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1-6話 聖剣の守り人


 こんにちは皆さん。

 私の名前はカウロ・ミカエルと申します。

 我が主の神託によりエデンからスタートウへホーリー家の土地を譲りいただく交渉人として参りました官僚です。

 ・・が、交渉は失敗の連続。

 どうにもホーリー家の現当主であられるお方は何があっても土地を譲って頂く意思がない様子。

 はてさて、一体どう交渉しようかと試行錯誤を巡らせていると1人のお客様が私に訪れてきました。

 それがホーリー家の次期当主であり現当主のお孫様、リアムくんです。

 お孫様がおられることは重々承知で、何度か姿を見たこともありましたが・・はてさて。

 余所者の私に一体どんな用事があるのか。


 「土地が欲しいんですよね! ぜひお譲りします!」


 思わず口に含んだお茶を吹き出した。

 この子(リアム)は一体何を言っているのだろうか?


 「え~と、急に何を?」

 「おじさん達、家の土地が欲しいんでしょ?」

 「え、えぇ・・まぁその通りなんですが」

 「しかも譲ったらエデンで暮らせるように家もくれるんでしょ?!」

 「あぁ・・えぇ・・そうです」

 「じゃあ譲りますッ!!」


 ま、眩しいッ?!

 なんて純粋無垢で煌びやかな瞳を向けてくるんでしょうかこの子はッ!

 虚偽も悪意もない無垢な姿勢を見るのは何年ぶりでしょうか!?

 こんな一世一代な問題もこんな瞳を向けられてはなんでも言う事を聞いてしまいそうですよ私!

 ・・とりあえず落ち着きましょう。

 そうです。

 まずは呼吸を整えて・・・。


 「あと、ついでに俺をオジサンのところで雇ってください!!」


 むせた。

 せっかく吸い込んだ空気が一気に放出してしまった。

 

 「い、一体何を言うのですか君は。 君はまだ10歳かそこらの子供でしょう?」

 「うん。 でも土地を売ってエデンに引っ越したらお金を稼がないと生活できないでしょう? だから俺が稼いで生活していくんだ!」

 「そういうのは大人の仕事ですよ。 貴方が立派な大人になるまではお爺様とお婆様に任せてればいいのですよ」

 「それじゃダメなんだよ」

 「・・? ダメとは?」


 彼は何やら言いづらそうに口を尖らせたり考え込んだりした後、言葉を探すようにゆっくりと話す。


 「ジジ・・じいちゃんは剣しか知らないから、きっとエデンに行ったら仕事がない」

 「ふむ。 剣しか知らない?」

 「だって、じいちゃんはずっと聖剣を管理する守り人としてスタートウの周囲の警備と聖剣の護衛しかしてるとこを見たことが無いし。 時間があれば剣の稽古か鍛える事しかしてないもん。 他の人は農作の仕事とかいろいろやってるのにじいちゃんは剣しかできない。 でもエデンではスタートウみたいにじいちゃんみたいな老人を雇うところないでしょう? だったら俺が剣以外の仕事を探して2人を養う! だから雇ってほしいんだ!」


 ・・官僚という国を背負う仕事に就いてから、色々な人間を見てきた。


 自身の欲を満たすだけの者。

 金の事だけを考えている者。

 平気で嘘を言う者。

 他人に興味がない者。

 

 例えを考えればいくらでも思い出すくらい、人間とはあらゆる人格が存在する生物。

 人間の社会とは、誰もが想像しないほどにあらゆる悪意が集結している。

 そして、そんな社会に足を踏み入れた大人達の大半がその悪意に呑まれ込み背負い込んでいく。

 だからこそ、私は(リアム)が眩しく感じる。

 大人には大人の事情があり、そこにはあらゆる思惑と考えが交じり合い、そして他人を踏み落とす結果を伴う解決へと変化していく。

 彼のように、悪意もなく虚偽もなく、ただ純粋に憧れと夢を真っすぐに語るのは子供の間だけの特権なのだろう。


 「・・・分かりました。 いいですよ」

 「えッ! 本当に!?」

 「もちろん。 ()()()()()()()()()()。 約束は守りますとも」

 「マジで! 本当に!!?」


 机の上に身を乗り出して何度も確認をしてくるリアムに苦笑しながらも首を縦に振るが、私は1つ彼に条件を出した。

 

 「条件?」

 「はい。 条件はただ1つ。 キミのお爺様とお婆様にもこの話を了承してもらい、家族円満で売買を承諾してもらう事。 この条件を満たせば土地の売買の対価にキミを雇う事も追加しましょう」

 「わかった! すぐにジジイと婆ちゃんにも話してくるッ!!」


 そうして彼は持ってきた大きな荷物を置いて部屋から飛び出していった。


 「・・・おい、アンタ」


 その一部始終を黙ってみていたレオンがようやく口を開いた。

 官僚は落ち着いた様子でカラになった器にお茶を注いで口に含む。


 「なにか?」

 「何かじゃねぇ。 ()()()()()()()()()()()?」

 「はて、なんのことやら」


 お茶の水面に映る自分の瞳は、まるで濁ったドブのような色をしている。

 

 (あぁ・・分かっていましたが、私も汚い大人になったものです)

 

 

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