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数十日後、二人はついに南の国との国境にたどり着いた。

国境を越えた途端に、空気が変わる。冷たく乾いた風から、湿気を含んだ生温い風に包まれた。

「……暑い」

ライネルが額の汗をぬぐい、うっすらと顔をしかめる。銀髪が額に張り付き、普段冷ややかな表情がわずかにだるげに見えた。

「そりゃあそんな厚着してるからだっての」

ガルツがニヤリと笑い、ライネルの腰を抱き寄せる。

「暑い、離れろ。これは防御力重視の服なんだ」

ライネルは暑苦しい、とガルツの身体を押し退ける。

「いやいや、この国じゃ暑さで倒れちまうぞ?ほら、ちょうどいい店がある。入ろうぜ」

ガルツが街角の服屋を指さし、強引にライネルを連れて入った。

店内は涼しく、リネンや薄手のシルクが美しく並んでいる。

「ほら、これとかいいんじゃねえか?」

ガルツが手に取ったのは、通気性のよさそうな薄手のシャツと、スリットの入った動きやすいズボンだった。

「これ……?」

ライネルが眉をひそめつつ手に取る。半透明とは言わないが、光の加減でうっすらと肌の輪郭が透ける。

「試着してみろって!」

ガルツに背を押され、ライネルは試着室に入った。

数分後、カーテンが開かれる。

「どうだ?」

「……驚いた。涼しい」

ライネルが袖を軽く振り、通気性の良さに目を丸くする。シャツの襟元は浅く開き、汗で火照った首筋が覗いている。袖から覗く腕の白さと、ズボンのスリットから見える太ももが目を引いた。

ガルツは思わず喉を鳴らし、慌てて視線を逸らす。

「お、おう、そりゃよかったな!」

会計を済ませ、二人は街を歩き始めた。

「南の国の風って、こんなに違うんだな」

ライネルが涼しげに微笑む。普段冷ややかなその表情が、柔らかな陽光の下で穏やかに崩れていた。

一方、ガルツはライネルの容姿が周囲の人々の気を引きすぎていることが心配で、気が気では無かった。

いっそこの往来で深く口付けし、コイツは俺のものだと主張したかったが、そんなことをすればライネルは冷たく別れを言い渡すだろう。

「はぁ……」

ガルツはライネルには悟られぬよう、ため息を吐いた。


日が暮れる頃、二人は街の酒場へ入った。

木造の酒場には、陽気な笑い声と異国の音楽が響いていた。

「よし、ここで一杯やろうぜ!」

「あぁ」

カウンターに腰を下ろすライネルの姿が、否応なしに周囲の視線を集める。涼しげな薄手のシャツが肌に馴染み、動くたびに光を受けてきらめく。

「ねえ、そこのあなた、一緒に飲まない?」

「久しぶりにこんな美人見たわ、本当に綺麗ね」

女性たちが次々に声をかけてくる。男性客もちらりとライネルを盗み見る。

「……これがこの国の普通なのか?」

ライネルが困惑したようにガルツに尋ねる。

「いや、これはお前が色気振りまいてるからだって」

ガルツは苦笑しつつ、周囲の男たちを牽制するように片眉を上げる。

「まったく……」

ライネルはため息をつき、グラスを傾けた。

ガルツはその横顔を見つめ、心の奥でふっと笑った。

——こりゃあ、ますます目が離せねえな。

南の国の旅は、まだ始まったばかりだった。

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