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観測者に見守られる屋敷で生きることにした ~静は世界を支配しない~  作者: 灯乃しんわ
第九章 静かな日々が結ばれるとき

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閑話 善意は静かに届いている

白の庭園


風も、光も、音さえも柔らかく整えられた場所で、五柱の女神たちは今日も円卓を囲んでいた。


卓上には香り高い茶葉と、人界から届いた小さな菓子。

砂糖の甘さだけではなく、焼けた粉の匂いが、かすかに鼻先をくすぐる。


フレアリアが一つ摘まみ、ぱき、と軽い音を立てて割った。

「……ねぇ、最近……増えてない?」


口に運んだ瞬間、瞳がぱっと明るくなる。

「甘いの。前より『ちゃんと』甘い」


「『ちゃんと』って何よ」


ウィスティアが風のように笑う。

「でも分かる気がする。甘いだけじゃない、香りが整ってるわ」


「うん、これ絶対『誰かの気遣い入り』だよね」

フレアリアは楽しそうに言う。


ミラシアは湯気の向こうを静かに見つめていた。

「お菓子だけじゃないわ。……温かな料理の気配も、ふわって届くの」


ルートミアが頷く

「優しい匂い」


言葉は少ないが、確かな肯定


最後にルーナフィリスが静かに茶を口にした。

「……増えているわね」


◆◆◆


香りの『届き方』が変わった。

それは力を誇示した結果ではない。

祈りを積み上げたからでもない。


ただ――日常の手つきが整ってきただけ。


ミラシアが、どこか楽しそうに言う。

「準備しているみたいね」


「忙しそう!」

フレアリアは嬉しそうに頷く


「でも楽しそうだよね」

ウィスティアが続ける


ルートミアは短く

「……良い」


五柱は誰の準備かを理解している。

誰のための鍋で、誰のための甘さなのか。


けれど、それを重く扱わない。

重く語ればそこに意味が生まれる。意味は望まぬ鎖を呼びやすい。


ルーナフィリスは視線を伏せたまま言う。

「善意の準備ね」


干渉はしない。

けれど見守ることはできる。


それが今の距離。


◆◆◆


ミラシアが首を傾げる。

「お礼、必要かしら?」


フレアリアはすぐに首を振る。

「いらないでしょ。向こうが『やりたい』からやってるんだもん」


「そうね」

ミラシアはくすっと笑う。

「命じたわけでも、奪ったわけでもないものね」


ウィスティアはカップの縁を指でなぞる。

「でも……少し嬉しいことがあってもいいかも」


「嬉しいこと?」

フレアリアが身を乗り出す。


ウィスティアは風のように曖昧に微笑む。

「焼き過ぎないとか……転ばないとか……」

「ちょっとだけ追い風が吹くとか」


ルートミアが小さく頷く

「ささやかな支え」


ミラシアも同意する

「鍋の湯気が逃げないように、風を少し弱める……とかね」


フレアリアは目を輝かせる

「火加減は任せて!」


「余計なことしないで」

ウィスティアが即座に突っ込んだ。


ルーナフィリスは何も言わない。

ただ、ほんの少しだけ目元を柔らかくした。

許すでもなく、命じるでもなく。


『余計なものを足さない』という選択。


◆◆◆


その時、また新しい気配が届いた。

温かく、優しい。

それは、鍋の湯気の向こうにある誰かの手つき。


ミラシアが目を細める

「いい循環ね」


ルーナフィリスが頷く

「ええ、与えるものと、受け取るもの」

「その間にあるものが世界を保つ」


フレアリアが菓子をもう一つ取る

「で、次は何が届くと思う?」


ウィスティアが笑う

「当てるの、難しいって」


ルートミアは短く

「……待てばいい」


ミラシアが肩をすくめる

「待つのも、悪くないわ」


ルーナフィリスは茶を置き、白の庭園に漂う風を一度だけ受け止める。


(静……セリナ……)


声にしない名

けれどその想いはきっと、届くべきところにだけ届く。


お茶会はいつものように続いていった。

重くならない。

ただ、静かに。


善意が世界へ混ざっていくのを見守りながら。


イメージソングを作成してみました。

もし興味を持って頂けましたら、曲を聴きながら読んでくれたら嬉しいです。

物語の方も順調に書き進めていますので宜しくお願い致します。

https://suno.com/@10monoshin8


カクコムでも先行掲載しています。

もし続きが気になって読んでいただける方が居たら下記のページでお願いします。

https://kakuyomu.jp/works/822139842423376578

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