第22話
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地下鉄に乗り込み、署へと向かった。通勤ラッシュに巻き込まれながらも、午前八時二十分には着き、刑事課フロア横の捜査本部へと入っていく。月岡がいて、
「おう、井島。おはよう」
と言ってきた。
「ああ、課長。おはようございます」
「疲れてるみたいだな?」
「ええ。ストレスがありまして」
本音が漏れ出る。月岡が、
「まあ、誰でもそうだよ。殺しの帳場なんてメンタル面できついし」
と言い、息をついた。そして淹れていたコーヒーを飲みながら、
「何かあったら俺に相談しろ。話聞いてやるから」
と言葉を重ねる。一言「ありがとうございます」と言って一礼し、デスクに向かった。着いてから、パソコンを起動させる。捜査情報などが順次記録されている警視庁運営のサイトを見た。何かしら心労がある。食事してきても、バリバリという風にはいかない。秋空のようだった。
だが、仕事はある。角井卓夫殺しのマル被である福野富雄は逃亡中なのだし、九竜興業はまだ野放し状態になっていて、逸早く摘発しないと、新宿中が危険になる。吉倉も二件目の事件現場であるホテルに張り付いていて、暇がないようだ。ここは奮起するしかなかった。まあ、捜査が長引いても、いずれは解決へと持っていく。それが警察の常套的なやり方だ。部署によっては違法捜査などもあるのだし……。すれすれのところで、ホシを追う場合が多々あった。
その日も流れていく。昼になり、食事を取った後、午後からも帳場に詰める。疲れはだいぶあった。落ち着かない。時折フロア隅のコーヒーメーカーでコーヒーを注ぎ、飲みながら気持ちを鎮める。感情の高ぶりを鎮静する際、コーヒーは効果があって、カフェインで誤魔化す。
午後三時を回る頃、署の電話に吉倉から連絡があった。ホテルの部屋の検証は粗方終わったということだ。思う。相方も大変だなと。あの場所を洗った人間たちはきっと、福野のDNAなどを採取しているはずである。いずれ捜査会議などがあれば、報告があるだろう。現に一時間後の午後四時から、帳場で不定期の捜査会議があった。吉倉も俺も当然参加する。その席上で警視庁本部のデカを捜査に動員させると、永岡が明言した。永岡は本庁から派遣されていて、俺たち所轄の刑事とは違う。桜田門の方が圧倒して捜査力が高いのだ。それは十分分かっていた。所轄単独で行って解決するヤマなどそうないのだし……。
散会後の午後五時には俺も自宅へと戻っていった。通常通りの勤務と同じで、定時には職場を出る。遅くまで居残っても意味がないからだ。月岡も吉倉も他のデカたちも各々で判断して行動する。日勤の警官がフロアから退出すれば、夜勤の刑事が入ってきて、業務交代となるのだし……。(以下次号)




