第十七話・「たまには内政もね?」---(三日目前編)
3日目の夕刻。
私を先頭とする、ユリさん、ノーブルさん、ランさんはとある部屋の前でご主人様の到着を待っていました。
「・・・本当に、本当にやるのでしょうか・・・?」
「大丈夫ですよ、きっと!今日のお昼だって似たようなことしたじゃないですか」
再三聞いたユリさんの心配そうな声に、私は緊張しながらも元気づけるように励ましました。
「流石にあの時とは相手が違いすぎるだろう。僕らはマキナ殿下に比べればやることは少ないがやはり緊張するな・・・。ランは大丈夫か?」
ノーブルさんがいつも元気な同僚のほうを見ると、ランさんは白い顔をしながら、
「・・・・・・私が渡すタイミングはノーブルさんの後でゆっくり1枚づづ・・・」
今からすることをブツブツ確認しているようでした。その『大事な発表会があってその直前に緊張している人』というテンプレだった姿に、私を含めた3人共少し緊張が解けたのは幸いでしたが。
(自分よりも緊張している人を見ると多少はマシになるというのはありますからね)
そう苦笑しながら考えます。しかし緊張するのも無理はありません。元貴族のノーブルさんはこういった公の場になれているでしょうけれど、ユリさんやランさんは初めてでしょう。
その上、今からするのはご主人様風に言うと『喧嘩を売りに行く』ことですから。
「おいおい、ガチガチだな。別に資料をそれぞれ渡してくれるだけでいいんだぞ?」
そこにご主人様がやってきました。笑いながらランさんに声をかける姿は普段と全く変わりません。この度胸が本当にうらやましくて・・・そして少しの焦燥を感じ、ランさんに声をかけました。
「ランさん、もしよかったら私が代わりに・・・」
「いっいえ!これでもランちゃんはマキナ様に仕えるメイドの端くれっ!任せられた仕事を出来ないなんてメイド失格ですっ!やります、やらせてくださいっ!」
「はははっ、おう頑張れ。経験を重ねれば慣れてくるだろうしな。よし、ルーレ、ユリ、ノーブル、ラン。準備はできたか?」
「「「「はいっ」」」」
「・・・じゃあ、行くとしようか」
くるりと振り返り、ご主人様は大きな部屋のドアを両手で押し開きカーペットに従って真っすぐ歩いていきます。私は黙って3人にうなずくと、ご主人様の後ろを追従していき目的の人物を見上げました。
一段高いところに座るのは金髪で精悍な顔立ちをした男性。その横には桜色の髪を長く伸ばす女性。
同じ高さのところには、左から黒髪ストレートの女性に金髪ドリルの女性。
カーペットをまたいで右には少し長い金髪の男性のピンク色のツインテールの女性。
ほぼ全員が困惑するような表情の中、一段高いところの、‘玉座’に座る男性は、愉快そうに笑いました。
「・・・はっはっはっ、いい。いいなマキナ。お前がまさか野望を満ちあふれさせた表情のできる人間だとは思っていなかったよ。戦場に向かうような勇ましさすら感じるぞ」
「それはどうも、父上。では、私が今日お呼びだてした理由も分かっておいでで?」
「第一王子であるお前が王である私を公の場で呼ぶ理由など一つしかないだろう」
「なるほど、流石は父上。お察しがいいご様子で」
そういうとご主人様は右手を何かを催促するかのように国王へと伸ばし、一言。
「なら今の時点で御退位していただいてどうぞ?」
「はっはっ、断るッ!まだまだ息子に超えられた覚えはないのでな!」
私たちに加え、下にいる兄弟姉妹たちと王妃の驚愕をよそに、悪い笑みを湛える国王様とご主人様の論戦が始まって、しまいました・・・。
少しさかのぼり3日目の昼、マキナはランに任せた仕事の出来に満足しながらルーレたちとともに、集めてもらった商人たちのいる大広間に向かっていた。
「1千弱・・・!?そんな量の商人が来たのかよ。たった1日2日の告知でよくもまあそんなに集めたな。流石だルーレ、ユリ」
「いえ、それほどのことでは」
「お褒めに預かり光栄です」
(いや、本当にうれしい誤算だな。もしくは演説が効いているのか・・・。ま、今はどちらでもいいか)
「ノーブルの準備は大丈夫か?」
「はい、マキナ殿下。ランが作ったこの・・・紙の切れ端?を配ればいいのですよね?」
「ああ。それにルーレとユリとノーブルにはその紙が何枚誰が持って行ったかを記録してほしいんだ」
そういうと自分の手首をなでまわしていたランが不満そうに愚痴る。
「・・・ランちゃん仲間はずれにされてる・・・っ」
「いや・・・お前紙にハンコを押す作業で手首やられたから休憩欲しいって・・・」
「それでもそれでもランちゃんもなんかしたいですっっ!」
「そんなに仕事したいなら、俺が言った内容記録してくれる?後で見直して失言がないか確認するしな」
「ランちゃんにお任せくださいなっ!」
「ご主人様、配るのはいつすればいいですか?」
「俺が言ったら、でいいよ。別にそんなに堅苦しくするつもりないから」
そう言いながら広間に入ると、ざわついていた商人たちがこちらを見て興味深そうにこちらを見ていた。
「さて。一応名乗っておこう。私はマキナ・S・アルティベート=リア。今日君たちをここに呼んだ理由は簡単なことだ」
一拍溜めて叫んだ。
「お前ら金が欲しくはないかッ?!」
ざわざわとする商人たちに向かってさらに言葉を投げかける。
「非常に残念なことに、この世は金で出来ているッ!
金がなくても愛があればとかいうやつ、今すぐ全財産を捨ててみろ?
3日もたたないうちに現実に向き合う羽目になることは確定的に明らかッ
なぜならそう、衣食住食欲睡眠欲性欲その他諸々はすべて!
金がなければ満たされることなどありえないからだッ!」
これはひどい。
『ま、まあ確かにその通りだけど、ねぇ』みたいな空気がメイドたちから漂うのを感じつつも、マキナはもう一度叫ぶ。
「さあ、もう一度問おう。お前ら金が欲しいかッ?!」
「あたぼうよ!」「ほしいぞおおおおお」「あふれるほど欲しいですううううう」「かねかねかねかねえええええええ!」
・・・欲望丸出しである。しかし仕方がない。今いる彼らは、金が欲しくて商人をしているのだから。
(この辺りはヴィレッジに感謝だな。あいつが強大すぎたせいで弱小組織は消え、金の事にがめつい連中がおおくなったんだろうし?)
正確にはがめつくないとやってられないといったところか。
「うん、ならば特別に私が金を増やすために単純だが重要なことを教えよう。
収入がそのままでも出費を抑えればいいのだ。簡単だな?
そして君たちには今!不要かつ大きな無駄出費があるのではないか?」
その言葉に商人たちはざわざわと考えを口に出す。
そのざわめきを少し待ってからマキナは答えを出した。
「・・・上納金、だよ」
「なっ、それは必要ですぜ王子!」
「ふむ?では理由を聞こうか。わざわざ高い上納金を支払ってまでヴィレッジの組織にいる理由をな」
「・・・・・・そ、それは、やっぱり信頼ですよ。それに独立してもメリットなんてほとんどねぇ、取引を取りやめられる危険まであっちゃあ・・・」
「うん、予想通りの答えだ」
「え?」
「では本題に入ろう、諸君。今回王国名義でとある制度を実施することになった。
その名も・・・『国債』と『銀行』という。
まずは『銀行』の利用システムについて説明しよう。ごく簡単にな。
諸君はまずどれだけ少なくても多くてもいい、金貨を持って来る。
それを『銀行』に、預けるのだ。すると不思議、引き出した時にはその預けた金貨が増えて返ってくる。
以上だ!」
全員がポカーンとしていた。ルーレたちも含めて。
「え?そ、れはあれですかい?え?それだけ?預けると、増える!??」
「ああ!本当にそれだけだ!ただしこの制度を利用するならこの ‘ソレイン王国が認めた’ という証としてヴィレッジの組合から抜け、ソレイン商業組合へと入ってもらう。
ちなみに、上納金は、ゼロだ」
「「「・・・・・・・・・は?!」」」
「少し具体的な話をすると、『銀行』に預けた金貨は月ごとに1パーセント・・・1分づつ増えていく。1年預けていれば10枚だった金貨が約11枚になって返ってくるわけだな。
当然、多い金額を預ければ預けるほど増える金貨も多くなろう?
しかし、大規模な金額を動かしてくれた者たちに対して何らかの感謝の意が必要だ。
そこで、『国債』というものが登場する!
こちらは『銀行』とは違い、一口一万金貨とし、その分、そこのハンコが押された紙を金券として渡す。
これを引き換えることができるのは1年からとしよう。しかし、その分一年後に帰ってくるのは一口につき一万五千金貨!つまり1.5倍にして返そうではないかっ!」
「な、な、なんだそりゃあああああ?!そんな上手い話があるはずがねえっ!」
「あるんだなーそれが。
条件は、国お抱えの商人としての誇りを持つこと、それだけだッ!
さて。これで私からの話は終わりとしよう。
『銀行』に金を預ける者、『国債』を買うものはここのメイドたちに、
「おいどけっ!」「預けるぞッ!」「今は?!今からできるか?!」「ええいおすなああ」「俺が先だああああああああ!!」
大混乱になった。まあ当然か、とマキナはほくそ笑む。
(金利も銀行さえない、物々交換から少し発展しただけのこの世界においてみれば、とんでもなく摩訶不思議な儲けが出るわけだからな。それに上納金は必要なく、信用も十二分。更には俺から見れば金貨を多めに生産すればいいだけだから楽でいい)
本来であれば貨幣の増刷は、俗に言うインフレを助長する。しかし国民に全く金が巡っていないハイパー通り越したデフレスパイラルのソレイン王国ではそれがつかえてしまうのだった。
(あとはここで生まれた資金を貧民層、奴隷たちにばらまけば経済的格差は緩和できそうだし・・・。あとはヴィレッジの組合からどれくらいの人数が抜けるか、だな。ほんっと役に立たないと思ってた学校の授業は使えるぜ)
てんてこ舞いなルーレたちを眺めつつ、マキナは次の策を考え始めるのだった。
ネットサーフィンしてたらいつの間にか夜になってて焦りながら書き始めたダメな子、そよ風と申します。
手が!手が動かないぞぉぉぉぉ!!なんか今日は小説を書く想像力に欠如した日でした。
感想を初めていただいたためモチベーションはかなり高かったんですが・・・。
なぜじゃ。しかし私はこれを乗り越え、1章を終わらせるッ!
ここまで読んでくださった方に感謝を。次回は今から書きます!
遂には国王に喧嘩を売るマキナさん。マジキチ過ぎんよ・・・




