おい。

 この分厚さならそのくらいするか。

 二冊ともハリー〇ッターくらい分厚い。


「あたしにも何か買いなさいよ」

「そう言うと思ったよ。何が欲しいんだい」

「剣が欲しいわ」


 そうか。

 あの時剣を失って以来、剣がないのか。

 そういえば、復興作業中にエリーゼの剣が出てきた。

 鉄剣だったため火の熱に耐えられず、刃の部分はドロドロに溶けていた。


「うーむ……剣は高いんだよなぁ……」

「お願い、お兄ちゃん」

「もちろんだ」


 シスコンだった。

 しかし、今の頼み方は凄く可愛かったな。

 体を寄せて上目遣いでお願いするなんて、九歳にして自分の武器をよく理解しているな。

 まるで自分が可愛いということに気づいているかのよう。

 俺にもやってくれる日が来るといいな。


 こうやって甘やかされて育ってきたから、わがままな女の子になってしまったんだろう。


 おかげで俺は、毎日殴られ蹴られ。

 元凶は目の前にいた。


 少し歩き、商業エリアに着いた。

 ここには食べ物から日用品まで様々なものが売られており、この街で一番繁盛しているエリアだ。


「わぁ! 剣がたくさんあるわ!

 何本買ってくれるのかしら!」

「一本に決まっているだろう」

「お願い、お兄ちゃん」

「ダメだ」

「けっ」


 追い、今本性が垣間見えたぞ。

 本当に、傲慢な王女様だ。

 流石のシスコン王子でも二度目のハニートラップには引っ掛からなかったか。

 俺なら引っ掛かってた。


 エリーゼは目を輝かせながら店内を回る。

 他の客に驚かれているが、そんなことを気にせずに剣に夢中になっている。

 剣術に対しては向上心が凄まじいな。

 そのやる気を勉強にも向けてくれたらありがたいんだが。


 俺は無償で授業をしているというのに、高確率でバックレられる。

 やり返しが怖くて毎回見逃しているから、俺はきっと見下されているんだろう。 

 だが、わからせはよくないしな……。

 ああいう系は嫌いだ。

 女の子が可哀想になる。


 なんの話だよ。


「どんな剣がいいんですか?」

「強そうな剣よ!」

「強いかどうかはその人の技術によって決まるのでは……?」

「その通りだ」

「何よあんたたち。いつの間にそんなに仲良くなったの?」

「男の友情っていうのはすぐに出来て、長続きするものなんですよ」

「うむ」


 女同士の友人関係って色々面倒くさいってよく聞くんだよな。

 女同士のいざこざの話を聞いてると、つくづく思う。


 ――ああ、男に生まれて、良かった!

 ってな。


 エリーゼは十五分ほど迷った末に、一本の剣を選んだ。

 派手な装飾はなく、極めてシンプルな剣だ。


「金貨五枚になります」

「これ、王族補正で安くなったりしないの?」

「なんてこと言うんですか」


 補正とか、この世界の人間が使う言葉じゃなさすぎるだろ。

 貴族割引とか実際あるのかは気になるところだ。


 本も買ったし、エリーゼの欲望も満たせたし。

 今日は大満足だ。


---


「馬鹿者! ワシに嘘をついてどこをほっつき歩いとったんだ!」


 俺たちは揃って、コーネルの大目玉を食らった。ごめんちゃい。

 でも、連れ出したのはテペウスだから、俺達はそれに仕方なくついていっただけなんだからね!


---


「乾杯!」


 色々あったが、コーネル主催の食事会が開かれた。

 これが、王族の食事。


 エリーゼがパノヴァ家に来た時の歓迎会の食事もかなり豪華だったが、正直格が違う。

 村でも指折りの裕福な家庭のご馳走と、王族のご馳走。

 普段食べているロトアの食事は絶品だが、こんなご馳走が果たして俺の口に合うのかどうか。


「美味っ!」


 合った。

 というか、合わないわけがない。

 ロトアの手料理には勝てないが、これまでに食べたことがない味だ。

 少なくともガキンチョ向けの料理ではない。


 この体が転生体でよかった。

 この料理のおいしさが分かるのはきっと大人だけだ。


「これ、久しぶりに食べたわ。

 相変わらずアンジェラの料理は美味しいわね」

「ありがとうございます」


 あ、俺たちを案内してくれたメイドさんだ。

 アンジェラさんっていうのか。

 十五歳の自分に手紙とか書いてそうだな。


「君、小さいのにしっかりしているよなぁ。

 どこでそんな礼儀作法とか覚えたんだ?」

「エリーゼにご教授いただきました」

「頭が良くて、顔もいい。エリーゼの旦那にピッタリだな」

「なっ……!」

「御冗談を」


 エリーゼは顔を赤くしている。

 なーに照れてんだ?

 もしかして本気でそんなこと考えてたのか?

 という感じでエリーゼの方をチラチラ見ると、鋭い眼光で睨みつけられた。

 後で何されるかわからないな、こりゃ。


 食事会に出席しているのは、


 王宮の当主であるコーネル、

 その妻であるリディア、

 第一王子のテペウス、

 第二王子のパーヴェル、

 第三王子のジェラルド、

 リベラ、そして俺とエリーゼだ。


 他のメイド達は周りで俺たちの様子を見守っている。

 こういう使用人の人たちって、どんな生活をしているんだろうか。

 二十四時間密着ドキュメンタリーみたいなのやってみたい。

 …………夜のお仕事とかがあった場合はまずいか。


「ベル、伝説とか興味あるか?」

「『銀髪の英雄』とか、大好きです」

「おっ、いいなあ。後で読み聞かせてやろう。

 俺は昔からエリーゼに読み聞かせをしてたから、得意なんだぞ」

「楽しみにしておきます」


 パーヴェルはかなり気前のいいあんちゃんだ。

 俺と一番気が合いそうなのはこの人だろう。

 伝説が好きなら趣味も合うし。


 しかし、最近そういう本は読んでいないな。

 魔術の練習とエリーゼの相手で忙しくて、あまり自分の時間が作れていない。

 この王宮は大きいから、たくさん蔵書がありそう。

 それなら、わざわざ買いに行かなくてもよかったかもしれない。


「……」

「……?」


 どでかい肉を頬張る俺を、二つの目が見つめている。

 目が合ったのは、リディアだ。


 俺、何かしただろうか。

 顔に何かついてるとか?


 目を逸らすのは失礼だろうし、相手が目を離すまでは目を逸らさないようにしよう。


「……」

「……」


 リディアは手に持っていたワイングラスを置き、俺のほうに歩いてきた。

 え、何されるんだ俺。

 眉間にしわが寄っているし、ビンタでもされるのか。

 やめてくれ!親父には木剣でぶっ叩かれたことしかないのに!


「――ああっもうっ! 可愛いわねあなた!」

「ぶわっ!」


 腕を広げたリディアにビビッて目を閉じた俺は、次に目を開けたときには柔らかい感覚に包まれていた。


 うおっ!これは――!

 ビッグ・オパーイだー!


「ちょ、ちょっと奥様……」

「抱きしめずにはいられないわ!

 ロトアさんに頼み込んでうちの子にしてもらおうかしら!」


 その場合、俺の意思はどうなるんだ。

 リディアはエリーゼとよく似た髪の色で、親子だということが一目で分かる。


 ……あの、そろそろ離して欲しいんですが。

 胸の中で窒息死してしまう。

 疲れた時に真っ先に飛び込むのが女の胸なのであって、人を窒息させるための武器ではない。

 でもこの胸の中で死ねるなら本望かもしれない。


「っぷはぁ!」

「どう? 大きいでしょう、私の胸は」

「最高でした、奥さん」

「貴様、ワシの妻に手を出すのは流石に許さんぞ」

「冗談ですよ」


 嘘ではないけど。

 最高でしたよ、そりゃもう。

 エリーゼからは白い目で見られ、他の兄弟達も苦笑い。


 うーん、快楽の代わりに印象が悪くなってしまったようだ。

 一瞬の快楽のために他の物を捨てるというのは、どの世界においてもよくないことだな。

 こういうのを、トレードオフというのか。

 絶対違うな。


「そうだ。ベルの十歳の誕生日の時に、アヴァンに家族を招いて誕生日会をしましょう」

「お、それはいいですね。ベル君の家族も喜ぶだろう」

「どうして10歳なんですか?」

「貴族や王族は、5歳、10歳、15歳になった時に周辺の貴族を集めてパーティーをするのよ」

「なるほど」


 ほえー、そんな風習まであるのか。

 俺なんかのためにそんな大々的にパーティーなんて恐れ多いな。

 でも、このご厚意は受け取っておかなければならない。

 理由は、もう言わずとも分かるだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ