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海を揺蕩う文の梁  作者: 文海マヤ
――2022――
53/205

仮題『Motive』/『幸運』 短歌:『夏憐』

出港の前に、別れは済ませた?

おやすみ、悪夢で会おうね。

仮題『Motive』


心臓が震えている 肺が膨らんでいる

手足はピリピリと痺れて

舌は次の言葉に備え 赤らんでいる


赤血が運んだ燃料を 代謝の薪にして

腐った髄液を取り替えるのだ

次の文字を紡ぐための指先を

滞りなく 踊らせるために


タンパク質の体を 前に進めるために



仮題『幸運』


そんなことを 幸いと呼ぶなよ

きみが生きていることだって

きみが笑えていることだって

当たり前でなくちゃいけないんだ


だから せめて言葉を贈ろう

いつか 僕が骨になる前に

きみが一粒種の幸いを

その胸の中に植えられるように



短歌:『夏憐』


この夏は あの日と違う うたかたの

向こうに消えた しじまの輪郭


忘れなければ、死なないんだっけ?

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