表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
観測者に見守られる屋敷で生きることにした ~静は世界を支配しない~  作者: 灯乃しんわ
第九章 静かな日々が結ばれるとき

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

95/109

第六話 小さな家族の名前

屋敷の朝は静かな音から始まった。


昨夜、鍾乳洞から連れ帰った淡い水色の小さな生き物――

まだ名もないその子は、屋敷の中でもっとも落ち着く場所を探すように

静かに歩き回っていた。


小さな足音が廊下を滑り、日当たりのいい窓辺へ行き

次は薄暗い棚の下を覗き込む。

焦っているわけではない。

ここがどんな場所なのかを自分の体で確かめているようだった。


「くぅ……」


小さく鳴く

その声は空気に溶けるように柔らかい。


ツキはその後ろをついて歩いていた。

監視というより――見守り。

歩調を合わせ、立ち止まれば一緒に止まり、また歩けば一緒に歩く。


「にゃ」

時折振り返る。大丈夫?とでも言うように。


あかねも少し距離を置いてついてくる。

「きゅ」


気にしている。でも、近づきすぎない。

自分も『お姉ちゃん側』になったという

小さな自覚がそうさせていた。


「すっかり懐いてますね」


廊下の端から見ていたセリナが穏やかに言う。


静は小さく頷いた。

「ここが安全だって分かってるんだろうね」


新しい子が静の足元へ寄る。

「くぅ」


迷いのない動きだった。


◆◆◆


朝食の時間


その日のメニューはごろごろ野菜たっぷりのスープ。

色とりどりの根菜が柔らかく煮込まれて、湯気とともに甘い香りが漂っている。


静が小皿に取り分けて差し出すと、新しい子はまず匂いをじっくりと確かめた。

鼻先をひくひくと動かし、少しだけ躊躇し――

それから一口すする。


「くぅ……!」

目を細め夢中で食べ始めた。

小さな口が一生懸命動いている。


セリナが微笑む

「気に入ったみたいですね」


ツキがその様子をじっと見ていた。

自分の分を見る

新しい子を見る

少しだけ考えて――そっと自分の分を押し出した。


「にゃ」

主張しない。ただ置くだけ。


新しい子は少し戸惑いながらも

「くぅ」


と、おずおずと食べ始める。


あかねは固まった。

「きゅ……」


自分の分を見る

新しい子を見る

ツキを見る

迷う。どうしよう、どうしよう。


静はその様子を見て何も言わずにスープをもう一度よそった。

ツキへ、あかねへ、新しい子へ。


そしてツキの頭をそっと撫でる。

「やさしいお姉ちゃんだね」

「にゃ」

満足そうに目を細めた。


あかねの頭も撫でる。

「たくさんあるから、大丈夫だよ」

「きゅ!」

安心したように食べ始める。


新しい子の頭を撫でる。

「お腹いっぱい食べな」

「くぅ」

また夢中になった。


少し離れた場所でフィアがぼそり

「……私もおかわりしよっかな」


リーナが肩をすくめる

「もうしてるでしょ」


「だって美味しいし」


◆◆◆


食後


三匹がそれぞれ思い思いの場所に落ち着いた頃

名前の話になったのは、ごく自然な流れだった。


「ずっと『あの子』じゃ呼びにくいですね」


セリナの言葉に、フィアが即座に反応する。

「名前つけようよ!」


ツキが「にゃ」と鳴き、あかねも「きゅ」と続く。

まるで賛成票を投じているようだった。


新しい子は首を傾げる。

「くぅ?」


自分の話をしているのだとは、まだ分かっていないかもしれない。

それでもその表情はどこか興味深そうだ。


フィアが腕を組んで考え込む。

いくつか候補が出た。

語感の良いもの、可愛らしいもの、鍾乳洞にちなんだもの。

でもどれもしっくりこない。

声に出してみては首をひねり、また別の案を出しては眉を寄せる。


静が少し考えた後、言った。

「ルゥ……とか、どう?」


短くて呼びやすい。

口にした瞬間不思議とその名がその子に合っている気がした。


ツキが「にゃ」と鳴く。

あかねも「きゅ」と続く。


新しい子は静を見上げた。

じっと、しばらく見続ける。


「くぅ」


それが返事だった。


◆◆◆


その日から屋敷の日常にルゥが加わった。


ツキはさりげなく面倒を見る。

ルゥが戸惑っていれば傍に寄り、不思議そうにしていれば一緒に眺め

眠くなれば隣で丸くなる。

押しつけがましくなく、でも確かにそこにいる。


あかねは少し背伸びする。

ルゥより先に何かを確かめようとしたり

自分が知っている場所へ案内しようとしたり。

上手くいかないこともあるけれど、その一生懸命さが微笑ましかった。


ルゥは静の近くを好む。

気がつけば足元にいて、気がつけば膝の上にいる。

それが一番落ち着くのだともう体で知っていた。


誰もこの子が特別な存在だとは思っていない。

ただ――

新しく増えた家族


それで十分だった。

イメージソングを作成してみました。

もし興味を持って頂けましたら、曲を聴きながら読んでくれたら嬉しいです。

物語の方も順調に書き進めていますので宜しくお願い致します。

https://suno.com/@10monoshin8


カクコムでも先行掲載しています。

もし続きが気になって読んでいただける方が居たら下記のページでお願いします。

https://kakuyomu.jp/works/822139842423376578

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ