閑話 それぞれの朝、それぞれの準備
屋敷側
焼き菓子を供えた翌日の朝
屋敷には、いつもと変わらない穏やかな空気が流れていた。
窓から差し込む朝日が優しく、鳥のさえずりが遠くから聞こえてくる。
静は庭で採取用の籠を手に、食材になりそうな野草を摘んでいた。
この世界に来てから、少しずつ覚えた知識。
セリナに教えてもらった食べられる草花を
慎重に選びながら摘んでいく。
「これは……確かサラダにできるって言ってたな」
柔らかな葉を手に取り、香りを確かめる。
爽やかで、少しだけ青臭い。
でも嫌な感じではない。
「にゃ」
足元から小さな声
ツキがいつものように静のそばにいた。
ただ今朝は少しだけ様子が違う。
時折、空白地帯の方角へと視線を向け
耳をぴくりと動かしている。
「ツキ? どうかした?」
静が声をかけると、ツキはすぐに視線を戻し
何事もなかったかのように静を見上げた。
「にゃぁ」
いつもの鳴き声
その尻尾は少しだけ落ち着きなく揺れていた。
「……気になることでもあるのかな」
静は少し考えてからツキの頭を撫でる。
「まあ、何かあったら教えてね」
「にゃ」
ツキは満足そうに喉を鳴らしたが
それでも時折遠くを気にするような仕草を見せていた。
屋敷に戻るとセリナがキッチンで朝食の準備をしていた。
「お帰りなさい、静様」
「ただいま。これ今日採ってきた野草」
静が籠を差し出すとセリナは嬉しそうに中を覗き込んだ。
「わぁ、たくさん採れましたね。
これならサラダとスープが作れそうです」
「そっか。じゃあ、今日の昼はそれで」
二人は並んで調理台に立ち、朝食の準備を始める。
静がパンを切り、セリナがスープを温める。
ツキはその足元で丸くなっていた。
「そういえば、セリナ」
静がふと思い出したように言う。
「昨日、お供えした焼き菓子……本当に届いたのかな」
セリナは少し考えてから、微笑んだ。
「きっと、届いていると思います」
「どうして分かるの?」
「……なんとなく、ですけど」
セリナは視線を落とす。
「ルーナフィリス様は、いつも見守ってくださっている気がします。
だから、きっと……受け取ってくださったと思うんです」
その言葉には確信があった。
静はセリナの横顔を見て小さく頷く。
「そっか。ならまた作ろうか。
美味しいって思ってもらえるといいな」
「はい。一緒に作りましょう」
二人の会話は、穏やかで温かい。
ツキもその様子を見て満足そうに目を細めていた。
フォルス側
辺境の街フォルス。
《ルミナ・ヴェール》の四人は、王都から戻ってきた翌朝
宿の食堂で朝食を取っていた。
「やっぱり、フォルスの朝は落ち着くわね」
アリアがパンを一口齧りながら言う。
王都の喧騒とは違う、素朴で静かな街の空気が心地よい。
「うん、なんか……ほっとするよね」
フィアも頷く
「それに、ここから静たちのところへ行けるって思うと、
なんだか嬉しくなっちゃう」
「……フィア、本当に食べ物目当てでしょ」
リーアが呆れたように言うと、フィアは慌てて否定する。
「ち、違うよ! ちゃんと任務のこともあるし!」
「はいはい」
ミレイヤが苦笑する
朝食を終えた後、四人は街へ出て物資の補給を始めた。
保存食、回復薬、予備の武器や防具
長期滞在を想定して、必要なものを一つ一つ確認していく
「回復薬は多めに持っていきましょう」
ミレイヤが薬屋で瓶を手に取りながら言う。
「ええ。念のためにね」
アリアも同意する。
市場ではフィアが食材を物色していた。
「ねえねえ、これ美味しそうじゃない?」
「フィア、私たちが買うんじゃなくて、静に渡す用でしょ?」
リーアが指摘すると、フィアは少し恥ずかしそうに笑った。
「そうだけど……でも、喜んでくれそうじゃない?」
「まあ、それはそうだけど」
四人は静やセリナが喜びそうな食材や香辛料を選びながら
少しずつ荷物を増やしていく。
昼過ぎ宿に戻った四人は、装備の最終確認を始める。
「今回の任務は……慎重にいかないとね」
アリアが地図を広げながら言い
「ええ。教会、王国、ギルド……三者の意向を背負っているわけだから」
ミレイヤも頷く。
「でも、私たちがやることは変わらないよね」
フィアが明るく言う。
「静たちを守る。それだけ」
「そうね」
リーアも同意する。
「ただ、今回は……少し複雑だわ」
アリアが真剣な表情で続ける。
「静が、どれだけ特別な存在なのか。
それを私たちはまだ完全には理解していない」
「でも、だからこそ……私たちが側にいる必要があるんじゃない?」
ミレイヤが静かに言う。
「静は力を持ちながらも、それを振りかざさない。
普通の日常を大切にしている。その在り方を守りたいの」
その言葉に皆が頷いた。
夕暮れ時
四人は宿の部屋で明日の出発に向けて
最後の準備を整えていた。
「明日の朝、早めに出発しましょう」
アリアが言う
「ええ。静が気づいたら、きっと迎えに来てくれるわ」
ミレイヤも頷く
「楽しみだね~また、あの美味しいご飯が食べられる!」
フィアが嬉しそうに言うと、リーアが呆れたように笑った
「本当に、食べ物のことしか考えてないわね」
「そ、そんなことないって!」
そんなやり取りを見て、アリアは小さく微笑んだ。
任務は重い、それでも守りたい日常がある。
静やセリナと過ごす、穏やかで温かい時間
それを守るために四人は再び歩き出す
窓の外には茜色の空が広がっていた。
明日、また新しい一歩が始まる。
その夜
屋敷では静とセリナが夕食を終え、ゆっくりとお茶を飲んでいた。
「明日も穏やかな一日になるといいですね」
セリナが微笑む
「うん。そうだね」
静も頷く
ツキは二人の足元で丸くなっていた。
その耳は時折遠くを向いている。
まるで誰かが近づいてくるのを感じ取っているかのように
静かな夜が屋敷を包み込んでいた。
イメージソングを作成してみました。
もし興味を持って頂けましたら、曲を聴きながら読んでくれたら嬉しいです。
物語の方も順調に書き進めていますので宜しくお願い致します。
https://suno.com/@10monoshin8
カクコムでも先行掲載しています。
もし続きが気になって読んでいただける方が居たら下記のページでお願いします。
https://kakuyomu.jp/works/822139842423376578




