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観測者に見守られる屋敷で生きることにした ~静は世界を支配しない~  作者: 灯乃しんわ
第五章 静かな日常に役目が宿る

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閑話 甘い香りのする午後

静謐な空気に包まれた庭園の一角

見渡す限りに広がる緑豊かな庭には、色とりどりの花々が咲き誇り

穏やかな風が木々の葉を揺らしている。


小鳥のさえずりが遠くから聞こえ、噴水の水音が静かに響く。

その庭園の中でも、ひときわ美しく整えられた場所に

白い石造りのガゼボが佇んでいた。

そのガゼボの下で、ひとりの女性が優雅にティーカップを傾けていた。


透き通るような銀髪が、陽光を受けてやわらかく揺れる。

白磁のような肌、涼やかな瞳、そして品のある佇まい。

目を引くほどの美しさと、自然と周囲を静かにさせる気品を纏った女性だった。

彼女の周りには、まるで時間がゆっくりと流れているかのような

穏やかで神聖な空気が漂っている。


「ふふっ……」

小さく笑みをこぼし、彼女は籠に入った焼き菓子をひとつ口に運ぶ。


「……本当に……美味しいわね」

木の実と乾燥果実の香りが口の中に広がる。

噛むほどに広がる、どこか懐かしく、あたたかな甘さ。

素朴でありながら、丁寧に作られたことが伝わってくる、優しい味わいだった。


その表情は年若い娘のように無防備で、どこか上機嫌だった。

普段の凛とした雰囲気とは違う、柔らかく幸せそうな笑顔。

誰かに見られていたら、きっと驚かれるような自然体の姿だった。


――と


「姉さん、今日はずいぶん楽しそうね」

不意に背後から声がした。


女性はびくりと肩を震わせ、慌てて振り返る。


「なっ……な、なんでもないわ。どうしたの、急に」

そう言いながら、手元の籠をさりげなく背後へ隠す。

その仕草は、まるで子供が大事なおもちゃを隠すかのような、慌てた様子だった。


声の主――赤みを帯びた髪を持つもう一人の女性は、その様子を見て

くすりと笑った。


「ふうん……?なんだか嬉しそうにしてるし……」

すっと一歩近づき、鼻先をくいっと動かす。


「それに、とっても良い匂いがするなぁって思って」


「な、何も……何もないわよ?」

姉と呼ばれた女性は視線を逸らしつつも、隠しきれない様子だった。

頬にはわずかに紅が差し、普段の冷静さはどこへやら、完全に動揺している。


しばらくの沈黙の後、観念したように小さく息を吐く。

「……フレアリア。あなたも食べますか?」


「いただくわ♪」

迷いなく答え、妹――

フレアリアは焼き菓子を一つ摘まんだ。

軽やかな動作で口に運び、ゆっくりと味わう。


「あら……」

一口食べて、目を丸くする。


「木の実とドライフルーツ?

素朴だけど……とても美味しいわね、この焼き菓子」


「そうでしょう?」

姉は少し誇らしげに微笑んだ。

まるで自分が褒められたかのような、嬉しそうな表情だ。


「気持ちを込めて作ってくれたって、言っていたし……」

その声音はどこか柔らかい。

普段の厳かな口調とは違う、温かみのある声だった。


「いいなぁ、姉さん」

フレアリアは素直に言った。


「私も何か送ってもらえないかしら」


「……無理を言って、強請ってはだめよ?」

姉は優しく、しかしきっぱりと答える。

その言葉には、妹を諭すような、しかし愛情に満ちた響きがあった。


「そうよねぇ」

妹は肩をすくめる。


「たまに、ここまで届くことはあるけど……甘味はほとんど無いもの」


少しだけ拗ねたように笑い

「姉さんが、うらやましいなぁ」


「もし……また何か届いたら」

姉はそう言って、妹の頭をそっと撫でた。

その仕草は、まるで幼い妹をあやすかのような、優しいものだった。


「その時は、分けてあげるから。それで我慢しなさいね」


「ありがとう」

フレアリアは満足そうに微笑み、踵を返す。

「じゃあ、ちょっと用があるから。またね」


「ええ、また」

ガゼボを離れていく背中を見送り、姉は再び籠へと視線を落とした。


残された焼き菓子を一つ手に取り、静かに呟く。

「……本当に不思議なご縁ね」

その声は、風に溶けて消えていった。

庭園には再び静寂が訪れ、ただ風に揺れる木々の音だけが響いている。


◆◆◆


――その頃。


遠ざかる妹は心の中で考えていた。


(あんなに美味しい焼き菓子……)


足を進めながら、さっき食べた焼き菓子の味を思い出す。

素朴でありながら、心のこもった優しい味わい。

あれほど美味しいものを、姉は受け取っているのだ。


(私も、あの二人に何かしてあげたら、甘味とか……いただけるかしら?)


そんな小さな思惑が、彼女の心の中でゆっくりと形を成していく。

何か役に立つことをすれば

きっとお礼として美味しいものをもらえるかもしれない。

そんな少しだけ打算的で、でもどこか可愛らしい考えだった。


そんな小さな思惑が、やがて思いもよらぬ形で

誰かの日常に触れることになるとは――

まだ、誰も知らない。


庭園には穏やかな午後の光が降り注いでいた。

甘い香りを残して、フレアリアは去っていく。

その背中には小さな期待と、ほんの少しのいたずら心が滲んでいた。


時は静かに流れ進んでいく――

それぞれの想いを乗せて。

イメージソングを作成してみました。

もし興味を持って頂けましたら、曲を聴きながら読んでくれたら嬉しいです。

物語の方も順調に書き進めていますので宜しくお願い致します。

https://suno.com/@10monoshin8


カクコムでも先行掲載しています。

もし続きが気になって読んでいただける方が居たら下記のページでお願いします。

https://kakuyomu.jp/works/822139842423376578

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