第13話 異常気象
六歳になった。
あ、ちなみに俺の誕生日は4月1日だ。
そして、エリーゼの誕生日は12月17日。
エリーゼもこの間の冬で9歳になった。
この間に、俺は五種類の初級魔法を全て習得、加えて雷魔法と炎魔法は中級になった。
効果範囲も魔法の威力も、初級の時とは段違い。
俺の魔術師としての目標は、とりあえず上級魔法を習得すること。
その上で、聖級以上にも挑戦してみたい。
ただ、唯一心配なのは魔力最大量。
どうしても個人差が出てしまうため、素質はあっても魔力最大量が少ないせいで上の階級に挑戦できない、なんてこともあるそうだ。
上級魔法すら使えないくらいの魔力量だったら、本格的に泣いてしまうかもしれない。
自分の魔力最大量を知る術はない。
ある一定の容量に達すると、最大量はそれ以上増えなくなる。
魔力量を把握する術がないっていうのは、何かと不便だな。
そして、エリーゼはというと。
「はぁっ!」
ひたすらルドルフと剣術の稽古に打ち込んでいる。
すごいなぁ、あれを耐えるんだもんなぁ。
五日でギブだったどこぞの少年とは違うね。
エリーゼは、「俺を守れるくらい強くなりたい」と言っていた。
実を言うと、そこからは聞いてはいけないことかもしれないと思ったから何も聞いていない。
でも、俺のために頑張ってくれてるんだよな。
そう思うと、俺も頑張ろうって思える。
「あら。頑張ってるわね、エリーゼ」
「うん。でも、ただ木剣で打ち合ってるだけで、新しい技とかを覚えたりできるのかな」
「剣術は階級こそあるけど、階級ごとに技があるわけじゃないのよ。
決まった数の技をどれだけ使いこなせるかで、その人の階級は決まるの」
え、そうなのか。
普通に知らなかったんだが。
そもそも本物の剣術をこの目で見たことがないから、知らなくても無理はないけど。
「それなら、誰がどうやって使いこなせてるかを決めるの?」
「これはルドルフから聞いた話なんだけどね。
道場で免許皆伝を与えられて、かつ称号を授かった剣士は、
『師範』として他人に剣術を教えられるようになることに加えて、その人の階級を決めることもできるの」
ほえー。
剣術も奥が深いんだな。
階級制度は魔術よりも複雑だな。
「じゃあ、免許皆伝を与えられただけじゃ、階級は決められないってこと?」
「そういうことね。
称号を授かることができるのは『聖剣道場』だけだから、階級を決められるのは世界にゴロゴロ転がってるわけじゃない。
だから剣士はみんな、『聖剣道場』に入門したがるんでしょうね。
ま、別に剣を教えるだけならある程度の実力があればいいんでしょうけど」
ということは、エリーゼの元師範だったリベラータも、聖剣道場出身なのだろうか。
免許皆伝をもらっているということは、何らかの称号を授かっている可能性がある。
聖級剣士だって言ってたし、『剣聖』あたりの称号をもらったのかもな。
「ずっと気になってたんだけど、
魔術と剣術を両方使いこなせる人っているの?」
「『七神』第一位、『龍神』アスフィロスはそれをできるって言われてるけど、実際はわからない。
魔人竜大戦よりも後にでてきて、最近最強の人間のうちの一人に数えられるようになったから、あくまで人々の推測でしかないの。
後は、『九星』の執行官第一位、ソルね。
彼は間違いなく、世界最強の人間よ。
アスフィロスと全力で戦ったら、どっちが勝つか分からないとまで言われてる」
ひぇー、おっかねえな。
そんな奴が、三度目の魔人竜大戦を起こそうとしている組織のドンってわけか。
とんでもないバケモノが、バケモノ達を率いているってことだろ。
敵対なんてしようものなら、瞬きする間に肉塊にされているだろう。
「そういえば、父さんと母さんが相手した九星って、序列的にはどのくらいだったの?」
「うーん……確か、第六位の『木神』とか言ったかしら。
彼はすごかったわ。腕が木の枝みたいに伸びたりして、もう何が何だかわからなかったもの」
腕が木になるとかいうパワーワード。
魔術の類ではなさそうだな。
「それを、二人がかりで撃退したってこと?」
「ええ。まあ、ほとんどルドルフがやったけどね。
『この戦いに勝ったら、結婚してくれ』って言われて、本当に勝っちゃうんだから」
嘘だろ。
その決まり文句で死なない世界線って存在したのか。
この世界じゃ、死亡フラグですら意味をなさないというのか。
「あっ、雨が降ってきたわ。洗濯物取り込まなくちゃ」
「手伝うよ」
「あら、いいの? 助かるわ」
エリーゼとルドルフも雨に降られながら急いで帰ってきて、濡れた頭をタオルで拭いた。
エリーゼは不満げな顔をして、
「全然練習出来なかったじゃない!」
「天気に関してはどうしようもできませんからね」
「お母さん、天候操作くらいできるんじゃないの?」
「あらあら。それは、遠回しに『死ね』と言ってるってことかしら?」
天候操作魔法は禁忌の魔法だ。
使ったが最後、呪いによって死ぬ。
「ひっ! 雷! 怖いわ!」
それにしても、今日も雨が強いな。
最近、こういう雨が多い。
梅雨としてはかなり早いし、天気の様子がおかしい。
「おへそを隠さないと、雷神様におへそを取られますよ」
「なっ、何よそれ! 余計に怖がらせるのやめなさいよ!」
「あでっ」
叩かれた。
冗談なのに。
俺もこんな冗談を本気で信じてしまうような子供時代に戻りたい。
ケツが青かった純新無垢なあの時の俺が恋しいよ。
体だけ子供に戻って、中身はアラサーで無職のおっさんだ。
「変な天気が続くわね……。洗濯物が乾かなくて困るわ」
「去年まではこんなこと無かったけどな。
まあ、早めの梅雨みたいなもんだろ。そんなに気にすることないさ」
だといいけどな。
でも、雨に降られると出来ることがかなり限定されるんだよな。
外に出られないから魔法の練習もできないし。
エリーゼもエリーゼで、剣術の稽古もできない。
それならば、やることは一つ。
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「えー! 勉強!?」
雨が降っていて外に出られない以上、家の中でできることと言ったら座学しかない。
とはいっても、俺はあくまで教える側だが。
「さて、今日は算術ですよ」
「嫌よ! 算術は嫌い!
本読みか書き取りの授業がいいわ!」
「それだと、四日連続その授業になります……」
「別にいいじゃない!
あたしの好きにさせなさいよ!」
「教えろと言ったのはエリーゼじゃないですか……」
たまにこうしてクソガキムーブをかましてくる時はたまにイラっとくる。
が、解けた時の笑顔なんかを見ると全部吹き飛んでしまう。
そう、俺はとてもちょろい男だ。
恋愛経験が薄い俺にとって、美少女の笑顔ほど眩しいものはない。
「では問題です。タロウさんは、リンゴを5個持っています。
お腹が減ったのでそのうちの3個を食べてしまいましたが、友達のハナコさんが4個、タロウさんにリンゴを渡しました。
さて、結局リンゴはいくつになりましたか?」
「変な名前の人ばっかね」
「茶々入れない。ほら」
日本で例題に使われる有名な名前を馬鹿にしたな。
けしからん。
俺の友達だったタロウくんに謝ってほしいものだ。
そんなやついたっけか。
「えーっと、うーんと……。
5足す3引く4で、4個!」
なんじゃそりゃ。
立式から計算まで何もかも違うじゃねえか。
なんだ今の手の動きは。
「不正解です」
「なんでよ!」
「では、分かりやすくしましょう。
まず、タロウさんはリンゴを5個持っていて、3個食べましたよね。
そしたら、リンゴは何個ですか?」
「5引く3で、2?」
お。いいぞ。
「その調子です。その後、友達のハナコさんがリンゴを4個持ってきてくれました。
すると、どうなりますか?」
「2個になったのが四個増えて、6個!」
「よくできました!」
ようやくできてご満悦の様子のエリーゼ。
エリーゼは九歳であり、学年でいうと小学三年生にあたる。
世の小学三年生は、割り算とかをやってるんじゃないのか。
それと同じ学年のはずのエリーゼは、足し算引き算すら怪しい。
半年間頑張って教えてきたつもりなんだが。
俺の教え方が悪いせいなのか?
「それじゃ、次は掛け算に……」
「お腹痛いからトイレ行ってくるわ」
「……はい、どうぞ」
エリーゼは席を立ち上がり、そそくさと歩いていった。
あれは、サボるための口実だな。
歩き方で分かるほど露骨だった。
腹が痛いのにルンルンでトイレに向かうヤツがどこにいるんだ。
俺も勉強したいな。
最近、他の言語に興味を持ち始めた。
この世界には、我々人間が話す「人間語」、魔族が話す「魔人語」、そして竜人族が話す「竜人語」がある。
異世界の種族といえば、と聞くと三番目くらいに出てくる「亜人」というものは、存在しないらしい。
人族の中の「獣人」という風に区別されているらしいが、言葉はまるで違う。
獣人語は、言語の一つに数えられてはいない。
人間語の中にある方言のようなものなのだろうか。
でも、普通の人間では絶対に理解できないらしい。
津軽弁みたいなもんだろうか。
そういう色んな種族の言葉を勉強したいが、肝心の教科書がない。
何か本を借りようとなると、アヴァンまで行かなくてはならない。
わざわざ本を一冊借りる為だけに、馬車を使って片道九時間。
ちょっと現実的じゃないな。
そうだ。
エリーゼを連れて、お出かけがてらアヴァンに行ってみるのはどうだろうか。
エリーゼも家にいる時は剣を振るか俺の授業を受けるかなので、リフレッシュをした方がいいと思う。
出身地だから割と詳しいだろうし、案内してもらいながら街を見て回るってのもありだな。
エリーゼが戻ってきたら、提案してみるか。




