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7/7

侍女が見届ける結末と

これにて完結となります。

楽しんでいただけたらうれしいです!



「あの、ヴェラール様! もう、あと半年だけ待っていただけないでしょうか!?」


 迷いの表情のままお嬢様は待ったをかけた。


「お、お嬢様っ!?」

「シルフィ、理由は? 僕は十二年も待ったんだよ。もうあまり待ちたくないんだよね」


 上機嫌から一転、少し不満そうなヴェラール様。十二年は確かに長い。そこからのあと半年。神々にとっては瞬きの間だろうけど、いま目の前にいるのにそれはね。


「わたくし、あと半年で学院を卒業となるのです。ですが、このまま天界へ行けば卒業ができなくなります。中途半端なことはしたくありません」


 理由はそれですかお嬢様っ!?

 しばし真剣に目を合わせたままの二人。先に折れたのは、溜め息のヴェラール様だった。 


「真面目なんだね。シルフィ」

「もちろん、わたくしも、その、早くヴェラール様のお、お嫁さんになりたいです、けど……」


 その恥じらう様は反則ですよ!! かわいすぎます!!


「いいよ。あと半年だけ待ってあげる」


 クスクスと笑いながらヴェラール様は愛おしそうにお嬢様の髪に触れ、頬に手をかける。


「けれど、君はもういまから僕のものだ」


 そのまま交わされる神の口づけ。


 それは天に地に、お嬢様がヴェラール様の伴侶となったことを知らしめるもの。


 人知れず。 


 星々は輝きを増し。

 草は強く芽吹いて、花は可憐に咲き誇り。

 砂漠には雨が降り、雪山に光が降り注ぐ。


 風は伝えるだろう、この福音を。

 この星の生きとし生けるものすべてへ。




*****




 あれから半年。

 

 お嬢様は何の問題もなく無事に学院を卒業された。

 そもそも優秀なお嬢様、成績は問題ないのだからあの時点で卒業でもいいのにと思っていたが、なにやらやりたかったことがあったらしい。

 ディオン殿下との婚約も無事に解消されている。というか、もともと婚約なんてしていなかったかのように誰も何もつっこまない。そして殿下の次の婚約者探しはかなり難航しているらしい。当然だ、守護神様の不興を買ったのを多くの人が見ていたのだから。

 またローグ侯爵だが、ヴェラール様の降臨を目の当たりにして気絶しかけ、しかもお嬢様が神の花嫁になると聞いて今度は本当に気を失ってしまったという。

 お嬢様溺愛の侯爵様だが、さすがに神との婚姻を反対はされず『娘も望むのなら』と。ただ、夜に月をみながら酒杯を傾けることが増えたという。そのテーブルにはグラスが必ずもう一つ。中身の減らないグラスが。


 そして今日、ヴェラール様が再びお嬢様を迎えに来られる。


「いよいよですね、お嬢様。改めておめでとうございます」


 冴え冴えとした銀の月が浮かぶ夜。私室のベランダへ出ていたお嬢様へ私はお祝いの言葉をかけた。


「ありがとう、ミラ」


 月光に照らされたお嬢様の美しさときたら。

 その身に纏うのはヴェラール様から贈られたドレス。真珠色で袖のない簡素ともいえる作りなのにヴェラール様の神力が宿っているらしく、ほのかに光っているように見えてもう神々しいこと。


「あなたは、私が生まれたときからすっとそばにいてくれたわね」

「そうですね」


 乳兄弟から侍女に。シルフィ様がどこへ行くにも一緒にお供した。

 長く離れたのは、ただ一回だけ。


「あなたが病気で倒れた時は、とても心細かった。寝る前にいつも祈ったわ。あなたの熱が早く下がりますように、元気になってまた私と遊んでくれますようにって」


 初めて聞きました。

 もしかするとお嬢様は話してくれたかもしれないが、治ったばかりの頃はほら、いろいろあったし。


「あなたったら、ようやく起き上がれるようになったのにわたくしを見て『あなた、だぁれ?』なんて言ったのよ? この世の終わりかしらと思ったわ」

「それは、もう、申し訳ございません」


 冷や汗がだらだら頭から流れ出ていく気分。まだアヴィと融合しきってなかった頃は会う人全員にそんな反応していたと思われる。


「あなたは悪くないの、それはわたくしだってわかっていたの。でもすごく淋しくて、初めて人前で泣いたわ」


 お嬢様が、人前で、泣いた、だと!? その原因が私だったなんて、これヴェラール様に叱られる案件?! いや、大丈夫、このことだって知ってるはず、よね?


「その頃からだと思う。あなたとの思い出を取り戻したくて昔のことをたくさん思い出そうとしていたの」


 そうしてヴェラール様との出会いも思い出したのだとお嬢様はいう。


「でも、本当に顔もうっすらとしか覚えていなくて、名前も何を話したのかとか思い出せなかったのに、あの日」


 顔を見た途端に名前も、話したことも、交わした約束もすべて思い出せた。


「だから、あの方のことを思い出せたのはあなたの、いいえ、あなた達のおかげだわ。ミラと、アヴィ?」


 どくり、と心臓が大きな音を立てた。

 お嬢様が、アヴィの名前を呼んだ…?


「あの方が教えてくださったの。ミラに起こったことすべて。全部わたくしのせいだと感じたわ。でも」


『それはミラに対して失礼だよ。ミラは自分の願いのためだった。僕だって自分のためにミラの願いを叶えた。それはアヴィにとっても良い選択だったのは間違いなかったんだ』


「あの方は、そう言ってくださったの」


 そう、お嬢様が悲しむことなど何一つない。

 お嬢様の笑顔を守りたかったのは私で、それは自分のためだったのだから。


「でも、お嬢様。そんな話をいつヴェラール様となさったのですか?」

「ふふ、内緒よ。ね?」


 ヴェラール様、とお嬢様の見上げた先。かの方が輝く月を背にして佇んでいた。


「そうだね。いくら相手がミラでもこればっかりは二人の秘密にしておきたいからね」


 月光の雫がキラキラと取り巻いて、ヴェラール様はふわりとお嬢様の横に降り立つ。私は三歩下がり、跪いて頭を垂れた。


「改めて礼を言うよ、ミラ。契約とはいえ話せないのは辛かっただろう」

「いいえ、私はお嬢様のそばにいられるだけでよかったのですから」


 これは本心。もどかしかったり、悔しかったりはしたけど、辛かったことはまったくなかったから。


「さて、それでは行こうか。シルフィ」

「はい、長くおまたせして申し訳ありませんでしたわ」


 ヴェラール様が伸ばした手にお嬢様が手を重ねるとお二人はそのまま浮き上がりましたが。


「ああああのっ! なぜ私までっっ!?」


 私まで一緒に浮かんでいるのは、何故ですか!?


「シルフィと『ずっと』一緒なんじゃないの?」

「わたくしと『ずっと』いてくれるのよね?」


 そうか。わたしが“ずっと一緒”と願ったから。

 

「はい! これからも私はお嬢様とともにいます!!」



読んでいただきありがとうございました♪

完結としましたが、もしかすると別視点からの裏話的なものを出すかもしれません。(リクエストとか、もしもいただけたらなら狂喜乱舞して取り組みますっ!)

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