閑話 守護は静かに生まれる
静かな白の庭園
風も、光も、音さえも柔らかく整えられたその場所で
五柱の女神たちは穏やかな時間を囲んでいた。
円卓の上には香り高い茶葉と見慣れぬ甘い菓子
――人の世界から届いたものだ。
それを眺めながらフレアリアがくすりと笑う。
「ねえルーナ姉さん」
「これ、やっぱりあの子たちのところから?」
ルーナフィリスは微かに目を細める。
「ええ」
「静が納得して送ってくれたものよ」
「……無理にではなくね」
その言葉に、四柱の女神たちは小さく頷いた。
それが一番大事だった。
誰かに命じられたのでもなく、奪われたのでもなく
自然に選ばれたもの。
だからこそ価値がある。
湯気が立ち上る中で水属性の女神ミラシアが、何気なく口を開いた。
「そういえば、わたしの眷属も生まれたわよ」
その声音は、あまりに軽い。
まるで「今日はいい天気ね」とでも言うような調子だった。
フレアリアが顔を上げる。
「え?」
ウィスティアも身を乗り出す。
「もう?」
ルートミアは静かにカップを置いた。
ミラシアはふわりと笑う。
「ええ、水晶の潤守護竜」
「まだ幼いけれど、ちゃんと生まれていたみたい」
そして、少し楽しそうに続ける。
「偶然だけど、静たちの近くにいたらしくて
……懐いて、一緒に住むことになったみたいよ?」
一瞬の沈黙
フレアリアがにやりと笑った。
「それって、また美味しいもの……
届く可能性があるってこと?」
ルーナフィリス軽くため息をつく。
「……期待の方向が違う気がするのだけれど」
しかし否定はしない。
むしろ、その可能性を内心で少しだけ期待している自分に気づいて
苦笑する。
ミラシアも笑った。
「無理にじゃないもの、静が納得して連れて行ったなら」
ルーナフィリスは頷いた。
「それなら、良いわ」
それがすべてだった。
守護竜は守る存在
だが何を守るかは、定義されない。
誰の命令でもなく誰の所有でもない。
ただ共に在る。
それを許すかどうかではなく、見守るかどうか。
その意味で――問題はなかった。
その後、ミラシアは軽く手を振る。
「ちゃんと伝えておいたわ、誤解されないように」
それは神託だった。
だが彼女にとっては、業務連絡に近い単なるお知らせ。
『水晶の潤守護竜は争いのために在らず、ただ、静かに守るために生まれた』
『その在り方は、害ではなく調和の一部である』
それだけ
重みを持たせたつもりも、意味を深めたつもりもない。
ただ伝えた。
フレアリアは満足げに頷いた。
「いいわね」
「これなら、前みたいに大騒ぎにならないでしょ」
ルートミアも同意する。
「……うむ」
「伝わる形は、大事」
前回の「カレート・ハン・バーグ」事件を思い出しながら
ルートミアは少しだけ反省している。
ウィスティアは少しだけ遠くを見る。
(……いいなぁ)
彼女の領域にも長く眠ったままの眷属がいる。
休止中のコアのそばで、まだ目覚めぬままの存在。
(あの子たちのところに行けたら)
(幸せかもしれない)
そんな思いがふと浮かぶ。
ルートミアもまた、同じことを考えていた。
表には出さないが内心で。
(……守られる場所)
(共に在る場所)
(悪くない)
もちろん、無理に連れていくなどとは考えていない。
ただ、もし自然に出会えたなら……
少しだけ――
美味しいもののお礼も期待してしまうかもしれない。
人のような、ささやかな期待
それがこの場にはあった。
フレアリアが楽しそうに言う。
「じゃあ、ツキやあかねと……新しい子と、仲良くするかしら」
「幼い守護竜たちが、一緒にいるなんて」
「想像しただけで、可愛いわね」
ミラシアも頷く。
「ええ」
「きっと、楽しいでしょうね」
◆◆◆
ルーナフィリスは静かに茶を口にする。
ミラシアの神託は正しく届くだろう。
誤解もなく。
過度な意味付けもなく。
そう思っている。
だからこそこの話題はすぐに終わった。
重く扱う必要はない、世界を揺るがす出来事ではない。
ただ一つの命が生まれ、居場所を見つけた。
それだけ。
◆◆◆
やがて話題はまた新しい菓子へと戻る。
「これ、前のより甘いわね」
「静が選んだのかしら」
「セリナかも」
「どちらでも良いわ」
「美味しいものは正義よ」
小さな笑い声が広がる。
五柱の神々は再び穏やかな時間へ戻り、お茶会は続く。
そして世界もまた――
静かに進んでいく。
神託は届き人の世界では少しだけざわめきが起こる。
だがそれも次第に収まるだろう。
守護竜の誕生
それは世界にとって脅威ではなく、祝福だと
ルーナフィリスは静かに微笑んだ。
(静……あなたのところに、また可愛らしい仲間が増えたわね)
その想いは、言葉にならない。
だが確かに届くだろう。
庭園には穏やかな風が吹いている。
女神たちの笑い声が静かに響いていた。
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物語の方も順調に書き進めていますので宜しくお願い致します。
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