感謝とともに幕引きは成る
──光が降り注ぐ。
色など理解も出来ぬような眼を焼く破壊の極光。それがもたらしたことは神子を守る透明の壁の破壊であり、また刀座の壁の破壊である。
眩しさからレオンはその光景を見ることも叶わず、ゆっくりと収まっていく光を感じながら目を開く。
「────っ!!」
マズい。
レオンは、誰がやったのかわからない光によって目を瞑っていた間に、軍の人間の殆どは眼を灼かれるのも構わず刀に走っていったのだろう。明らかに刀に近づいている様を見て直感的に感じた。
黄と赤の同時装填。刀に向けてそれを放つと次に目を向けたのはレシアの舞だ。彼女の居る位置を避けるように風を放ったからその点は問題はない。
まだ彼女は舞い踊り続けている。儀式は終わってないし、中断もされてはいないのだ。
風に触れた人がバタバタと倒れていく。一本が風によってばらまかれただけで何人も即座に動けなくなる。レオンが思っていた以上に黄色の矢の毒は強かった。それこそ異常なくらいに。
「刀取っ───」
毒を身に浴びながらも刀にたどり着いた人が抜き身の刀に触れて──叫びながら後退して後ろ向きに倒れた。死んだのかそれから微塵も動きはしない。
刀自体にも防衛機能があるのだろうか。まだ余裕そうだった人だったので、レオンはそう考えた。
刀に防衛機能があったからといってそれでも近づけるのは下策だ。とにかく刀への接触を防ぐために刀に近い人間を黄の矢を使って撃ち抜いていく。地面に矢がたどり着くと、地面を波紋のように刻印が広がっていく。その波紋に触れた人は立つことも出来ず倒れ、そのまま死んでいく。
黄の矢、強すぎる。レシアの方へと向かっていったそれらは砕けた障壁に吸収されて消えた。
「危なっ!? 肝が冷えたや……」
レオンはその光景を目にして一際焦った。まあ強い強いと思っていたがそこまで強いとは理解していなかったのだ。理解しろと言う方が酷いが。
「って、みんなこっち見てるじゃん」
帝国軍人の残党が皆様レオンを見て構えた。どっちみち彼を何とかしない内は刀を手中に収めることは不可能と断定したのだろう。
対してレオンはバカスカと黄色を撃ちまくってしまい、中身は確認できないが少し矢の数に不安があった。残り六本であった。
また、帝国軍の増援が少しずつ現れてきている。逃げ遅れた民衆はもうほとんどいないが、逃げ出した民衆と入れ替わるように来ているため、人の数はあんまり変わったようにレオンには感じられなかった。
猫の手助けは望めない。トーコ達は囲まれる前に逃げ遅れた民衆に紛れて逃げていったのはレオンはさり気なく目視している。何故か時子がトーコを背負う形だったのが印象的だった。
「自分一人逃げるのは案外出来そうだけど………」
そうなると無心で踊り続けているレシアはどうなるか。簡単に想像できる。レオンはそんな想像、したくないが。
───残り時間はそもそもあと何分だ?
「来るんっじゃ!! ないっ!!」
手早く矢を装填し、正面方向の一歩踏み出した軍人の足々を幾つも撃ち抜く。だが点の攻撃で囲んできた相手全体を止められるわけがない。
振り向かずに背後に黒の矢を振り払うように三連射。背後から悲鳴が聞こえるが、目で確認する暇がなかった。
側面から同時に来た。
「るぉらぁぁぁっ!!!」
赤の矢を左側に撃ち、反動で右の軍人の懐に飛び込むようにタックルした。黒の矢を左手に取り、レオンとともに宙に浮いた軍人に突き付けて刻印を起動。
肉を裂く不快な音を響かせて赤黒い木が育っていく。巻き添えに何人をも巻き込みながら。
レオンは黒の矢を左腕の力だけで、身体を振り回して上に乗る。そして軍隊の頭をひたすら撃つ。対策として盾を持ってきたのだろうか、盾が散見されるようになったがそう言った相手にはUターンする軌道で緑の矢を撃ち込んだ。
「飽和攻撃かよ……っ!?」
左肩に矢が刺さる。反動で落ちそうになったが、何とか踏みとどまる。遠距離用武器は何だかんだ止まった的をねらうには的を外しすぎていたのでレオンの思考から外れていたのだった。だが、想定外とまではいかない。
左肩は動く。酷い痛みがあるけれど、全くの問題はないと言って良いはずだ───レオンはそう考えた。
実際動くが、普通は無視できない問題になるだろう。そして実際のところどう考えていようが、問題だった。レオンは痛みのせいで考えが纏まらなくなり、行動を口に出しながら動くようにした。
「赤二本と黄色一本で───」
赤の矢を足下に放つ。黒の木を砕きながら反動で空へと吹っ飛び、続いて二本装填し同時に撃つ。再び毒の風がまき散らされた。風を浴びた者は瞬く間に倒れていく。
また対策として矢除けの風を起こす刻印でも持っていたのだろうか。何人か風に毒が混じり数秒風を防ぎはしたが、その後すぐに倒れる。その後ろまで毒の風はいかなかったので無駄とは言えないけれど。
思ったより広がらず、レオンは歯噛みした。三十人程度は巻き込んだが、増援が更に多く来ていたからだ。
「ああ畜生爆発する矢とかくれよっ!!」
そも、遠距離用として四種の矢を渡されたのだ。黒の矢だけそれから外れる気がしたが、そもそも囲まれる状況を想定した矢ではないのだ。
落ちながら左手で宙に矢を投げ、右手を振りながらそれだけで装填と射出を繰り返す。返ってくる矢は狙いを外しすぎていて、対処するだけ無駄だった。それでも当たるもので、右足の先を矢が貫いていく。
────だあっ、畜生!
声には成らなかった。赤の矢を足下に向けて放ち、左足だけで着地。右膝を突きながら連射する。
しかしもう、目の前まで軍人は迫ってきていた。
「───死ねぇ!!」
一人。剣を振り上げながらそう言った。
まだだ。レオンは剣を左手に持ち替えて右手で袋を漁る。
「まだだっての!!!」
黒の矢を起動しながら振り払う。軍人は吹き飛び、何人も串刺しにしながら成長する。
「このままっ!!」
背後に向けて上半身を捻り何本も矢を射出。段々左手の動きが鈍くなっていくのを感じている中レオンは撃ち続けた。
普通の矢も残りが心許ない中、近づいてきた軍人に黒の矢を叩き付けて。遠く警戒する奴を普通の矢で撃ち抜き。盾を構えて突撃しようとしている奴を緑の矢で撃ち抜く。盾持ちが少し多いのはレオンにとって苦しかった。
近過ぎた。黄色を一本装填したが、もう射撃では対応できない程に。
切り払う。浅過ぎて話にならない。その傷で怯む事がなかった軍人が振り下ろしてきた剣を、剣で受ける。
左手が取り出したのは赤の矢だった地面に落としながら起動すると暴風が吹き荒れる。
「づぁっ………!!」
当然吹き飛ぶのは軍隊だけではない。レオンは空へと吹き飛びながら背中に激痛が走るのを感じた。斬られた。左肩も痛みを発する。死ぬ、しぬ、しねる。
「くっ───そぁぁ!!!」
赤黄色同時装填三連射。下ではなく上に向けて。
くるりと空中で反転して黒の矢を下に向けて五連射。逆さに成長する黒の細木は勢いよく地上に突き刺さる。それらは地を砕き、赤く染める。遅れてやや外目に放たれた毒の風が軍隊へと降り注ぐ。対策は前の方しかしていなかったのかあっさりとバタバタ倒れていく様を見て、レオンは笑った。
矢を探りながら、気付いていた。
赤の矢がない。
レオンはチラリとレシアの方へと目をやる。
「演舞完遂───ありがとうございました」
レオンは笑いながら落ちていく。目を閉じて、その耳に猫の声を聞きながら。




