第三十三話・「今更初戦闘って・・・」
もうこの世界ヤダ僕帰りたい。
いつかの時のように一人途方に暮れるマキナ。
しかしそれは仕方ないだろう。
(姉のイブキは魔法使いで4属性までの魔法を使えるという。多種多様で威力があるのもいい。
でも狙ったところに当たらない。
真後ろにいた俺に魔法当ててくるのはもう才能だろ・・・。
妹のカリンは軽業師とかいう盗賊的な戦闘スタイルでダガーやナイフの扱いが上手い。手先も器用で動きが機敏なのもいい。
でも腕力が無さ過ぎて傷が浅すぎる。
何の変哲もない木を全力でナイフで刺して自分の手だけを痛めるってもう才能あるなしの問題じゃねえよ向いてねえよ・・・)
そう。
あの後エルフ姉妹の戦闘力や技を見せてもらったのだが、ぶっちゃけ予想以上にひどかった。
10回魔法を撃って11回狙いを外し(うち一回はマキナに向けた八つ当たり。なおそれすら外した模様)的の方にキレるイブキと、訓練用のカカシ相手にわずか10分で手を痛め涙目になるカリンに流石のマキナも頭を抱えていたのだった。
(いや勝てねえだろぉ・・・!つーかそもそもなんでこれで魔王軍に挑もうとしてる訳?もし軍に入れたとしてもすぐ死ぬ未来しか見えねえぞ・・・)
自暴自棄気味に心の中で叫びつつも、まだ希望があるとすれば、
(この剣か)
自らの手の中にある何の変哲もない剣を見つめる。
この剣自体は今さっきそこで買ったものだ。(39800円)
しかしマキナの身体能力は実際かなりの物だった。
・・・普通の人レベルではあったが。
(剣を振り回すくらいはできる俺が前衛、魔法つかいのイブキが後衛、軽業師のカリンが遊撃ってのがセオリーだが・・・衛兵と戦うには俺も含め個人の技量が足りなさすぎる。連携と策略でカバーするほかないな)
まあ何も思いつかないが。
ちなみにだが今姉妹は宿の方で寝ている。
突然夜になったとはいえ太陽が沈み暗くなると生物は眠くなるらしい。
眠れない、情報収集をしなくてはならない、ふとした拍子にフードが取れると人間だとバレるという三重苦を背負ったマキナは一人で散歩中なのだが。
どうやら政樹会軍とやらに行くのは明日になりそうだった。
やれやれ、とため息をつきつつ木をくり抜いたような店を見て回る。
そのどうしても確認したかったことの一つを見ていると、突然後ろから目隠しをされた。
「・・・っ!?」
「誰でしょうか?」
「・・・・・・カリン?」
「正解です!」
悪戯気に笑う彼女にジト目を向けると、慌てたように、
「え、えと、イタズラすると仲良くなれると聞いたものでして・・・」
「まあ間違ってはいないな。で、何かあったのか?」
「いえ、なんにも。マキナさんがいつまでたっても部屋に来ないので探しに来ちゃいました」
「別に待ってくれてなくてもいいぞ。ちょっと見たいものがあるだけだからな」
「・・・それ、私がついて行ったらダメですか?」
「うん?ダメではないけど面白みは無いぞ」
「じゃあついて行きますね!」
「?まあいいけど」
カリンの不自然な笑顔を不思議に思いながらもマキナは歩き始め、その横を小走りでカリンが続く。
「・・・・・・えーっと、何してるんですか?」
暫くしてカリンに尋ねられ、ようやくマキナは立ち止まった。
「いっただろ?面白くねえって」
「面白い面白くないっていうか・・・さっきからお店に入らず外から覗くだけ覗いて、繰り返すこともう1時間にもなりますよ?」
マキナがしていたことは単純、覗き見である。
買う気などは一切ないが何を見ているかと言えば・・・
「値段だよ」
「え?」
「価格を見て、この街の物価を見てるんだ。しかもほとんどの店に値段を引き上げた跡が残ってる」
予想通りに。
その言葉を飲み込みマキナは考える。
「そりゃそうですよ、戦争中なんですから」
「・・・しかしだ。そのなかでも一部、明らかに安い海産物が売られている店がある。当然客足はそちらに向かうだろうな。これがどういうことか分かるか?」
「え?ありがたいじゃないですか」
困惑した顔で首を傾げる彼女を曖昧な笑いでごまかし、踵を返すマキナに慌ててついて行くカリン。
「よ、よく分からないですけど、宿に戻るんですよね?」
「そうするよ。な?ついてきた意味なかっただろ?」
そう言うとカリンはなぜかものすごく安心した表情をしていた。
「・・・?何をそんなにほっとしてるんだよ。エスコートしなさ過ぎて怒るならまだしも」
「・・・・・・私たちの弱さに呆れて一人で政樹会軍に向かってしまうのではないかと思いまして」
「・・・・・・え?」
「あっ、ご、ごめんなさい失礼ですよねそんなこと!」
ボソッと言った言葉は彼女の本音だと感じさせた。
「・・・いや、正直に言って予想以上に弱いとは思ったよ」
「で、ですよね・・・」
「でも悩んだって仕方がない。今ある手持ちのカードを最高のタイミングで切ればやってやれないことは無いはずだ。そこを考えるのが俺の役目なんだからカリンは安心してくれていいぞ」
「・・・私も自分が非力すぎて攻撃が弱いってことは自覚してるんです。でもどうしても、どうしても私はこの戦い方をやめたくはないんです。こんな変なこだわりで負けてちゃ笑われても仕方ないですよね、ははっ」
「それがただのこだわりなら捨てるべきじゃないかな」
「・・・・・・・・・」
「でも、それが矜持なら、絶対に捨てるな。周りから何と言われようとな」
「矜持・・・?」
「こだわりと矜持は全く違う物だ。こだわりなんてのは所詮遊びだよ。いつでも捨てられるものでしかない。でも矜持は、それ自体が生きる指標となるものだ。だから例え命の危機であっても、それを捨てたら必ず後悔することになる。カリンが持つそれはどっちなんだ?」
「・・・私達姉妹は子供の頃、とある人たちに命を助けられたんです。『花戟義賊団』、聞いたことありますか?」
まった新たな知らないワードが・・・とうんざりしつつ、聞き返す。
「いや、知らないな。有名なのか?」
「ええ、かなり有名だと思いますよ」
「・・・ま、まじで」
「あ、でももしかしたら義賊とかに興味がある人だけしか知らないんですかね?しかもそのメンバーは種族の壁を超えていて、リーダーは人間でしたし」
「義賊ってことは、悪徳な連中から金品奪ってってことか?」
「それだけじゃなく、未知の洞窟や遺跡の探索とかもしたって言ってましたね。そしてその花戟義賊団のリーダーの戦い方が美しくてきれいで・・・でも連れて行ってほしいって言っても断られて。
その時に言われたんです。『私と同じくらい強くなったらまた一緒に旅をしようっ!』って。でも・・・最近は全く話を聞かなくなってしまいました。一部では死んだ、なんて噂もあります。
でも私がリーダーと同じ戦い方で勝ち続ければきっとまた会いにきてくれるはずです!あの人たちが死んだなんて、ありえないんです!!」
「・・・そうか」
カリンだって分かっているのだろう。
その花戟義賊団に何か悪いことがあったということくらい。
突然噂話がされなくなったことからも、死亡したか捕まった可能性は非常に高い。
しかしそれでもなお、命を救われたという恩義は消えないらしい。
「じゃあ尚更衛兵にくらい勝てねえとな」
「実際、勝てるのかな・・・」
「勝つんだよ。明日になれば分かることだけどな」
そう笑いながら宿に戻る。
・・・男女3人が一部屋になることを宿屋の主人に怒られ寒いロビーのソファーでボーっとすることになる事をこのときマキナは知らない。
「・・・だ、大丈夫でした?」
「あーまあ大丈夫だよ。くっそ寒かったけどな・・・心的な意味で」
「災難だったわねぇ。ま、宿代は私たちが持つから」
翌日。
とはいっても時間にして数時間後、太陽が出てきたため起床したマキナ達は政樹会軍を目指して歩いていた。
ちなみにマギアの方の様子も見てみたところ、道の半ばで馬車を停車させ睡眠休憩中だった。
「そうだ、一応聞いておきたいんだけどイブキとカリンは政樹会軍の試験に一回行ってるんだよな。どんな感じだったんだ?」
「どんなも何も普通よ。こちらと同じ人数分衛兵が出てきて、それと戦う。それを観客が見てる、みたいな」
「観客?」
「はい。衛兵と戦う場所は円形のフィールドでその周りに観客席があるんです」
丁度闘技場みたいなもんか?
そう考えながら続ける。
「そういえば笑われたとか言ってたな。その観客にか?」
「そうよ!!あいつらほんっとうるさいの!!あいつらに向けて魔法ってやりたくなるわホント!!」
「はは・・・、まあ野次を飛ばすためにいるみたいなところあるしな。そういう連中は」
「お金のためとはいえ戦わずにああいうことする奴ら信じられないわ・・・!」
キレるイブキの言葉に引っかかる点を感じたマキナは聞き返す。
「お金のため?どういうことだ、雇われてるのか?」
「賭け事ですよ。試験をしていないときはモンスターと挑戦者を戦わせてるんです。まあ私たちも同じようなものですけど」
エルフの国にもそういうことがあるのか。そう考えているとカリンの言葉にイブキが反応した。
「同じようなものって言っても格が違うわよ格が!!」
「お金を得るために体を張ってる点では同じ穴の狢じゃない?たぶんマキナさんもそうですよね?」
「・・・・・・まあ国のために体を張ってるんだから俺たちの方が上だと信じたいな」
やはりだ。間違いない。
この国は・・・も う 終 わ っ て い る 。
国家戦争の勝利をほぼ確信したところで。
「さて、着きましたよ。政樹会軍試験場、又の名を『ヴィレスコロシアム』」
巨大な円形の建造物。そう思ったマキナだが、外壁を見てすぐにその考えを否定する。
これは、超巨大なキリカブだ、と。
よくよく見れば壁には樹木と同じように枝がある。
つまりはキリカブをお椀型にくり抜き、利用している施設なのだろう。
どこまでも木が好きな種族である。
感心して見入るマキナに、
「おや?これはこれは・・・この前の」
しがわれた老婆のような声が聞こえてきた。
「・・・!何か御用でしょうか?」
「ふぉふぉふぉ、そう身を固くするな。ワシらはただコロシアムを楽しみに来ただけじゃからのぉ」
そう話しかけてくる老婆は荘厳な杖を持ち、傍らには幾人ものSPのようなエルフたちが立っている。
その横には。
「見たことがあると思ったら前試験を受けた人達だと記憶してるんだゾ。修行して来いって言ったはずだけど準備は万端なのか?」
だぼだぼの服を着たというより服に埋まっている背の低い女の子。
誰だこいつら・・・。そう思うマキナを他所に会話は進む。
「これでも少しは訓練しましたし、今回はマキナさんと連携を重視して戦うつもりです!」
「うん、心意気は買うゾ。うちの軍に入るなら連携が最も重要だからな。イブキとカリンと・・・ってマキナ?」
その言葉を発した瞬間怪訝な顔になる女の子。
(・・・こいつらまさか)
マキナの方もそう直感した。
エルフの国の権力者。
だとするならソレイン評議国のマキナ、というのを知っていて当然だろう。
その名前を名乗るフードをかぶった男。怪しまれるわけだ。
(チッ、名乗る時偽名を使うか迷ったが・・・使うべきだったか?いやしかし)
黙り込み思考を走らせるマキナ。
それに対応するかのように女の子の方も黙り込む。
それをしり目に老婆は話しかけてきた。
「ふむ、新たな仲間じゃな。ワシは元老院の一角ラングア=エスケープじゃ。期待しておるぞ?」
「・・・・・・・・・・・うちの名前はベーゼ=サレイクゥン。政樹会の副長をしてるんだゾ。もしよかったらマキナ、君とは一度話がしたいんだが」
元老院、政樹会。つまりこの二つは政党のようなものか?
政樹会軍とかいうのも政樹会の方の軍・・・。
首脳会議の企画を送って来たのがどちらかは知らないが・・・ここはベーゼの誘いに乗るべきか。
「・・・・・・・・・・・政樹会のベーゼさんが私に何の用なのかは知らないですけど、試験の前の時間で済むくらいなら」
「・・・・・・・・・・・いや悪いけどそう簡単には終わりそうもないゾ。試験が終わったら呼ぶから来てほしい」
「・・・・・・・・・・・ええ、了解しました」
闘技場に入り、控室に案内された後、猛然とイブキが話しかけてきた。
「ど、どういうこと?!もしかしてマキナってすごい人?」
「いやいやそういう訳じゃないけど・・・まあ勝ったら教えてあげるよ」
「引っ張りますね・・・」
「とりあえず勝つのが先決だしな。じゃあ作戦を言うぞ」
そう言うとしぶしぶといった調子で聞き始める姉妹に苦笑いしつつマキナは話し始める。
「まず出てくる衛兵は3人だ。まず開始した時点でイブキに魔法を撃ってもらいたい。それも、コロシアム全体にな」
「ぜ、全体?」
「ああ。訓練したとき、イブキ的の方にキレてただろ。あれはある意味で正しいんだよ」
「え?どういうこと?」
「あんな遠くに的があるから駄目なんだ。どこに当たってもいいような状況なら万全の力を出せるだろ。だから、全体。外すことが無いんだから問題ねえ」
「・・・でもそれ観客の方にも魔法行きません?」
「まあ何とかするんじゃね?」
くっそ投げやりな言葉にカリンは若干引いたが、黙認することにした。
「で、カリンは開幕で走って、イブキの魔法にたじろいでいる間にひもで相手を縛れるだけ縛ってほしい。それからも逃げたやつを俺が倒すよ」
おそらく試験始まって以来ここまで戦わない挑戦者はいないだろうけど、ま、勝てばいいんだよ勝てば。
そう心の中笑う。
「・・・げ、ゲスイわね」
「これでもうまくいくかは分からない。失敗したら作戦を変えて分断する、けどまあこれはその時に指示するよ」
そう話していると。
「君たちが俺たちの次の挑戦者か!!」
槌を持った青年が大声で叫んできた。
それに追随するように女の子もついてくる。
「ああ、そうだけどお前らは?」
「アルバス=ファシネイトだ!こちらは妹のヘンリ=ファシネイト!とくと俺たちの戦いをみるといい!」
「おにいちゃんうるさいよぉ・・・。ごめんなさいうちの兄が・・・」
また騒がしい奴らが・・・そう思いながらも自己紹介をする。
「俺はマキナ、後ろの二人はイブキにカリンだ」
「イブキにカリン・・・む、まさか前に負けた者たちか!」
「・・・っ!!そうだけど・・・」
イブキが言い返す前にアルバスは続ける。
「がははははっ!一度まけようともやり直す根気は嫌いではないぞ!」
「ご、ごめんなさぃ・・・。こういう兄で・・・」
「・・・へえ。笑う連中だけじゃねえんだな」
「当たり前だ!自らは戦わずあざける連中など捨て置け!」
そこでアナウンスが響いた。
『さあ今回初の挑戦者はファシネイト兄妹!衛兵2人を倒し、彼らは入隊できるかーーーーー!!??』
「む、出番のようだ!では今度は軍で会おうぞ!」
「えっとぉがんばってください・・・」
二人がフィールドに出ていった後。
「ああいう人たちも、いるんですね」
「だな。悪いところばっかり見られがちでも、努力を見てくれてるやつもいるんだよ」
「・・・勝ってほしい、ですね!」
「じゃ、応援しに行こうか」
軽い気持ちで控室から戦闘を見ることにする。
円形のフィールドにはすでに大きな槌を持ったアルバスと、風を纏うヘンリの二人がいた。
対戦相手はまだらしい。
(まあ衛兵だろ?銀の甲冑でも着たエルフかなんかだろ。もしかしたらマキナの腕力でも押し切れるかもな)
そんな楽観視は。
直ぐに崩れた。
ずっどおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんんんんんんんんんん!!!!
と、強烈な破撃音とともに、向こう側の扉が壊れ。
「・・・・・・・おい、エルフの国の衛兵ってのはここまででかいのか?」
思わず我を忘れてそんなことを口走ってしまう。
が、イブキもカリンもそれどころではなかった。
なぜなら現れたのはイノシシのような顔をした10メートルはあろうかという二足歩行の怪物。
手には赤い液体が滴る棍棒を持ち、棘の付いた簡易的な鎧を着ている。
「・・・なん、でッ!あいつがここに・・・!!」
フィールドにいる妹のヘンリ=ファシネイトに至っては腰が抜けてしまったのか崩れ落ち、失禁すらしている有様で。
そんな中ぺたっと地面に座り込んでしまったカリンはガタガタ震えながら、
「バーサーク。昔私たちの村を襲った怪物・・・どういうこと、あいつは花戟義賊団が倒したはずなのに・・・!!!」
観客はそんなこと知ったことではないというかのように盛り上がり、止める気配すらない。
無抵抗なヘンリに向かって突進しながら振りかぶった棍棒が勢いよく振り下ろされ。
つい、体が動いた。
ガキイイイン!とマキナの剣とバーサークの棍棒がぶつかり。
「・・・・ッ!!!お、も・・・・!!」
受けきることなど不可能だと遅まきながら感じたマキナは何とか軌道を逸らせる。
しかし遅すぎる。
逸らすことは成功したもののマキナの手はそれだけで悲鳴を上げていた。
(つ、つええ・・・ッ!!)
今までマキナが、マギアが経験してきた戦いはすべて力押しで何とかなるものだった。
故に。
(初めての格上との戦闘・・・!すげえ絶望感だな・・・ッ!!)
逃げるという選択肢などない。
マキナは絶望的な戦闘を、開始した。
寒さと暑さなら寒い方が好きなそよ風と申します。
いやそれにしても寒すぎました。
何がって、試合場がです。
3度って!!なにそれ凍え死んじゃうよ!!
それを憂いた先輩がカイロを買って来たのですが、袋から出して振っている間に太陽が出てきて暑くなり不要になりました。ナンテコッタイ
暑いというか、日光が当たるところは暑く日影は寒いという状況でした。
まあ晴天なだけよかったです。
・・・ここまでで察してくれているかもしれませんが、そうです!今回は何も起きませんでした!!
やった!私は疫病神とかじゃなかったんや!
けど何だろう、ちょっと寂しい!!
そんな複雑な気分で帰ってまいりました。
では今回はこの辺りで。
ここまで読んでくださった方に感謝を。
暫くはマキナさん回になりそうな予感。
ちなみに今回出てきた人たちはひとりを除いてモブです(断言)




