表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
観測者に見守られる屋敷で生きることにした ~静は世界を支配しない~  作者: 灯乃しんわ
第七章 静かな日常が世界に届く

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

74/80

第十話 集まる兆しと加速する誤解

フォルツの街路にはすでに朝の光が満ち

建物の壁面には金色の帯が斜めに走っている。


石畳はまだ少し冷たさを残していたが、通りを行き交う人々の影は長く伸び

街はゆっくりと一日の動きを取り戻しつつある。


商人たちが店の扉を開け、子供たちが路地を駆け抜けていく

いつもと変わらない、平和な朝の風景。


フレイアは街の中心部へ向かった。

領主邸の白い外壁が朝日に照らされて輝いている。


邸内の窓にはすでに灯りがともり、朝の業務が始まっているのがわかる。

廊下には整然とした足音が響き、使用人たちが静かに行き交っていた。


街全体が目を覚まし始めたばかりのこの時間

領主邸だけはすでに完全に動いていた。


フレイアは執事の案内に従い、応接の間へ通された。

部屋には朝の光が差し込み、磨かれた木製のテーブルに

柔らかな反射を落としている。

緊急の来訪にもかかわらず、室内は整えられた静けさを保っていた。


ほどなくして扉が開き、若い女性が姿を現した。

二十二、三ほど

背筋を伸ばし、落ち着いた表情を崩さないが

瞳の奥にはまだ馴染みきらない緊張が宿っている。


フォルツ領主――フォルティナ=フォルツ=リーネ


就任したばかりの若い領主だと聞いていたが、噂以上に芯のある気配を纏っていた。


「冒険者ギルド・ルミエール本部、ギルドマスターのフレイア・ノートです。

 緊急の用件でお伺いしました」


フレイアは礼を尽くして挨拶する。


「冒険者ギルド・フォルツ支部への緊急要請と伺いました」

開口一番、そう告げられ、フレイアは一瞬だけ驚いたがすぐに頷く。


「正確には……支配エリアコアの使用許可をお願いに来ました。

 ギルドマスター権限による、緊急転移です」


その言葉に、フォルティナの目がわずかに見開かれる。

支配エリアコア、それも緊急転移

王都や中央と直結するその権限は、平時にはまず使われない。

戦時、もしくは国家的危機の際にのみ発動される、最上級の転移手段だ。


一拍の沈黙


だが彼女はすぐに息を整え、静かに頷いた。

「理由は、聞かない方が良いのですね」


「……はい」


「分かりました」

即答だった


「領主として、この街の責任は私にあります。

 ギルドマスターがそこまで動く事態なら、躊躇する理由はありません」


若さに頼らない声

覚悟の重みが、言葉の端々に滲んでいる。


「準備を……すぐにコアを起動します」


フレイアは胸の内で深く息を吐いた。

(……この判断の重さを、どれほどの人が分かるだろう)


若い領主がここまで的確に動ける、それは単なる才能ではない。

責任を背負う覚悟があるからこそだ。

だが、それを口にはしなかった。


◆◆◆


支配エリアコアの光は相変わらず無機質で圧倒的だった。

次の瞬間、フレイアの視界は切り替わる。


王都


転移したその瞬間から、異変は明らかだった。

まだ朝になって間もないというのに、騎士が走り、神官が早足で行き交い

使者が何人もすれ違う。


誰もが表情を引き締め、緊張に満ちた空気の中を動いている。

空気が張り詰めている。


(……これは)

フレイアは唇を引き結んだ。


(焔守護竜の時より……重い)


理由は分からない。

世界が本気で揺れている。

それだけは、はっきりと感じられた。


◆◆◆


一方、少し時間を遡る。


教会中央監察局では支配エリアコアの転移陣が

立て続けに起動していた。


光、魔力の波、次々と現れる人影

各国の代表、各神殿の上層、冒険者ギルド関係者


本来なら厳粛な会議が行われるはずの大広間は

すでにその体裁を保っていなかった。


円卓に着く前から、怒号が飛び交っている。


「それで、『最凶』とは何を指すのだ!」

「神託でそこまで明言された例があるか!?」

「魔王級では済まない可能性すら――」


書記官たちは必死に記録を取っていたが、すべてを書き留めるのは不可能だった。

言葉が重なり、声が交錯する。


「カレート・ハン・バーグ……?」

「聞いたことがない」

「新たな固有名か?」


言葉だけが独り歩きし、意味は誰の手にも掴めていない。

情報が伏せられていることが、さらに混乱を招いていた。


「なぜ内容を公表しない!」

「公表すれば民が混乱する!」

「すでにしている!」


怒号に怒号が重なり監察局の職員ですら、疲労と焦りを隠せずにいた。


◆◆◆


フレイアは荒れた大広間を静かに見渡し、円卓の一角で静かに座っていた。

表情は崩さず背筋も伸ばしたまま。


だが内心では、先ほどから同じ言葉が何度も反芻されていた。


(最凶の存在……カレート・ハン・バーグ……)


奇妙な違和感。言葉の並びが、どこか耳に残る。


カレート

ハン・バーグ


無意識のうちに記憶が遡る。


――昨夜、屋敷の食堂、湯気と香り、静が少し照れながら並べた料理。


(……待って)


思考が急激に加速する。

(カレート……ハン……バーグ……? それって……)


喉が、ひくりと鳴った。

(カレーと、ハンバーグ……?)


一瞬、世界が静止したように感じられた。

(『最凶』じゃなくて……『最強』……? 組み合わせが……?)


直後、背筋に冷たいものが走る。

同時に別の記憶が鮮明に浮かび上がった。


――セリナが言っていた言葉

「女神ルーナフィリス様へ、お供えを」


(……届いてる)

(あれ、確実に……神域に届いてる……)


もし、もしも

神託として受信されたのが、味覚と感動と感情の塊だったとしたら

それを言葉に変換する過程で――


(……やってしまった……わね)


内心、青ざめながらもフレイアの外見は崩れなかった。

ギルドマスターとしての鍛錬が、表情を保たせている。


そして彼女はゆっくりと口を開く


「発言を」

よく通る声、ざわめきが少しずつ収まる。


「確認ですが――今回の件、現地観測はどこまで行われていますか?」


監察官が一瞬言葉に詰まる。

「……神託が最優先で」


「つまり、現場を見た者はいないのですね」

フレイアは続けた。

「焔守護竜の件も、今回の『最凶』とされる存在も――

 すべて『概念』だけが先行しているように見えます」


一拍、置く


「神託の内容は、必ずしも言語的に正確とは限りません。

 感情、印象、象徴――

 それらが混ざり合い、受け手によって解釈が揺れることは過去にもありました」


険しい視線が集まる。


しかしフレイアは言い切った。


「我々は『現場』を見ていないまま

 『名前と評価』だけで事態を膨らませている可能性がある」


周囲の空気が変わる。


「――観測者の関与が考えられます」


誰も反論できなかった。


議長が低く声を発する。

「……調査方針を変更する」


大広間が静まり返る。


「未知の存在そのものではなく、『空白地帯』と、そこに関わる個人を最優先観測対象とする」


名はまだ出なかった。

だがフレイアだけは、その『個人』が誰なのかを理解していた。


(……もう一度、あそこへ)

(セリナの祈りが届けば――正しく『伝え直せる』)


ふと、思い浮かぶ顔がある。


フォルツ領主――フォルティナ=フォルツ=リーネ

若くして領地を預かり、緊急時にも判断を躊躇わなかった女性


(……代表として、彼女と私が行けば……)


公的にも筋は通る

ギルドとしても、王国としても


その判断が、後に「国を救った決断」と評されることを――

この時のフレイアはまだ知らない。

イメージソングを作成してみました。

もし興味を持って頂けましたら、曲を聴きながら読んでくれたら嬉しいです。

物語の方も順調に書き進めていますので宜しくお願い致します。

https://suno.com/@10monoshin8


カクコムでも先行掲載しています。

もし続きが気になって読んでいただける方が居たら下記のページでお願いします。

https://kakuyomu.jp/works/822139842423376578

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ