第18話
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その日も昼になり、取られていた出前の丼物を食べて、また詰める。体も心も疲れていた。だが、基本的に警察官は何でも屋だ。街の治安維持のため、せっせと働く。俺も吉倉も、そして歌舞伎町交番で駐在をやっている篠田でさえ。
別に刺激がないわけじゃない。刺激を感じなくなってしまっているのだ。麻痺とでも言おうか?常に緊張していて、心が擦れてしまっている。もちろん、そんなことは言い訳にならない。多少体調が悪かろうが、刑事は署にいるのが普通なのである。
言わずもがなで、警官でも頭の悪いヤツは大勢いる。高校卒業後、Ⅲ種試験を受けて入庁してきたノンキャリアなどのデカは、どこかしら知恵が足りないところがあった。俺の近くにもそういったデカは何人かいる。だが、別に話すことは何もない。せいぜい頑張ってくれよ、と心の中で体よくあしらうだけで。
そしてまた一日が経つ。署内の捜査本部は相変わらずだった。何かしら苦労はある。だが、俺自身それを表に出さない。他のデカたちは俺のことを悩みのないスマートな人間だと考え違いしているようだが、実際いろいろある。
基本的に他人のことにまるで関心がないのだ。別にそれはそれでいい。自身のことで精一杯なのだし……。常日頃からそんな風に感じていた。孤独だが、性分だと思っている。いくら吉倉が相方でも意中までは打ち明けない。独り悩むこともあった。スーツを着て、堅気の格好をしていても……。
フロア内に設置されていたパソコンに向かい、いろいろと情報を入手する。まあ、警察官なら誰もが感じることはあるのだ。捜査の進捗状況などを常にチェックしていた。管理官席の月岡が、
「井島、あまり気負うなよ。疲れたら休憩室で休め」
と言ってきたが、
「ええ、まあ……」
などと誤魔化して、詰め続ける。この二件の殺人事件には警視庁の威信が掛かっていて、重大な責任があるのだ。自覚していた。別に自分のためじゃない。桜田門を思って、だ。そう考えていた。
時折フロア隅のコーヒーメーカーでコーヒーを淹れて飲む。緊張感は保てていたのだが、どうしてもコーヒーに依存することになる。その間だけでも、気持ちは和らいだ。
いろんなことを思い、感じながら、帳場に詰める。マシーンを使っていろいろ探りながら、勤務を続けていた。署内でもタバコを吸う刑事は複数名いて、俺のいる帳場にもニコチン臭が漂っている。思っていた。これも警察署特有のものだと。分煙など一切なされていなくて、おまけに吸い放題だ。吉倉がいなくても署の雰囲気は変わらない。ずっと詰めていた。ここでの上司は月岡なのだし、新宿北署には警視庁から永岡も来ている。
捜査員も常にピリピリしていた。緊張感から来るストレスは胃腸に悪い。合間にトイレに立つ。月岡はずっと椅子に座り、黙っていたが、吉倉たち現場の刑事からも連絡が来るようだった。電話じゃなくてメールなどで、だ。(以下次号)