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仮題『Motive』/『幸運』 短歌:『夏憐』
出港の前に、別れは済ませた?
おやすみ、悪夢で会おうね。
仮題『Motive』
心臓が震えている 肺が膨らんでいる
手足はピリピリと痺れて
舌は次の言葉に備え 赤らんでいる
赤血が運んだ燃料を 代謝の薪にして
腐った髄液を取り替えるのだ
次の文字を紡ぐための指先を
滞りなく 踊らせるために
タンパク質の体を 前に進めるために
仮題『幸運』
そんなことを 幸いと呼ぶなよ
きみが生きていることだって
きみが笑えていることだって
当たり前でなくちゃいけないんだ
だから せめて言葉を贈ろう
いつか 僕が骨になる前に
きみが一粒種の幸いを
その胸の中に植えられるように
短歌:『夏憐』
この夏は あの日と違う うたかたの
向こうに消えた しじまの輪郭
忘れなければ、死なないんだっけ?




