1-5話 聖剣の守り人
3階建てに建築された古い旅館は、スタートウがまだ観光地で賑わっていた時期には大変人気があったという。
提供される朝餉と夕餉には隣に流れる川から獲れる新鮮な魚が並び、山で採れる山菜を使用した料理は絶品だと記録されている。
しかし、それも観光客が少なくなり経営が難しくなってから旅館も閉店となり今の時代では有名だった旅館を知る者は数えるほどしかしない・・・のだが、半世紀ぶりに大都会エデンから来客が訪れた。
突然の来訪に現代の旅館の所有者は驚愕したが、先代から引き継いでから旅館の手入れは欠かさず行っていたこともあり、しばらくの間定住したいという要望の相手に部屋を貸すくらいのものは揃っていた。
「いや~助かった。 まさかこんな綺麗な状態で管理されていたとは運が良い」
ふくよかな体を休ませる為に官僚は準備されていた座席に体重を乗せてテーブルに用意されていた茶菓子をすべて食べる勢いで口に運ぶ。
「レオンよ。 そんな扉の前で立っていないで貴方も座りなさい。 いくら護衛だからと言ってもそこに立って居られてら私の居心地が悪いというものだ」
「・・・」
官僚の言葉は聞こえているが返事をする様子も言う事も聞く様子もないレオンに官僚はさらに居心地が悪い空気に身を縮めてしまう。
(くぅ~・・確かにエデンで一番腕の良い護衛を連れてこいとは言ったが、まさかこんな有名人が護衛の依頼を受け入れるとは! せめてもう少し女性であればもう少し会話が和むというのに・・)
微妙な雰囲気に肩を落として溜息を吐く官僚は茶菓子と一緒に用意されていたお茶を茶碗に注ぐ。
「・・・どういうつもりだ?」
「ふぇッ!?」
突然、とても低い声が聞こえてきて注いでいたお茶をこぼしそうになる。
「ど、どどどどどういうつもりとは???」
「とぼけるな。 あんたらエデンの政治家はそもそもホーリー家の土地なんか求めてないだろ」
レオンを指摘に官僚の眉がピクリッと反応する。
その一瞬を見逃さなかったレオンを見て、思わず(しまった)と思ったがここまで来たらしょうがないと諦めたのか、官僚は再び大きな溜息を吐くと、注いだお茶を一気に飲み干した。
「いつから気づいていたのかな?」
「馬鹿にするな。 俺は元々あんたの護衛として来てるんだ。 ある程度の内容はギルドから聞かされている」
服の袖から取り出した紙を官僚のテーブルの前に軽く投げ飛ばす。
その紙にはギルドから依頼の内容と報酬金額が記載されている。
「確かにここには私の護衛と記載されていますが、それ以外に何も書かれていませんよ?」
「ふん。 適当な冒険者や傭兵なら何も気にせずに受けるだろうがな。 俺が気になったのは報酬だ」
依頼の報酬として支払われる金額は普段の護衛依頼の5倍以上の値段だった。
「そんな値段の護衛がいくら御偉い様だからと言っても跳ね上がり過ぎだ。 明らかにこの依頼には裏がある」
「・・そうですか? まぁスタートウの滞在日も不明なままであれば打倒な金額だと思いますがね。 一体何をそんなに気になることが?」
「さっきも言っただろ。 ギルドからある程度聞かされたってな」
「・・・」
先ほどまでとは違う別の緊張感が部屋に広がる。
この一週間、レオンは何も言わずに仕事を遂行してきた。
しかしここにきてレオンは官僚の動きに違和感を感じていた。
官僚は表上ではホーリー家から土地を譲渡してもらう為の説得役として派遣されているように見える。
だがそれはギルドにあの話を聞かされていなかった場合の見解だ。
「あんたは・・いや、アンタら政治家たちは一体、この田舎で何をしようとしてるんだ?」
「・・それは」
重たい口をやっと開きかけたその瞬間だ。
扉からノックの音が聞こえる。
「お客様、今少しよろしいでしょうか?」
扉の向こうの相手はこの元旅館の所有者だ。
官僚は安堵した様子で急いでレオンの横を通り抜け扉を開けた。
「いえいえとんでもありませよ。 無理な話を通して貰っている身でございます。 少しどころかいくらでもお時間をつくりま・・す?」
開けた扉の向こうにいたのは確かに旅館の所有者である男性ではあった。
しかし、その隣には大きな荷物を背負った1人の少年も立っている。
一体何事かと目を丸くして呆けていると、部屋の中から見ていたレオンが官僚に声をかけた。
「おいそのガキ、確かホーリー家の・・」
「え? ホーリー様の?」
状況を呑み込めないでいた官僚の様子など気にもしない様子で、少年は気持ちのいい大きな声で官僚とレオンに挨拶をした。
「こんにちわ! お、じゃない。 僕はリアム・ホーリーと言います! 今日はおじさん達に話
があってきました!」




