独断専行
「はぁつっかれたぁ!!」
「子供だと侮られて金が貰えないと言うこともなかったですよね」
「あー、うん。多少相場より安いって言ってたくらいだし、良い人だった……よね」
「まあ、少ないは少ないですけど、ボードンがくれた額が額なんで、そう少ないわけではないんですよね」
巾着袋に入れて渡された金額は少なくはなかった。確かにボードンに渡された十分の一程度しか渡されはしなかったが、普通の範疇である。
凄い良い人だったんだな、とレオンは寝ぼけ眼を擦りながらベッドに飛び込んだ。
体力は肉体依存なのだ。どんどん重くなる瞼に逆らえず、レオンは眠りについた。
「さて」
反してトーコはかなり肉体を強固に作っている。精神性は元のまま。眠らなくても済むようにも、ちゃんとしてある。普段はちゃんと寝るし徹夜し続けると生活に支障はでるかもしれないが、普通の人間よりはそう言ったものへの耐性は高い。
だってこれでも神の器ですし、とトーコは呟いた。
猫が睨みつけるようにトーコを見る。
「……ちょっ、と狩猟ギルドに顔出すだけですよ? 来ます?」
───行くものか。一人で行ってこい神擬き
「口悪いですねー、全く誰に教えられたのやら」
───死ぬなよ
「へ? いや、単に依頼見てくるだけなのにどしてそんな物騒な話に……」
トーコとしてはちょっと危な目な依頼に首を突っ込む気はあったのではあるが、無茶をする気は一切無かった。
ただ、猫は不安を煽るように言葉を伝えて来たようにしかトーコには思えなかった。
「んな煽って楽しいですか? 神気手に入れて調子に乗ってんじゃないですか?」
───はぁ。お前、やっぱりしばらく何もしない方が良い。いや、違う、寧ろレオンと関係なくして単独行動を……
「ぐちゃぐちゃ、何が言いたいのかわっかんないんですよ」
───………もう知るか、勝手にしろ。
「そーですか!!」
トーコは、もやもやしたまま、部屋を出ていく。
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何なんですかもう! あの生意気神獣は!!
イライラして宿を飛び出して、狩猟ギルドに行けば酒飲み共が喧しい。
怒鳴り散らしたい位に。でも、やらない。私は、 だから。
「この依頼、受けます」
そう受付に言うと、驚かれた。
「いいのか」
「良いんですよ、腕に自信はあります」
「ガキが、そんなことを言ってもなぁ? 自己責任、三日以内に一度顔を出せ。案内を一人つける。いいな?」
「何でも良い」
私は投げやりに答える。
受付の人が、付き添いやってくれる奴いるか、と依頼の内容と一緒に声を張り上げる。
そうすると私を見て酔っ払い共の笑い声が上がる。
哄笑。見下されたものだ。
私は だっていうのに。
「あたし、やっても良いよ?」
挙手したのは、首もとで切りそろえられた銀髪が特徴的な女性だった。日本だと成人前みたいな外見をしているが、耳が他の人より少し長く見える。
エルフ………?? おかしいな。
「おう、異人種のねーちゃんか」
その言葉で納得した。耳が長いのは異人種故か。受付の人よりも若いのでねーちゃん、と言うには違和感があるが長命な異人種なのだろう。
「そ、あたしがその子。面倒見てあげる」
「おう、助かる」
その後、すんなりと依頼を受領できた私達は元来た森の方角へと向かったのだった。
素手でやるわけはない。実は屋台から鉄串を十本ほど盗んできていた。明日返す。
「で、君は何でこんな暗くなってからこんな依頼を?」
【サイレントキラーゾンビの討伐】
「こんなもん、明らかに夜狙うものじゃない。バカでしょ」
「うるさい」
実際請けられれば何でも良かった。苛立ってヤケになっていることは認めよう。
「何なの、今更止めるの?」
「まさか。それやってくれた方が良いくらいだよ」
「止めないなら良いです」
ムカムカする。それと何だか落ち着かない感じがだんだん強くなってきている気がする。
「あたしにとってはどっちでも都合がいいからね、ははっ」
「見つけた」
鉄串を二本取り出す。見られているとかは関係ない。
「───時計よ、廻れ」
少女が突き刺すのには辛うじて使えそうな鉄の棒を取りだす。
予感はしていたが、ああ、間違いない。
「時計よ、廻れ」
お前に捕まるわけには行かないんだわ。




