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番外編 王女様、初めての友達になる

――お菓子目的……だけじゃありませんわ!――

 しばらく経ったある日のこと。

 公爵家の朝は、いつも通り騒がしかった。

『ミヤー! 朝ごはんまだー?』

『今日はパンがいいわ!』

『私はスープ!』

「食器のみんな、朝から元気すぎます!」

 私は厨房で朝食の準備をしていた。

 すると――。

コンコンコン!

 玄関の扉が勢いよく叩かれた。

「はい?」

 扉を開けると――。

「おはようございますわ!」

「……王女様!?」

 そこには、満面の笑みを浮かべた王女が立っていた。

 しかも――。

 なぜかメイド服。

「今日からこちらで働きますわ!」

「…………」

「…………」

 私も固まる。

 後ろにいた公爵家の執事も固まる。

 そして食器たちも――。

『えええええ!?』

 大騒ぎ。

「ちょっと待ってください!」

 私は王女の手を取る。

「どういうことですか!?」

「簡単な話ですわ」

 王女は胸を張った。

「私、ミヤのお菓子が食べたいんですの!」

「……」

「それに――」

 王女の声が少し小さくなる。

「私……友達がいなかったんですの」

「え?」

 いつもの高飛車な表情が、一瞬だけ消えた。

「王女だから、皆さん私に気を遣います」

「……」

「一緒にお菓子を作ったり、くだらない話をしたり……そんな友達はいませんでした」

 王女は少し俯く。

「でも、ミヤは違いましたわ」

「王女様……」

「私が王女だろうが、わがままだろうが、怒るときは怒ってくれる」

「それは……」

「だから」

 王女が顔を上げる。

「ミヤと友達になりたいんですの!」

 私は思わず笑った。

「……はい」

「本当!?」

「でも条件があります」

「何ですの?」

「メイド体験するなら、ちゃんと仕事してくださいね」

 王女の顔が固まる。

「……お掃除?」

「はい」

「洗濯?」

「はい」

「皿洗い?」

「もちろん」

 王女はしばらく悩み――。

「……お菓子作りは?」

「最後に一緒にやりましょう」

「やりますわ!!」

 即答だった。

初めてのメイド仕事

「では、まず掃除からです」

「お任せください!」

 王女は箒を握った。

 勢いよく振る。

 ブォンッ!

「きゃっ!」

 埃が舞い上がる。

「王女様!」

「……掃除とは難しいものですわね」

 そこへスプーンが飛んできた。

『持ち方が違うわ!』

「スプーンさん!?」

『こうよ!』

 スプーンが宙に浮き、王女の手を指導する。

「なるほど!」

『そうそう!』

「スプーンに掃除を教えてもらう王女様……」

 私は笑いをこらえる。

 すると王女が振り返った。

「ミヤ!」

「はい?」

「笑いましたわね?」

「……ちょっとだけ」

「もう!」

 王女も笑った。

 その瞬間――。

『あら』

 花瓶が小さな声を出す。

『いい顔するようになったじゃない』

 王女が驚く。

「花瓶さん……」

『友達ができると、人は変わるものよ』

「……」

 王女は少し照れながら笑った。

「そうですわね」

そして、お菓子の時間

 午後。

 約束通り、私たちは厨房に立っていた。

「今日は何を作りますの?」

「日本のお菓子です」

「ドーナツ!?」

「今日は違います」

「……」

 王女の顔が少し残念そうになる。

「今日はプリンです」

「プリン!?」

 目が輝いた。

「日本のお菓子ですわね!」

「はい」

 調理器具たちも大喜び。

『卵!』

『牛乳!』

『砂糖!』

『混ぜるわよー!』

 王女も必死に混ぜる。

「こうですの?」

「もう少し優しく」

「こう?」

「そうです!」

 やがて、ぷるぷるのプリンが完成した。

「……」

 王女はスプーンを持つ。

 一口。

「…………」

「どうですか?」

 王女の目から――。

 ぽろっ。

「え?」

 涙が落ちた。

「王女様!?」

「美味しい……」

「……」

「こんなに美味しいものを、友達と一緒に作って食べるなんて……」

 王女は涙を拭く。

「初めてですわ」

 私は隣に座った。

「じゃあ、これから何度でも作りましょう」

「……!」

「友達なんですから」

 王女は一瞬、驚いた顔をして――。

 満面の笑みになった。

「はい!」

 そして。

「ミヤ!」

「はい?」

「次はドーナツですわ!」

「やっぱり!」

 王女は笑いながらプリンをもう一口食べる。

「友達なら、わがままを言ってもいいのでしょう?」

「少しだけですよ」

「では――ドーナツ十個!」

「多いです!」

 厨房中に笑い声が響いた。

 その日から、公爵家には――。

週に一度、王女様がメイドとして働きに来るようになった。

 ただし。

『ミヤー! 王女様がまた砂糖をこぼしたわ!』

「王女様!」

「ご、ごめんなさい!」

『あとドーナツのつまみ食いも三個!』

「スプーンさん! 余計なことを言わないで!」

「王女様……」

「……友達ですもの。秘密にしてくださらない?」

「ダメです!」

 こうして――。

公爵家に「王女メイド」という、とんでもない新しい仲間が増えたのであった。

 そして本人だけは知らなかった。

 公爵様が遠くからその様子を見ながら、

「……ミヤに友達ができて良かった」

 と、誰にも聞こえないように微笑んでいたことを。

 ――番外編・続く。次話兄参戦

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