19話:洞窟の秘密
「貴様等、そんな妄想のために妾を攫いおったのか!」
案の定、ルシュメイアが烈火の怒号を響かせた。
激憤も極まるという形相でアルデを睨み、今にも掴み掛からん勢いだ。
当事者なのだから当然といえば当然だし、正しい反応と言える。けれど加害側のアルデは、彼女の怒りに対してまったく気にした素振りがない。
負い目や後悔の色は微塵も見られず、平然を通り越して超然としている。元々が表情の読めない顔というのもあるけど、心中の思いが一切表に出てこないから、余計にルシュメイアを憤慨させる悪循環。
我関せずの姿勢で、謝る気配もない。他人の境遇や思いの様には興味がないらしい。
これはまた個性的な配下だな。
「ゾン子、少しルシュメイアを押さえておくように」
「ヴ……ヴ……」
僕の指示を受けたゾン子は、後ろからルシュメイアの両肩へ腕を回した。
脇下から両腕を差し込んで、左右それぞれの肩をガッチリと掴んで止める。そのまま一歩二歩と下がり、ルシュメイアをアルデの傍から引き離していく。
「なにをする! ええい、離さんか!」
死霊族の力に抑え込まれたが最後、魔力を封じられている彼女では自力で振り解くことなど出来ない。
体を捩って抵抗しようとするが、引っ張られるに任せる以上の選択はなかった。
「少し落ち着くべきだね。ひとまずアルデの話を聞こうじゃないか。キミが仕返しするのに役立つ情報だって出てくるだろうし」
「プルプル」
「くっ、貴様等、魔王の孫娘にこのような仕打ちをして、ただで済むと思うでないぞ」
「『元』魔王の、だけどね。さてアルデ、キミ達の内情について詳しく話してもらえるかな。究極魔導兵器とやらの進捗状況や、工房の警備仕様とか諸々」
「では始まりからとする。そもそもこの洞窟を見出した理由がある。深奥部の下層帯に、高密度の魔力結晶体が埋没しているのを発見したためだ。それも相当量をな」
自然界に遍在する魔力が何かの拍子に密集し、長い年月を掛けて結び付いて物質化したものが魔力結晶体だ。
魔力結晶体は魔力が宿っている物質とは違い、魔力そのものが結合した代物なので不純物を含まず、小さな欠片でも膨大な魔力を有している。
魔導器の核や武具の装飾などに使われることが多く、身に着けた者の魔力を大きく底上げしてくれるため、扱い方さえ間違えなければ低位の魔族でも強力な魔法を操れる。
ただし採取も加工も非常に難しく、ろくな知識と技術がない者では、拾い上げることすら叶わない。必要な措置を取らず手に取ると、その瞬間に結晶体は崩れ、魔力は拡散霧消してしまう。しかも絶対数が多くなく、希少物の部類だから尚細心の注意が求められる。
魔力結晶体を巧く扱えるのはそれこそ妖典族か妖精族、あとは精霊族しかいない。基礎能力の高い氷華族さえ独力では手に余るほどだ。
そんなお宝結晶体が、この洞窟の深部地下には数多く埋まっているらしい。妖典族としては、そりゃ根城にもしたくなるだろう。
もしかしたらゾン子を操っていた魔剣も、その結晶体に引き寄せられたのかもしれない。
「研究と開発に極めて都合がよく、足掛かりとしても大きい。此処に工房を構えないという選択はなかった」
「つまりキミ達の工房を乗っ取った暁には、魔力結晶体の山が丸々手に入るわけだ。嬉しい情報だね」
「他にもオマケが付いてくるがな」
「オマケ?」
「工房長の構想する魔導兵器とは生体由来の活動体だった。そのため魔力面、身体面で高いポテンシャルが見込める魔族を、方々から集めて実験に使っている。今も工房内には捕らえられた素体が何名か残っている筈だ」
「貴様等、やはりロクでもないではないか! 早々にこの首輪を外せ、妾自身の手で誅してくれる!」
ゾン子に押さえられたまま、ルシュメイアは糾弾の喚きを繰り返した。
体は拘束され動かないため、足だけを盛大にバタつかせている。何度も足裏や踵でゾン子の脛を蹴っているが、死霊族には痛覚がないうえ、魔力が宿らない彼女自身の肉体強度は知れたものなので、まったくダメージが通っていない。
当然のようにゾン子は微動だにせず、僕から命令がない以上ルシュメイアの状態は変わらない。
「つまり工房長とやらを倒して、捕らわれている者を解放すれば、彼等の信心も買うことができると。いいね、一度に多くの配下を揃えられるかもしれない。これはますますやる気が湧いてくる」
「魔導兵器自体の開発は未だ途上。氷華族が逃げ出したことで肝心な部分が停滞している。よって、こちらは脅威足り得ないな」
「するとキミの元仲間達が最大の障害か。各々の実力はどんな感じ?」
「半分は研究へのめり込み、戦いとは無縁できた者だ。戦力には数えられない。残る半分も我には及ばん。が、連携を取られると厄介だろう。それに試作した魔導器も多くある。これを使われると攻略はより難しくなる」
「速攻で各個撃破か、一網打尽が理想的だけど……」




