終わりが始まる
「───………」
意識を失っていた。その事に漸く気付くレシア。とは言え、今のレシアが多少無防備にしていようが誰一人害することは出来ないのだが。
「まただ」
レシアはぼんやりと閉じた瞼の上から目を撫でる。痛みはなく、目を開けばぼやけた視界が広がっていた。
眼を使った。そのことで気絶したのは初めてではない。このところ、よく意識を失う。レシアはそのことを少し不安に思いつつ視たものを思い出そうとして、何も思い出せない事だけを理解した。
もしかしたら何も見えなかったのかもしれない。それが意識が切れたことに依るものか、見えたものが憶えるのもおぞましかったのか、ただ何も見えなかったからなのかは分からない。
「神子様、お時間です」
そう言ったのは、誰だろうか。眼鏡をしていないから、それが男でレシアよりも大きい事、あとは大まかな服装しか分からない。
「分かりました」
神子の儀式用の衣装を身に纏ったレシアがその声に導かれるように街を歩く。
しかし、この役目、確かボードンの役目ではなかっただろうか?
レオンは走っていた。
「にゃーちゃんは先にレシアちゃんのところに送ったけど!! それでも心配なものは心配なんだっての!!」
全力疾走とは言えない。人混みもある。自らの体力もそう多くはないことは理解している。それでも出来る限り急いでいた。
猫のことが心配だ。それがある。しかしそれと同じくらいにレシアの事も心配だった。
それこそ、レオンが心配するほど弱くないことは分かっているが。分かっているが儀式の中断を狙うことに誰かの思惑がある、その前提からレオンはもしかしたらまずいかもしれないなんて思っていたのだ。
「完全に異能が抜ける、なんていうなら儀式の最後には既にその状態になっている筈」
世界を滅ぼす為の足掛かりが此処なら。ここで何がしたい?
レオンはその回答に心当たりがあった。
「あの刀だ」
持つ限り、死が遠退くと言うのならば必要だろう。持つのに資格が要るなら安心なのだが、恐らくはそう言うところまで考えた上で奪うだろう。それにレシアが一度だけ見せたあの魔獣を消し飛ばした攻撃は恐らくはその刀依存の攻撃。
間違いない。レオンは確信を深めつつ儀式場に走る。
「まにあってくれよ……」
間に合ったところで、役に立てるかは分からない。分からないが、その場にすら居ないというのは嫌だった。
「お、来ましたよ。あれがレシアです」
「へぇ、あれが神子様か」
豪華な和服だ。時子はそう思った。
衣装に本人が負けずにいる。すごく似合っているように思えた。
「可愛らしい子ね」
「小憎たらしい位に、ですけど」
「手、振らないの?」
「どーせ………無視ですよ」
「ま、そっか。何も言わずに別れたんだもんね。特に何の争いもなかったあの男がおかしいんだ」
「………」
トーコは時子がそう言いながら振り返ってその場を離れようとした一瞬の内に小さく手を振った。
例え認識されなくても、少しくらいはしておくべきかと。そう思ったんだ。
その後、ついに舞が始まる。
一つの旅の終点が、もうすぐそこまで迫っていた。




