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20話:第四配下ルシュメイア誕生

「なによりの問題は工房長だな。アレだけは我を凌ぐ。まともにやり合っても勝てる気がしない」


 警戒を説く割に、アルデの様子は平静なもの。

 乱れのない声音で語られるから、本当に問題と思っているのかどうかも怪しく思えてくる。

 ただ手ぶらで戻って殺されると分かるからこそ、裏切りを決意したぐらいだ。彼なりの畏怖があるのだろう。


「魔蟲は使えないかな? さっきキミが呼んだ大ムカデを同じ要領で利用できれば、色々と取れる手も増えそうだ」

「残念だが出来ない。あの魔蟲達は我々が来る以前から、この洞窟に住んでいた。我々が工房を構える為に魔蟲の女王を倒し、支配力の衰えた他の魔蟲を魔導器で眠らせた。必要に応じて別な魔導器を使い覚醒させ、使役している」

「ふむふむ」

「だが魔導器は永遠に使えるものでもない。内在魔力を先の戦いで全て消費した。再度魔力が充填されるまで当分は使用不可能だ。そもそも件の魔導器は工房に置かれているので、ここからでは操作できない」

「そういうことか。なら仕方ない」

「もっとも、魔力が尽きた故にあちら側も利用できないため、魔蟲の襲撃に関しては懸念せずともよい訳だが」

「それだけが不幸中の幸いかな」


 そうなってくると選べる手段は限られてくる。

 不安要素が強くてあまり気は進まないけど、他に方法がないなら仕方ない。

 僕はルシュメイアを一瞥し、続いてアルデの顔を見た。


「騙し討ち作戦でいこう」

「なんじゃと?」

「奥の妖典族達はアルデが裏切ったことを知らない。だから彼がルシュメイアを連れて工房に戻る。敵陣深くまで踏み込み、他の妖典族が集まったところで首輪を破壊するんだ。ルシュメイアは解放された魔力を使い妖典族へ攻撃、アルデは混乱に乗じて保管されている魔導器を押さえる。二人が暴れている間に僕達も合流し、一気に勝利を捥ぎ取る。これが騙し討ち作戦さ」

「ほほぉ、面白そうじゃな」


 やはりルシュメイアは興味を示した。

 彼女にとっては散々味わわされた屈辱を晴らす好機となる。必ず食い付いてくるだろうと思っていた。

 ただし、それだからこそ危惧もある。逸る気持ちを抑えられず、先走られると台無し。アルデと呼吸を合わせ、上手くタイミングを計れないとマズイ。彼を疎むルシュメイアに、そこを徹底させられるかが分かれ目だろう。


「我が貴公を裏切り、器を奪還した名目で工房に戻れば、この計画は破綻するが?」


 アルデは表情を揺らがすことなく、淡々と告げてきた。

 僕を試しているわけではなく、確認を求めてのことと思える。

 実際に工房側を裏切って、こちらへ情報を流しているのだから、忠誠心と呼べるものは持ち合わせていない手合い。状況次第で僕を裏切ることも匂わせている以上、絶対の信用を置けるとは言い難い。

 それでも彼は計算のできる男だ。自分の振る舞いによるリスクとメリットを天秤にかけ、そこへ感情を差し挟まないで冷静に読める。その観察眼と判断力は信用に値する。


「現状でキミが僕達を裏切り返すことに利は薄い。だからそこは心配してないよ。仮にキミが叛逆を狙ったとして、そん時は……プルルン」

「プル!」


 僕の目配せと呼び掛けで、プルルンは緑の粘体を変形させた。

 楕円の状態から一部を鋭く尖らせ、息吐く間もなく伸び走らせる。突出した鋭利な切っ先は一瞬で、アルデの喉元へ迫って停止。いつでも彼を刺し貫ける間隔で動きを止めた。


「プルルンもキミ達に同行させる。彼の役割はルシュメイアの首輪を壊すこと。あらゆるものを消化するウーズ族の力で、魔力封じの呪具を取り除く。追加の任務で新人配下の監視と、裏切り者の処刑もいれようか?」

「成る程、了解した。流石にこの段階で元鞘へ転ぶような節操無しはしない」


 左右の触手腕を上げて降参の仕草を見せ、アルデはプルルンより一歩分距離を取る。

 相変わらず声にも面相にも動揺の類は見られない。彼の胆力は鋼製か。

 胸中を読み解くことは出来ないけど、勝負強さと土壇場でも鈍らないだろう判断力は頼もしい。


「ということだから、プルルンよろしく頼んだよ」

「プルル!」


 アルデへ伸ばした針槍状の部位を柔らかく引き戻し、プルルンはそれを途中で直角に曲げて応じた。

 僕に対して敬礼を取る形だ。

 魔剣さえ磨滅させてしまう彼の消化能力なら、問題なく首輪の破壊は可能だろう。工房潜入組へ随伴させる際は、姿を消す透過魔法か、周囲の景色へ融け込む擬態魔法をかける必要がある。


「僕とゾン子は工房の近くで待機しておく。騒ぎが聞こえ出したら乗り込むからね」

「ヴ……ヴ……」


 僕達まで姿を消して同行する訳にはいかない。姿は隠せても気配までは無理だし、魔導器が多くある場所に大勢が立ち入れば、どんな反応が出てしまうか分からない。

 離れ過ぎず、近過ぎずの距離を保ち、様子を見るのが一番堅実。


「さて、ルシュメイア。感情任せに突っ走ったら成功するものも成功しない、それはわざわざ説明しなくても分かるだろ。はじめのうちは悄然として見せるんだ。キミの演技力は重要だからね」

「フン、言われるまでもない。彼奴等に借りを返せるならば、些細な不満は飲み込んでみせようぞ」

「待て。貴公等が先刻執り行おうとしていた主従契約の魔法を完成させておいてもらおう。魔封の戒めを解いた際、どさくさ紛れに我を討たれても困るのでな。新たな我が主の命を以って、我を害さぬよう定めてもらいたい」

「貴様、余計なことを!」

「主従契約が成り立たぬうちは、我は動かん。我が主よ如何に」

「いいだろう。僕としても結んでおきたいからね。ルシュメイア、キミはどうする?」

「くっ……分かっておる。早ようやるがよい」


 アルデの言葉に、苦みと忌々しさを滲ませていたルシュメイア。

 僕に問われて目を瞑ると、しばしの黙考を経て頷いた。

 かなり渋々な表情をしているけれど、既に一度覚悟を固めただけあって、前程の躊躇いはない。

 それでも僕に向ける目は厳しく、アルデに注ぐ睨み目は冷たい。この中で一番割を食っているのが自分だと分かっているから余計に。

 勿論僕は同情しないし、アルデは素知らぬ顔だった。

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