オカマ店主のいる武器屋
~武器屋~
「すいませーん、矢って売ってますかー?」
レオンは入店早々店中に聞こえるだろう大声でそう言った。
その声でレオンの声に気付いた店主がにゅっと奥から身をくねらせながら出てくる。
「あらぁー可愛らしいお子さまねぇー!! でもぉ、お子さまに売るような物は置いてないのヨねぇ。ここは力の強いナイスなオトナが使うような武器しか、売ってないのヨ」
うげ、オカマかよ。顔を近付けてきたマッチョな男店主に対するレオンの反応はそんなところだ。
「矢、僕でも使える位のは無いんですか? 弓は有ります」
「矢ぁねぇ。ま、あるケド……弓の大きさが分かんないなら、どうしょうも無いわねぇ」
「ちゃんと持ってきてますよ」
レオンは弓を見せた。
「………うっそだろ……千里見通穿弓だと……」
「………??」
「おい、事情が変わった。撃って、それをワタシに見せろ」
店主の目が据わったものに変わる。レオンは頭上の猫が一切寛ぐ姿勢を変えないため、びっくりはしたが、怯えたりはしなかった。
「い、良いですけど、まだまだ半人前も良いところで」
「良いから、撃って、見せろ」
「的まで大体25メートル……」
町のはずれにある射撃の練習場に連れてこられたレオンは何の変哲もない木の矢を渡された。
「……と言うかそこで見てるんですか?」
「あらぁ? お邪魔かしらん?」
「いえ」
隣にどっかりと胡座をかいたマッチョ店主が視界にちらちら入って邪魔ではあるが、レオンはそう答えるしかない。
「じゃ、撃ちますよ」
「いつでもどうゾ」
矢を弦に掛け、一射。
違うことなく、的の中央に突き刺さった。
「ま、準備運動ヨね」
「え?」
マッチョ店主が地面に手を触れると店主とレオンが立っている場所と的の間の地面に不思議な紋様が浮かび上がる。その紋様が光を放つと的が遠ざかった。
「うぇぇえ!?」
「距離可変射撃場よ? 何か驚くことがあったかしらん?」
どうやら普通のことらしい。一度深呼吸をする。
「……知らないようだから言うケド、別に射撃場の空間が歪むだけで他に迷惑はかからないからネ?」
らしい。
刻印術は凄い、と言うことか。レオンは一本の矢を受け取り的を見る。四倍ほど離れたようだ。
「あれ、射程圏内かしらん?」
「………まあ、多分」
レオンが構えて弓に意識を向けると、そこにないはずの線が大量に見えるようになった。それが軌跡の予測だと言うことはレオンには、はっきり分かっていた。
「合格」
「へ?」
マッチョ店主が撃つ寸前にそう言ったせいでレオンは矢から手を離してしまい、空へと矢が飛んでいった。
「だって当たるでしょ? この距離」
「いや、えっ?」
「んもぅ、合格って言ったんだから喜んでヨー?」
「や、やったー??」
レオンは訳も分からないまま、両手を掲げて喜ぶポーズを取った。
「少なくとも君くらいの身体じゃ、まっ。見つからないこと前提の矢ヨネ……この子達をそれぞれ20本………と言うか金はあるのよネ?」
そういって五種類の矢を置いた、まあ見た目はほとんど変わらないので、色付けで区別されていた。
「ひとまずは」
と言って、レオンは表示通りの金額を出す。さすがに簡単な文字程度は読めるようになっていた上に、物価もそこそこ分かってきていたので、見たまんまで足りるだろうと。
「あらぁ?」
「っ! どうかしたの?」
突然出したお金を見て店主が声を上げる。少なかったかな、とビックリしてしまったがそれは違った。
「一割引いとくわヨ? ちゃんと腕のある人に使われるんだから、最初はね」
「……ぁ、ありがとうございます」
「また来てネ?」
………ぐぇ。
レオンは愛想笑いをして足早に店を後にした。
「可愛らしい子だったわネー……」




