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観測者に見守られる屋敷で生きることにした ~静は世界を支配しない~  作者: 灯乃しんわ
第八章 静かな理解と選ばれた距離

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第八話 空白地帯の新米冒険者

朝の空気は、少しだけ澄んでいた。


今回向かう遺跡の見学には《ルミナ・ヴェール》の四人――

アリア、リーナ、ミレイア、フィアは同行していない。


理由はいくつかあった。

ひとつはフレイアがこの場にいること。


彼女は上級冒険者であるアリアたちを含めても

単独で最上位に数えられる実力者だ。


静としてはその存在があれば

この周辺の遺跡見学に過剰な戦力は必要ないと判断していた。


もうひとつは《ルミナ・ヴェール》の四人が、同じ空白地帯内の別地点――

魔力変動が見られる区域の調査に向かっていることだ。


そして最後に


「調査を優先してほしい」


そう静自身が伝えたことも大きかった。


この空白地帯はまだ未知が多い。

安全が保たれている今だからこそ

無理のない範囲で把握を進めることが重要だと、彼は考えていた。


朝の支度を終え屋敷の前に集まったところで

フォルティナは一度、軽く咳払いをした。


「……その」


言いかけて少しだけ視線を泳がせる。


静とフレイア、セリナ

そして足元で落ち着きなく動き回るツキとあかね


「せっかくですし」


言葉を選ぶように、それから少しだけ意を決したように続けた。


「今日は……冒険者っぽく、いきませんか?」


フレイアが、きょとんとする。


「冒険者っぽく?」


「ええ。ですから、その……」


一瞬迷ってから


「敬語、やめましょう」


その場の空気がほんの一拍、止まった。


フォルティナは慌てて付け加える


「もちろん、強制ではありませんし……無理なら――」


「いいわね、ティナ」


遮るように言ったのはフレイアだった。


「私もその方が楽よ」


その呼び方に胸の奥がきゅっと鳴った。


「……フレイ」


自然に返した自分の声が、思っていたよりも近く聞こえて少し驚く。

ずっと「ギルドマスター」と呼び、「フレイアさん」と距離を置いていた。


でも、今は違う。

ただの友人として、対等な立場で呼び合うことができる。


静は二人のやり取りを見て、少しだけ困ったように笑ってから頷いた。


「……じゃあ、今日はそういう日ということで」


フォルティナの胸の奥で、何かがすとんと落ちた。


「ありがとう。……二人とも」


その言葉はもう敬語ではなかった。

自然に、柔らかく、心から出た言葉だった。


◆◆◆


遺跡へ向かう道中、ツキが先頭を切るように駆け出す。


「にゃ、にゃっ」


誇らしげに振り返り、"こっち"と言わんばかりに鳴く。


その後ろを、あかねが小さな翼をばたつかせながら追いかける。


「……みゅ」


転びそうになりながらも、必死についていく姿に

フォルティナは思わず目を細めた。


(……危険な存在、なんて)


誰がこんな光景を見て、そう思うだろうか。


「……張り切りすぎじゃない?」


フォルティナが言うと、フレイアは小さく肩をすくめた。


「自分たちが案内役だと思ってるんでしょ」


「ふふ……頼もしいわね」


その言葉は自然に口をついて出た。


気づけば"評価"でも"立場としての言葉"でもない。

ごく普通の何気ない会話


(……いいな)

(こういう、理由のいらない会話)


領主として、常に言葉を選び、立場を意識してきた。

今は違う。

友人として、自然に言葉を交わすことができる。


道は緩やかで、森の中を抜けていく。

木漏れ日が差し込み、足元には柔らかな草が広がっている。

鳥のさえずりが心地よく、風が頬を撫でていく。


セリナが少し先を歩きながら振り返った。


「この先に、綺麗な花が咲いている場所がありますよ」


「本当?」


フォルティナの声が自然と弾む。


(……こんなに、気楽に話せるなんて)


領主になってから、こんな風に他愛のない会話をしたことがあっただろうか。


◆◆◆


遺跡は想像していたよりも穏やかな場所だった。

崩れた石壁、苔むした床、かつて何かがあったことだけを残している空間。

時の流れを感じさせる静寂がそこには漂っていた。


フォルティナは目を輝かせた。


「……本当に遺跡ね……」


「がっかりした?」


フレイアが聞くと、首を横に振る。


「逆!すごく、それっぽい!」


石壁に触れ、床に刻まれた古い紋様を覗き込みながら

フォルティナは少女のように興奮していた。


「宝箱とか……ありそうよね」


フレイアが少しだけ目を丸くしてから、くすりと笑った。


「罠があったら解除をお願いね」


「……え?」


「元・領主様」


その冗談めいた呼び方に、フォルティナは一瞬だけ言葉を失い――

次の瞬間、声を上げて笑っていた。


「それは……ずるいわ」


「でしょう?」


二人の間に不思議と沈黙はなかった。


(……ああ)

(こういうやり取りを、私は……)


心の奥で、何かがほどけていくのを感じる。

長い間張り詰めていた何かが、静かに解けていく。


静は少し離れたところで、セリナと一緒に遺跡の壁を眺めていた。


「……昔は、ここに何があったんでしょうね」


セリナが呟くと、静は少し考えてから答える。


「分からないけど……きっと、誰かの大切な場所だったんじゃないかな」


その言葉にフォルティナは思わず耳を傾けた。


(……そうね)


遺跡は、ただの廃墟ではない

誰かが暮らし、笑い、生きた場所

そう思うと、この静寂が少しだけ温かく感じられた。


◆◆◆


湖畔に着いた頃には、陽はすっかり高くなっていた。

水面は静かで風が通るたびに、さざ波がきらめく。

木々の葉が揺れ、鳥のさえずりが遠くから聞こえてくる。


腰を下ろし簡単な昼食を広げる。


セリナが微笑みながら配るパンを受け取り

フォルティナは小さく礼を言った。


「……こうして座っているだけなのに、こういう時間、久しぶり……かな」


ぽつりと言葉がこぼれる。


「何も考えなくていいっていうのは……」


一瞬、言葉を探してから正直に続けた。


「思っていた以上に、気が楽ね……」


フレイアはすぐには答えなかった。


湖を見つめながら、ゆっくりと頷く


「……私も似たような経験があるわ」


その声は穏やかだった


「役割があることは、大切よ……でも」


少しだけ間を置いて


「役割を降ろす時間がないと……壊れてしまう」


フォルティナは、はっとして彼女を見る。


(……この人は)

(知っている)


責任の重さも、背負い続けることの苦しさも

だからこそ、慰めでも、忠告でもなく

"共有"として語ってくれている。


「……ありがとう」


その言葉にフレイヤは小さく首を振った。


「これからは必要なら一緒に考えましょう」

「国と空白地帯のことも」

「教会との距離のことも」


それは、友人としての言葉

同時に――未来への、静かな約束


◆◆◆


帰り道

夕暮れの中、ツキとあかねが先を走る。

フォルティナはその背中を見つめながら思う。


(今日のことを……私は忘れない)

(たとえ、また重い立場に戻ったとしても)


ここには"理解してくれる人たち"がいる

それは領主としてではなく――一人の人間として


静の隣を歩きながら、フォルティナは静かに言った。


「……また、来てもいいでしょうか」


静は少し驚いたように瞬きをしてから、柔らかく答えた。


「ええ、歓迎しますよ」

それだけで十分だった。


この場所は逃げ場ではない

けれど――戻ってきたいと思える場所だった。


夕日が一行を優しく照らしている。

ツキとあかねが嬉しそうに走り回る姿が、影を長く伸ばしていた。


フォルティナは心の中で呟く


(また、来よう)

(きっと、また)


そして屋敷へと帰る道を

ゆっくりと歩いていった。

イメージソングを作成してみました。

もし興味を持って頂けましたら、曲を聴きながら読んでくれたら嬉しいです。

物語の方も順調に書き進めていますので宜しくお願い致します。

https://suno.com/@10monoshin8


カクコムでも先行掲載しています。

もし続きが気になって読んでいただける方が居たら下記のページでお願いします。

https://kakuyomu.jp/works/822139842423376578

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