第十八話・「母親、こえぇ・・・」---(三日目後半)
「では、お先に扉の前でお待ちしています」
「ああ。すぐ行くわ」
いつものように笑いながら、ルーレたちに国王たちの待つ部屋の前に待機するよう言って、マキナは一人で自室のテラスに出る。
陽が落ち始めた空は少し赤みを帯びていた。
それを眺めながらマキナは、全力で自問自答していた。
(行ける。絶対に行ける。国王って言っても同じ人間じゃねえか。でも国王は放っておいても・・・。いや何のためにここまで準備したんだよ、この国を改革するためだろ。だったら、身分制を無くすのだったら何が何でもやめてもらわないと面子が保てない)
ここが正念場だとは分かっている。国王を待たせていることも分かっている。
だが、不安は全く消えない。
ルーレたちを先に行かせたのは、上に立つマキナが心配そうにしていると余計な不安を掻き立てると考えたからだった。
いつかと同じように深呼吸をする。
「やるしかねぇだろ。そろそろ腹くくれマキナッ!」
そう自らに言い聞かせ、可能な限りいつものように笑いながら。
ルーレたちのところに向かう。
そこではランがもっのすごく心配そうにやることを確認していた。
ランでも心配するのなー、と思いながら声をかける。
「おいおい、ガチガチだな。別に資料をそれぞれ渡してくれるだけでいいんだぞ?」
するとルーレが心配そうに話し始めた。
「ランさん、もしよかったら私が代わりに・・・」
「いっいえ!これでもランちゃんはマキナ様に仕えるメイドの端くれっ!任せられた仕事を出来ないなんてメイド失格ですっ!やります、やらせてくださいっ!」
「はははっ、おう頑張れ。経験を重ねれば慣れてくるだろうしな。よし、ルーレ、ユリ、ノーブル、ラン。準備はできたか?」
「「「「はいっ」」」」
「・・・じゃあ、行くとしようか」
くるりと振り返り、マキナは大きな部屋のドアを両手で押し開きカーペットに従って真っすぐ歩いていく。
そこには玉座に座る国王らしき人物とセテプション王妃が、一段高い場所に座っている。
同じ高さのところのカーペットの左にはレンとシュレフィスト。
右側にはヘルザノア、シャルロット。
一様に皆が困惑した表情を見せる中、国王だけが愉快そうに笑いながら話しかけてくる。
「・・・はっはっはっ、いい。いいなマキナ。お前がまさか野望を満ちあふれさせた表情のできる人間だとは思っていなかったよ。戦場に向かうような勇ましさすら感じるぞ」
「それはどうも、父上。では、私が今日お呼びだてした理由も分かっておいでで?」
「第一王子であるお前が王である私を公の場で呼ぶ理由など一つしかないだろう」
「なるほど、流石は父上。お察しがいいご様子で」
チッ、思いのほか器がでかそうなおっさんだな、と思いつつ、王冠を指さしながら。
確定的な言葉を口に出す。
「なら今の時点で御退位していただいてどうぞ?」
「はっはっ、断るッ!まだまだ息子に超えられた覚えはないのでな!」
兄弟姉妹や王妃が目を見開く中、会話を続ける。
「超えられた覚えがない?果たして本当にそうですかね。現状の王国は父上が作り上げたものだ、これを今以上に改革することができたなら・・・私は父上を超えたことになるのですよね?」
「ふむ、なるほどな。そういう切り口も悪くない。しかし息子よ。いやマキナよ。王位継承権の争いに際して敬称など馬鹿らしくはないか?私のことはアルティベートと呼べばよかろう。当然そこまでの覚悟があれば、だがな」
「・・・・・・へぇ、思ってた以上に話が分かるな、アルティベートさん?」
「いい加減にしないかマキナッ!」
「貴方も息子をあおるようなことはおやめくださいな!」
レンはマキナに対して、王妃は国王に対して、ほぼ同時に怒る。
が、ことこの事関して国王もマキナも引けない理由があった。
「レン。これでも俺はかなり優しい方だと思うぞ?本気で王になりたい‘だけ’なら暗殺から謀殺までいくらでも手段などあるのだからな。それをしないのは話し合いで決着をつけた方が穏便だと考えたからだ」
「王妃。俺が王となったとき自らの父を必死に超えようと努力してこの座に就いた。それは今も同じだ。王の座程度、父親程度簡単に取れなくて何が国王かッ!」
周りの話など聞いちゃいない。そんな雰囲気を出す彼らは、話を戻す。
王妃の事、オーラって呼んでるんだな、と思いながら。
「さて、まずは現状の問題点からといこうか。王の権力だ」
「権力、とな?」
「そもそも王に必要な権力とは3つある。この3つは絶対に手放してはいけないものとされ、これを誰かに渡した瞬間に国が崩壊するような。それが何か分かるか?」
「王に必要なのは様々だろう?」
「いや、物質的なものだよ。商業権、農業権、工業権だ。ルーレ、なぜだか分かるか?」
「・・・ハッ!!?わたっ、私ですかっ!!??」
メイドにいきなり話を振ったことになんらかの思い当たりがあったのか国王は、にやつきながら、
「ああ、その子が王妃の話にあった可愛がっているメイドか?」
「・・・・・・・おいその話どんな紆余曲折を通って伝わったんだ?伝言ゲームじゃねぇんだぞ・・・。ルーレは優秀で頭がいい。だからもっと頼れるようにいろんなことを学んでいつか俺が行き詰った時に意見してほしいんだよ」
「ほう?懐刀と言ったところか?俺にもそういった友人がいる。大事にしたまえ」
「ええ、‘父上’。で、ルーレ分かった?」
「・・・っ!はいっ!
農業と工業だけでは財政難が起こって国の活動は止まり、
商業と農業だけでは技術の進歩がなくなって国の成長が止まり、
商業と工業だけでは食糧難が起こって国の存続が出来なくなります。
つまりこの3つは、いわゆる三位一体、支え合って成り立っているのものなので1つでも欠けているとだめ、ということ・・・ですか?」
「なるほどな・・・今の俺にはそれがない、だからダメだ。そう言いたいのか?」
「ま、有り体に言えば」
っていうかなんかルーレテンション高いな、さっきまで緊張してた風だったのに。
そう思いつつ、次の会話へと移る。
「実際に俺がスラム街まで行ったとき、その生活は無茶苦茶なものだったよ。奴隷階級は物すら買えないありさまだった。貴族の一部が紅茶の種類がどうのとキレてるときにもな」
「だがマキナ、具体的にどうする?どうあがいても踏み台になってもらう者というのは出てくるものだ。国というのは綺麗ごとで統治は出来ん」
「知っているよ。けど俺ならマシにはできるぞ?だって、すでにこの3つは、手に入れたも同然だからな」
「・・・・・なんだと?」
「ヴィレッジの組合のほとんどがうちの組合に入ったからな」
そう、驚いたことにソレイン商業組合へ入るための申請は多すぎて訳が分からなくなるレベルだった。
ヴィレッジの人望の無さがうかがえる。
ノーブルから資料を受け取り見せておく、と驚愕が広がっていった。
「兄上いったいどうやって・・・?」
「まあ、それは後で説明するよ。それに加えてだ、農業、これは他の国に対する外交で使える。エルフとかの食糧難は大変らしいからな。だから、国家の命令で明け渡しを要求する。魔王軍に勝つためにね。拒否すると売国奴になるから、拒否もできんだろ」
で、これがその明け渡し要求の原案だよ、とランから渡してもらった資料を見せる。
「ちょっ、ちょっと待ってくださいですの!まさかお兄様は他の種族と関わりを持とうとしてるって言ってんですの?!」
「そうだが?」
この答えには、国王も驚きを隠せないらしい。
「・・・ふむ」
「いや・・・というかそれをしないでどうやって魔王軍に勝つつもりなんだよ?うちだけで戦おうなんて馬鹿げてるだろ。
さて、最後に工業、これは‘電気’を生み出すことでエネルギー革命が出来そうだ。鉄製品とか風車のちからで碾き臼を作るとかは出来てるみたいだから出来るだろ」
「でんき?なんだそれは」
「すぐにわかるさ。遠くない未来にね。
さて、アルティベートさん。
お 前 今 何 が 残 っ て る の ? 」
笑いながら、挑発するように言うマキナに、
「いつまでも子供だと思っていたが、その時も外堀を埋めていたということか。
ははっはははっ!だがまだ王の座はやれんなぁ。権力があってもその先を見据えていないのでは」
ニヤニヤと返す国王。
「おいおい、まさかと思うがこの俺が何も考えていないとでも?先が見えていないのはどちらかな?」
「おう、聞かせてみろマキナ。お前の帝王学というのをな」
そこで。
今まで黙っていた女の子が、叫んだ。
「もうやめてよっ!!」
「え?」
シャルロットは泣きながら彼らに訴える。
「もうやめてよこんなっ!なんでお兄ちゃんとお父さんが喧嘩なんかする必要あるの!?王様がどっちとか喧嘩するぐらいならもうなんでもいいよっ!この王宮から出て行ってもいい、私は皆で仲良くできたらどこにいたって楽しいもん・・・っ!」
まったく理論的ではない。感情のみで言った言葉だ。しかし時には感情によって人が動くこともおおい。今のように。
気まずそうに眼をそらすマキナと国王を見て、王妃はシャルロットを抱きしめながら言う。
「・・・ふぅ、全く。マキナも貴方も頑固で理論的すぎるところは本当に似ているわね」
「いやいや王妃。俺はこの息子程ではないだろう?」
「え、私的には褒め言葉ですよ母上。・・・で、どうしますか父上?」
「うむ・・・。正直に言って悔しいが、息子よ。お前はすごい男だ。俺には思いつかないことをすでにいくつもやり遂げている。更には魔王軍を倒すためとはいえ、他種族との同盟まで視野に入れて。どうだ?とりあえず会議全般に出て俺の代わりに発言してみろ。困ったことがあれば俺に振ってくれれば構わん」
国王の言葉に驚く兄弟姉妹と、複雑そうな王妃。
だが次のマキナのセリフは全員を呆然とさせることになる。
「あーいや、別に王様になりたいわけではないんですがね」
「・・・・・・・・は?」
「この国から、身分というのもを、格差というのものを無くす。
それが私の理想とする世界です。
ゆえに私は、このソレイン王国を、ソレイン評議国と名を変え、
私と、商工農の3人、騎士長、獣人の各代表6名で評議し、
国の行く末を決定するというスタンスを取ります。
そして、後々同盟国となる他国の首脳を評議の中に入れていき、
最終的に、私を、我々人類を主軸とした対魔王軍連盟を組みます。
それも・・・そうですね、1年以内に」
そのあまりの壮大すぎた計画に誰もが驚きすぎた結果、この場で解散となってしまったが。
夜になり、マキナとルーレはなぜか王妃の部屋へ呼ばれていた。
「・・・うーん、色々言いまくったせいで皆頭パンクしちゃったかな。もう少しじっくりとすべきだったか?」
「遅かれ早かれ驚くことになってましたし・・・。私も驚きすぎて心臓飛び出るかと思いましたよ・・・。でもうれしかったです!」
「ん?何が?」
「私の事、懐刀と言ってくださって・・・。今はまだご主人様には遠く及ばないですけど、もっと、もっと頑張っていつか必ず頼ってもらえるようになりますっ!」
「ああ、期待してるよルーレ」
笑いながら王妃の部屋の前まで来たマキナは、ノックをして中に入る。
「いらっしゃい、マキナ、ルーレ」
「・・・えっ、私の名前・・・?」
「当然でしょう?マキナが頼る懐刀にして婚約者候補ですもの」
「こっ・・・!?そんな、恐れ多いです・・・」
「・・・母上、ルーレをからかうのはいいですがやりすぎると性格豹変したりするかもしれませんよ?」
「いや、しませんよぉ・・・」
そう話していると湯気の立ったカップを3つテーブルに置く。
「まあ、とりあえず座りなさい?マキナの好きなミルクティーだから。ルーレもどうぞ?」
「ありがとうございます、王妃様」
「今日マキナを見て、本当に素晴らしくて聡明な子だと思ったわ。この子は本気でこの国を変えたいって思ってるってことが伝わったきた。だから私はマキナの思うようにやってみたらいいと思う。でも・・・一つだけ残念なことがあるのよ」
「残念?」
「・・・・・・あなた、マキナじゃないでしょう?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」
意味が、分からなかった。
「腹違いの子とはいえ、マキナは私の大事な子供よ?気づかないわけないじゃない?」
腹違い?ああ、だからレンの髪は黒なのか、とか思いながらもどう返そうか悩む。
(ブラフなのか何か確信があるのか・・・。だが確信がなくてこんなこと言えたもんか?突拍子もないことだと思うんだが・・・)
「・・・そうよ?だからレンの髪は黒いの。知らなかったみたいね?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?!」
い、意味が分からない。なんだこいつはエスパーか?!それとも何らかの魔法でも使ってるんじゃないか?そう疑心暗鬼になるマキナにふふっと笑いかける王妃。
「そういうところはマキナとおなじね。本当に嘘が下手なんだから。ルーレは・・・知ってたみたいね」
「・・・・・・・・・・・・・いつから、気づいてたんですかね?」
「っ、ご主人様・・・?!大丈夫なんですか?」
「大丈夫じゃない。けどこれ無理。この人に勝てる気しないわ」
ちょっと心が折れた。ここまで見抜かれてたら正直どうしようもないし、隠すだけ無駄だろう。
「そうねぇ、会食に来た時かしら」
「はっええなおい・・・」
「大丈夫よ、私は昔からマキナを見てたから分かっただけ。たぶん他の人には・・・いえあの人以外にはわからないわよ」
「あの人?」
「ええ。レンとマキナの母親よ。アノールト・ムーン。今は行方不明なんだけどね・・・」
「行方不明?さらわれたとか、じゃないみたいですけど・・・」
「親友だったんだけど・・・書置きを残していなくなってしまったの。『レンとマキナを守ってほしい』って書置きだけ残して・・・。夫も必死になって探したけど見つからなかったわ。遺体すら・・・」
「・・・・・・それはまた不思議な・・・」
「それで、あなたに聞きたいの。本物のマキナは、生きてるの?」
「・・・・・・実は、俺も全く状況が飲み込めてないんですよ。何が起こったのか、今何が起きているのか・・・」
「・・・そう」
「けど、予想することはできます。・・・五分五分、マキナ王子の精神がどこかの世界に残っている可能性は、5割です」
5割かぁ・・・微妙ねぇ。と力なく笑う王妃。
そこにルーレが尋ねてきた。
「ご主人様、どうして5割なんですか?」
「少なくとも俺は異世界から精神だけで来れているから。マキナがいきてる可能性があるとしたら、異世界の俺の体に入ってることくらいだろう、だから半々」
「異世界?君は異世界から来たの?」
「ええ、まあ・・・。気が付いたらこの体になってましてね。ルーレと驚いている間にシャルロットが来て怒られたりもしましたよ」
「ふふっ、シャルはお兄ちゃんっ子だから・・・。それで、どうするの?異世界から来たってこと言う?」
「・・・それは無理です。せっかく演説までして信頼を植え付けたのに、異世界人だと知られると反発が予想されます。それに、マキナの家族にどう言ったらいいのかもまだ分かりません。だから、まあ責任とってマキナの精神を探し当てますよ。今は目途のつけようがないですが・・・」
「・・・そう。そうだあなたの名前は?」
「平幅遠野、です」
「トオヤ、6人目の息子として扱っていいかしら?」
「・・・え?」
「これもきっと何かの縁よ?ダメ、かしら。あなたにも両親はいるでしょうし・・・」
「・・・・・・いえ、まあ、よろしくお母さん」
「よろしくね、トオヤ」
その頃。
スラム街では、【臨死魔王】と名を馳せた悪魔の女が夜に紛れていた。
「ここだと思ったんだけド・・・?もう、早く姿をみせてよぅ人外ちゃン。マグア、いやマギアとか言ったかしラ。うふふ、解剖してばらばらにするのが待ち遠しイィ・・・!マギア程の素材ならペットぐらいにはしてあげるわヨ♪」
周りには光もなく人もいない。当然ながら【臨死魔王】もただの独り言のつもりだっただろう。
それはそうだ、まともなやつが聞き取れる音量ではない。
そう。
まともな奴なら。
「ちょいちょいおかしいいいいいいいいいでしょおおおおおおおおおおおおおおおおお?ぞんびちゃんんにぃ加えてまった恋敵とかぁっぁぁっぁあぁああああああああああ!!もしかしてぇえアルティアナちゃん大ピンチぃ?」
うわあおなかへった!!前にもこんなこと書いた気がするそよ風と申します。
最近なぜだかホントに文章を書く手が動かない・・・。
悔しい!でも感じちゃうビ(ry
でも日刊はしていくのでご安心を!
ここまで読んでくださった方に感謝を。次こそ深夜に・・・!
【臨死魔王】とアルティアナとか両方ともキチガイすぎる・・・




