友導(ともしるべ)④
カラオケの会計をバックれた亜貴を追いかけている。他に理由があるのは承知の上だ。
それを知らせてくれれば、こうして追いかけることもなかったのに…
「一向に見えてこないな」
どれだけ走っても亜貴がいる気配が無い。
陽はさらに傾いていく。
長く伸びた陽の陰が亜貴には追いつけないと言っている気さえした。
足がずんずん重くなる。
全力で呼吸しているのに、足は歩いている時のように遅くなっていく。
それでも、朝のアイツの言葉に頼って走り続ける。
「ここまで走っても…見えてこないな」
「逃げ足が速い」
何かあったんじゃないか、と心配がこみ上げる。
京介の言うとおり、逃げ足が速かっただけだ。
そうでなかったら…
「見えたぞ」
目を凝らすと−−確かに亜貴が居た。
あいつも全力で走っている。
「嗚呼、よかった」
亜貴が無事で、胸をなで下ろした。
「追い着く?」
「少し様子を見たい」
「了解」
一定の距離を取りながら亜貴を追う。
良く言えば、尾行。
悪く言えばストーカーだ。
これだけでだいぶグレーな行為に思える。
電柱の陰にさっき見た黒い影が見えた気がした。
目をかくと元々何も無かったように消えている。
それがふっと現れたり、消えたりした。
「京介…」
「なんだ?」
「時折、黒い影が見えるんだ。お前は見えるか?」
「見えねぇけど…それが何?」
京介にはあれが見えないんだ。
誰にでも見えるものであってほしかった。
皆見えていれば、あれは何らかの生物にあるに違いないのだ。
しかし、見えていない。
それに足が無いのだからあれは人ならざる者なのだろう。
「お前、頭おかしくなったんじゃないか」
「あれが見えないの?」
「俺には、何も見えないよ」
俺は昔から見える方だった。
だが、中学に入ってからは、ほとんど見なくなっていた。今見えたのは、昨日の神事に参加して感覚を研ぎ澄ましたせいだろうか。
いずれにせよ、あれを見たことに気づかれたら、マークされてしまう。
亜貴の目線、あれの視線に気をつけなければいけないなんて全く面倒くさい尾行だ。
さっき、Circle1の最寄り駅と星ヶ嶺大社の最寄り駅は隣だと言った。
でも、走って40分くらいかかる。
電車に乗ればいいと思ったが、あの影も乗ってきたら厄介だよな〜
亜貴のことだから考え無しにとにかく走ってると思ってる。
「アイツ止まらね〜肺が苦しい」
もう、体力尽たはずなのに走り続けている。これが火事場の馬鹿力というものか。
「亜貴がどっかに入っていくぞ」
そこは予想通り、星ヶ嶺大社だった。
除霊でもしてもらおうというのか。
「あそこは星ヶ嶺大社…アイツとは縁もゆかりも無い場所だろ」
「まあ…そうだな」
「お前、神社の息子なんだし何か知っているんじゃないか?教えてくれ、アイツに何かあったのか?」
「神社に御参りでもしたかったんじゃないか」
はぐらかしてしまった。
あんまり、この手の話をしたくはない。
本殿に行くため階段に近づくとあの影がいた。
神社には、強力な結界が貼ってあるからはいれないのだろう。俺たちも気づかれる前にあの中に入りたい。
「さっき、黒い影が見えたって言ってたけど何だったんだ?」
「あそこに見えるんだけど…」
「また変なことを言い出してどうしちゃったんだ?お前も、亜貴も…それが見えない俺が可笑しいのかな。」
「そんな事は決してない。でも、見えてしまうんだ」
得体のしれないものを人に伝えるというのは、とても難しい。人型ということしか分からない黒いモヤ。しかもアイツに見えてないものなんて、説明のしようがない。
「そんな変なこと言わずに、とにかく行こう」
あれを横切っていくのは癪に障るが、まずは亜貴の安否確認が先だよな。
刹那、あいつと目があった気がした。
あいつが近づいてくる…ヤバい
「早く来い」
「お前まで慌ててどうしたんだ?」
「いいから…早く」
今は京介にどう思われたっていい。
ただ、あれに取り憑かれるのだけは避けたい。
後もう少しで入れる…
その境界に入る瞬間に背中に何かが触れた。
ゾワゾワとして、ものすごく気持ち悪い。
だけど…何ともなく結界の中へと入れた。
手を握ったりしてこの身体が自分の意識下で動いていることを確認する。
ちゃんと自分の身体だ。
「あれっ!?」
腰が抜けて、その場に座り込む。
「おい、大丈夫か?」
心配してくれるのはありがたい。
「ちょっと腰が抜けただけだよ」
「そうか…立てるか?」
京介に肩を貸してもらって立ち上がる。
今まで、腰が抜けた事が無くて、あんな一瞬の出来事だった事に心底驚いた。
安心したものの後ろを振り向けない。
背後で何が起こっているかなんて知りたくないから。そうして階段を上っていく。
刹那、背後で稲妻が走った気がした。
不意に後ろを振り返ってしまう。
そこには悍ましい影は姿を消している。
また、何処かに隠れたのか消滅したのかは分からない。
「なあ、さっき後ろで稲妻が走らなかったか?」
どうせ、この現象も嘘だと言われるのだろう。
それでも一般人がどこまで見えて、どこから見えないのか確かめたかった。
「稲妻かどうかは分からないけど、さっき急に鳥肌が立ったぞ」
一般人でも、あの稲妻で鳥肌が立つんだな。
この感覚を少し共有出来るだけで、孤独感が解消される。京介も自分が感じ取れないものを俺や亜貴が感じれていることに、少なからず孤独感があったのかもしれない。
こうして、亜貴の無事を祈りながら階段を上っていく。
階段を上った先には誰かが待ち構えていた。
1人は亜貴だとすぐにわかる。
もう1人を目を凝らしてよく見た。
彗!?




