第十九話・「予想通りにいきそうとか言ったやつ出てこい!・・・あ、俺か」---(四日目中編)
4日目の朝。
「ふぅ。暇すぎるわねこれは・・・。テーブルクロス引きでも練習してみようかしら」
ミチの宿の一階で一人だらだらと留守番をするゾンビはつぶやいた。
何やら今日はマキナ王子とかいうのの、国民へ向けた大規模改革の演説があるらしい。
おかげで朝早くから叩き起こされてしかも留守番を任されるとかたまったもんじゃないと思っている。
せめてゾンビも行けるんだったら暇ではなかっただろう。
しかし、恵たちもミチもどうしても聞きに行きたいと言っていたし、アルティアナは昨日の夜から家財道具取ってくるとか言ったっきり帰ってきてないし、マギアは深夜起きてたらしくて寝てるしで店を任せる人材がゾンビしかいなかったのだった。
「ま、アルティアナがいてもマギアが起きてても、あいつら店番できるようには思えないから必然だった気はするけどね・・・」
というかよ、とテーブルクロスを用意しながら愚痴る。
そもそも話では魔法で王国の首都に流すらしいし、見に行くならこんな宿に来る人はなおさら少ないはず。じゃあ私いらなくないかしら?
そう思いながらコップを3段積みにして、さあ引くぞ、といったところで、
ズドッッッ!!ボンッ!!
と、言う謎の爆発音が外から聞こえ地響きがした。
あぶなっ、倒れるところだったじゃない!と怒りながら、店の外に出ると。
アルティアナがいた。いや倒れていた。
下半身と上半身が分かれた状態で。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
アルティアナの体は黒焦げになっていて、肉が焦げたようなニオイが立ち込める中、道の奥のほうから黒い羽が生えた黒髪白衣の女が歩いてくる。
「いやいや、ほんとにしぶといとかいう次元じゃ無かったワ。どれだけ腕や足を焼いても破裂させても切り離しても、次の瞬間には元通り、同じように笑いながら全身凶器にして襲ってくるんだもノ。でももうそれも終わったワ」
ゾンビは取り敢えずこの女がアルティアナを傷つけたということだけを理解し、アルティアナを背にして女と対峙する。
「あー悪いけど、この子は私の仲間・・・いや仲間ではないわね、ただの知り合いだから、黙って見過ごせないんだけど?」
「あらラ。そうなの、じゃあワタシも名乗っ・・・・・・・・・・・」
突然女の動きが止まる。信じられないものを見たかのように。
「えええぇぇぇっぇぇ!?ゾンビちゃんとぉアルティアナちゃんはぁ同じ人に所有される恋敵だよぉ?ねっ?ねっ!?」
そこにはいつものように笑う五体満足のアルティアナが立っていた。
「・・・・・・そういえばマギアに石臼で挽かれたって言ってたけど、まさか全身粉々にされたの?」
「んー??そおだよぉ?」
不死身かこいつは・・・と考えるが、当然かもしれないわねと思い直す。あのマギアに敵対して生き残ったのなら、ただ強い程度じゃないのだろう。
そう納得するゾンビとは裏腹に女は驚愕を隠せないらしい。
「・・・さすがに、さすがにそれはおかしくなイ?即死した後に生き返るとか尋常外通り越してるワ。研究したいわネ。その不死性の秘密ヲ!」
「で、あんたは誰なのよ?」
「ワタシは【臨死魔王】。悪魔の中でも最先端を行く科学者ヨ」
「・・・魔王、ね。もうめんどくさいからマギアたたき起こしたほうが、
そう宿に戻ろうとしたゾンビの腕をアルティアナは、がしっと掴んだ。
「・・・・・・なにかしら?」
「それはこっちのセリフだよぉ。恥ずかしくないのぉ?こんななんちゃって魔王にまぎあんを呼び出すの」
「でも私死にたくないし。いくら手足がもげても大丈夫だとはいえあんたと違って私は脆いんだから」
「まぎあんに見捨てられたら?それは死ぬよりも怖くない?」
ここで初めて、ゾンビはアルティアナの本性を見た気がした。
本当に自分が決めたことに関しては守る人なのだと。
「・・・別に私はそうでもないけど?」
「そう。じゃあ私がまぎあんもらうから口出し、
「けどこの程度の魔王(笑)に苦戦するのもね。協力しましょうか?」
「・・・・・・若干残念だけどいいよぉ!」
「やれやれ、さっきから聞いてれバ・・・。さすがに舐め過ぎじゃないかしラ?」
その瞬間、地面が凍り付く。パキパキと足を這い上がってくる冷気を無視し、ゾンビは鋏を振る。
・・・魔王の女をアルティアナの目の前に転移させるために。
「「??!」」
「ほらほら、戦えばいいじゃない。まあ近距離ならどう考えても」
「アルティアナちゃんがかぁあああああつ!!」
右手と左手が内側からはぜたかと思うと、のこぎりと斧に形を変え、抱きしめるかのように魔王の女に遷音速で攻撃する。
が、さすがに魔王。手に持つ本から紫の帯が出てきたかと思うとアルティアナを締め上げた。
「青髪のあなたは転移魔法かしラ?もう、迷っちゃうじゃないノ・・・」
そのまま手に巻き起こる炎をゾンビにぶつけようとするも、その間に鋏を2回振ったゾンビの、金属でできているような大きいハリネズミと4つの首を持つ大蛇に阻まれる。
チッと舌打ちをする魔王だがその後ろで、拘束されているのをものともしていないように笑うアルティアナの背中から、10本もの剣や槍が一斉に飛び出し、魔王のいた場所を串刺しにするが、一瞬早く避けていく。
と、思ったとき、景色がいきなりずれ、魔王の足に剣が刺さった。
「やっぁるうゾンビちゃああん!」
「殺さないようにすんの大変なんだけどね!」
魔王をアルティアナの攻撃の軌道上に転移させたのだ。
余談となるが、ゾンビの転移魔法は、対象の生命力の多さと対象を飛ばす距離に比例して消費する生命力の量が増えていく。ゆえに感覚的な意味で飛ばすと生命力の量が大体わかるのだ、が。
(マギアやアルティアナに比べてはるかに低いような・・・?本当に魔王なのかしらこいつ)
「・・・さすがに二対一は厳しいかしらネ?次の機会にまた来ますカ」
「逃げられると思ってるのかしら?」
魔王が白衣を翻すと、すうっと姿が消えた。
「は・・・っ?なにあれ見たことないんだけど」
「んなぁああ・・・まあ逃げるんだったらまぎあんにこうげきすることはないかなあ?じゃあいいかあ」
そうして逃げ延びた【臨死魔王】は、山のほうまで逃げ延び、次の戦略を練っていた。
「いやいや、今日はしてやられたわねェ。正攻法じゃむずかしいかしラ、じゃあ毒あたりを持ち出しテ・・・、それに人質とかも有効かもしれないワ。ふふふ、解剖する時がたのしみ・・・?」
「貴様が【臨死魔王】か?」
そこにいつの間にかいたのは、赤い長髪をまとめ和服を着ながら刀を持つ男だった。
「ええそうだけド・・・?なにかよ
きんっ、という音がした。
その瞬間、【臨死魔王】の意識は、最後の男の言葉を聞き、
「木っ端悪魔風情が。魔王を名乗るなど烏滸がましい。死を以て償え」
周りの木々すべてと自らの体が一太刀で切られたと理解し、闇に沈んでいった。
そのころ、マキナは伝達魔法を使用しているルーレを伴いつつ、バルコニーで叫んでいた。
「 こ の 国 に い る 貴 族 は 全 員 解 雇 !
荷 物 ま と め て 帰 っ て よ し ッ ! 」
この言葉に、下から驚愕と悲鳴の入り混じる声がこだましてくる。
「理由は簡単である!この国からは今現時刻を持って、身分という概念を無くすからだッ!
そしてこれは王族も同様である!
ゆえに身分が高かったからと言って聡明さがなかったり倫理観に触れることをした者を国の役人として使うことはまずない。
しかし逆に言えば、どんな生い立ち、どんな元身分、どんな性別であっても『この国のために働きたい』という強い意志さえあれば歓迎しよう!
今あるソレイン王国は、ソレイン評議国と名を改め、国の役人を全国から募集する!
そのために貴族諸君には一度やめてもらい、ほかの候補者と同じ条件で応募してもらおうではないか!」
「はっ、ばからしい。私には関係のない話だろう?」
「なぜそう思うんだヴィレッジ?」
「・・・私を相手にしてただで済むと思うなよ?」
「ははっははは!面白い冗談だな」
そういうとマキナはバルコニーから無数の紙をばらまいた。
「これはヴィレッジの組合から抜け、我々の組合に入るという誓約書だ」
「・・・・・・・は?」
「もう貴様のところには人一人も残ってはおらんよ。さてヴィレッジ、もう一度聞かせてもらえるか?貴様を敵に回すと、どうなるのかな?」
この圧倒的なパワーゲームに、ヴィレッジだけでなくほかの貴族まで黙り込んだ。
やっぱり一人見せしめにすると重みが変わるよなぁ、と人ごとのようにマキナは思う。
「・・・さて、話を戻そう。これから役人の公募は常に行う。ぜひ参加してくれ。
では、ソレイン評議国として生まれ変わったこの国がこれから主に行おうことを掲げておこう。
まずは学校の設立。子供への教育がなくては国の未来などあるはずがないからな。
次に新建国記念日として、金貨を国民一人一人に与えよう。均等に、な。
そして最後に、魔王軍についてだが、これを1年以内に打倒するッ!!
信じられないというものいるかもしれない。
だがしかし、4日前に私が言った言葉、あれに嘘があっただろうか?
一切なかったはずだ。故に今回も同じように有言実行するッ!
では終わりとして、少しだけ私の考えを言わせてほしい。
魔王軍に属する悪魔から見ても、ドラゴンから見ても、エルフから見ても、我々ソレイン評議国は戦闘において弱い国だ。
しかしだからと言って他の国と関わり合いを持たない理由にはならないとは思わないだろうか?
確かに腕力だけ見れば他国は恐ろしいかもしれない、だがそれがどうした!?
国家間であろうと個人間であろうと、真に力を持つ物、それは知性だッ!
協力または敵対関係を築いていく上で、知性ほど重要で代えがたいものなどない!
そんな生き抜くための知性が備えるべき我々が、種族など見た目など気にするべきだと思うか?
否だッ!
ゆえに私は諸君らの先駆者として、
この世界のすべてを併合して見せるッ!!」
そう叫び、歓声を浴びながらマキナは部屋へと戻るのだった。
(・・・これっ・・・・・しんどい・・・っ!!!!やべえ今になって微妙に震えてきたぞ・・・)
あれ程までの人の前で演説などしたことがないマキナは胃に割と深刻なダメージを受けていたりした。
そこにルーレが近づきねぎらってくれる。
「お疲れ様です、ご主人様。堂々たる宣言でしたよ」
「・・・あとは、公約を守りながらソレイン評議国が安定するまで少し待って、外交か。とりあえず、少しは一息つけそうだな・・・」
「うむ、いったことは守らねばな。しかし王という存在が消えるというのは、すさまじい革命だな。これからどうなるのか俺には見当がつかん」
「でもきっと大丈夫ですのよ。だってお兄様は最強ですものっ!」
「シュー姉、それはきっと兄上に余計な期待をかけることになると思うのであるが・・・」
「ははっ、まあ我々もサポートしようじゃないか、なシャル?」
「うん、仕方ないよね。お兄ちゃんはお世話してあげないとだめだめなんだから」
そんな家族の会話に王妃とマキナは目を合わせ、笑う。
(まあここまでは予想通りの予定通り。案外順調にいくんじゃないか?)
そんなマキナの楽観的思考は。
バンっとドアを開けて入ってきた執事の言葉にかき消されることになる。
「大変ですっ!魔王軍のトップと名乗る【東雲の魔王】という悪魔が、この国のトップと話がしたいと単身で乗り込んできました・・・っ!!!」
午前六時はまだ夜、異論は認めたくないそよ風と申します。
仮に夜じゃなくてもヘッドスライディングすればきっと間に合う範囲でしょう。
スーパー眠いけど。
さてここまで読んでくださった方に感謝を。次回は今日中・・・は厳しいかな?
アルティアナがどうしてここまで強いかは後々わかる・・・かも?




