番外編 ルカ・ランディ
「未プレイの乙女ゲームに転生した平凡令嬢は聖なる刺繍の糸を刺す」2巻
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※特典はあとがきでご紹介します。
こちらは書籍2巻発売感謝リクエスト短編。
「ルカ」のリクエストで用意しました。
第3章読了後にお楽しみください。
「髭がむさくるしい……ですか」
ルカ・ランディは騎士だ。
その上司である騎士団長に向かって取る態度ではないと重々承知しながらも、こらえきれずに深いため息を返した。
「ああ、それが理由で護衛を断られたそうだ。ついては、おまえにその任を任せようと思う」
「なるほど。アンジェラ・ディート第三王女は愚か者である、ということですね」
王族の護衛というのは騎士の仕事の中でも花形であり、希望すればなれるものではない。
剣の腕はもちろん、周囲を警戒し続ける集中力、要人に近付く者を判別するために関係者の顔を覚える記憶力など、あらゆる能力が必要とされる。
今回アンジェラが訪問するヘルツ王国は特に敵対していないし、温厚な国王の平和な国だ。
だが、軍事大国であるディートの王女を狙う者がいないとは限らない。
それを見越して精鋭中の精鋭が選ばれたというのに。
拒否する理由が、まさか髭とは。
怒りを通り越して笑いすらこみあげてくる。
「では、先輩の髭を剃り落とせばいいだけではありませんか」
「それが、王女殿下は髭だけでなく顔立ちも重要視されるらしく。それと「オジサンは嫌」だそうだ」
「……本物の馬鹿ですね」
騎士は経験がものをいう。
若い新人の方が体力があるように見えても、熟練の相手には手も足も出ないことが多い。
まして今回同行を予定していたのは、剣技だけでなく体術も優れた猛者だったというのに。
王族に対する度重なる不敬な発言にも特に注意が返ってこない。
もちろんここが公の場なら話は別だが……つまり、騎士団長も怒っているのだろう。
「若手の中で一番の剣の使い手で、顔立ちが整っているとなると、おまえくらいだ。頼まれてくれるな?」
「……今から顔に大怪我を負ってきてもいいですか?」
完全に無表情で返答するルカの肩を、騎士団長が慰めるように叩く。
「これは王命だ」
その一言に、ルカはただため息をつくことしかできなかった。
アンジェラは噂通りの人物だった。
栗色の髪に翡翠の瞳が美しく、それに見合う整った顔立ちをしている。
いわゆる美少女である。
だがしかし、ルカの中のアンジェラの評価は下がる一方だった。
護衛に対して『髭とオジサンが嫌』というとんでもない理由での変更を求めた時点で、愚か者確定。
更に今回の訪問はいわゆる公務ではないのだという。
何だかんだと耳障りのいい言葉を並べた説明を受けたが、要は『ひとめぼれした王子の国に押しかけて結婚を迫る』が目的だった。
何だかもう、異次元過ぎてため息も出ない。
末の王女が甘やかされているという話は聞いたことがあったけれど、ここまで酷いとは予想外だ。
いっそこっぴどく振られればいいと思ったが、そうなると八つ当たりされるのは一番近くにいるルカだろうし、それも面倒くさい。
それに軍事大国の王女で美少女となれば利益しかないので、相手の王子もきっと承諾することだろう。
性格はお勧めできないが、さすがに好いた人の前では猫をかぶるだろうから問題ないはず。
……ああ、こうしてわがまま王女の無茶が通るのか。
世の空しさを痛感していたルカだが、ここから想定外の事態が続いた。
まず、グラナート・ヘルツ第二王子が、とんでもない美しさだった。
美少年という言葉が裸足で逃げだしそうな、本物の美貌である。
優しい日の光のような金の髪に、宝石よりもなお輝く赤い瞳。
完璧を形にしたらこうなるのかという顔立ちは、整いすぎて男のルカさえも身震いするほど。
その上、物腰も柔らかく受け答えも丁寧で聡明さが垣間見える。
一目惚れで押しかけるアンジェラのことを軽蔑していたが、グラナート相手ならば確かに暴走しても仕方ないと思えてしまう。
それでも軍事大国の王女と第二王子の婚姻となれば、国益しかない。
さすがに承諾するだろうと思ったのに、グラナートはその場で断ってしまった。
しかも、既に自身の妃となる女性がいるという。
実際に恋人や婚約者がいたとしても、ここではやんわりと流して、後日改めて丁寧に断ると思っていたのに。
軍事大国の王女相手に随分と強気だなと思う一方、押し切られては撤回できないので必死なのかもしれない、とも思った。
それだけお相手のことを大切にしているのだとしたら、男として大いに応援したいという気持ちが湧いてくる。
同時にこの完璧な美貌の王子がそこまで想う相手となれば、どれだけ美しい女性なのだろうという興味も沸いた。
噂のお相手を一目見るのだと息巻くアンジェラを真剣に止めなかったのは、その好奇心があったのも否めない。
そこで、またしても衝撃の事態が続く。
出向いた先にいたのは、三人の少女。
一人は虹色の髪に紅水晶の瞳という、人目を惹きつける華やかさでありながら清楚な印象。
もう一人は銅色の髪に黄玉の瞳の輝きと、体のラインが素晴らしすぎる色っぽい印象。
どちらも甲乙つけがたい美少女であり、正直アンジェラがすっかりかすんでしまう。
これはグラナートもアンジェラに落ちないわけだと納得しかけたところに、二人は無関係だと知らされた。
そして現れたのが、エルナ・ノイマン子爵令嬢。
水宝玉の瞳だけは綺麗と言えるが、それ以外には特に目立ったところのない、ごく平凡な少女だった。
身分の低さも相まって不満が爆発したアンジェラはエルナに対して嫌がらせに走る。
他国に来てまで何をしているのだと思いながらも、命令である以上は無視するわけにもいかない。
仕方なくエルナの教科書を隠しては戻したり、できる限り被害が軽く済むように手を回したが……当然ながら、グラナートにバレる。
だが、そこで嬉々としてグラナートに被害を訴えるどころか、エルナはアンジェラを庇うような素振りを見せた。
軍事大国の王女相手に大ごとにしたくないというのは、グラナートの立場も考えてのことだろう。
当のグラナートの方もそれを理解しているらしく、その後もエルナを大切にし、アンジェラの要求を呑むことはなかった。
「国に帰るわ。陛下に報告して、正式に謝罪とお礼を伝えてもらいます」
舞踏会で暴漢に襲われた自分を身を挺して守ってくれたエルナとの会話で、アンジェラも何かを学んだらしい。
ようやく、と思わないでもないが、それでもきちんと自身を顧みて行動できるのは偉いと思う。
「ルカにも迷惑をかけたわね。……守ってくれて、ありがとう」
その笑顔は、グラナートの為に取り繕ったものよりもずっと美しく目に映る。
腐っても軍事大国の王女、その知識量や人脈は計り知れない。
これからきっと、アンジェラは少しずつ成長して素敵な女性になるだろう。
それを見守りたいと初めて思い、知らず口元が綻ぶ。
……ルカ・ランディが、生涯の主を定めた瞬間だった。
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