閑話 静かな夜に届いた役目
王都ルミエールの夜は、昼とは違うざわめきを持っていた。
人の声は低く、足音は慎重になり、灯りの下では誰もが言葉を選んでいる。
酒場の喧騒も、どこか控えめだ。
《ルミナ・ヴェール》の四人が宿に戻った頃には
肉体的な疲労よりも、胸の奥に溜まった重さの方が勝っていた。
「……さすがに、疲れたわね」
リーナが椅子に腰を下ろし、静かに息を吐く。
「戦ってないのに、ね」
フィアが苦笑する。
「でも、やれることはやったと思う」
その言葉に誰も否定しなかった。
アリアは窓辺に立ち、夜の街を見下ろしている。
教会
王城
冒険者ギルド本部
どの建物にも、まだ灯りが残っていた。
(……踏み込ませなかった)
それだけは、確かだった。
やがて控えめなノック音が響く。
アリアが扉を開けると、そこには冒険者ギルドの使いが立っていた。
「ギルドマスターより、至急」
差し出されたのは、一通の書状
封蝋には、二つの印章が押されている。
教会とルミエール王国。
それを見た瞬間、部屋の空気が一段張りつめた。
「……来たわね」
ミレイアが小さく呟く。
扉を閉め、アリアは書状を机の上に置いた。
一拍、置く
誰も急かさない
そして封を切る
中に記されていたのは、簡潔でしかし慎重に選ばれた言葉だった。
――《ルミナ・ヴェール》を
観測者案件における【橋渡し役】として任命する。
――当該案件の主と、教会・王国との間に立ち
敵対関係を生まぬよう調整にあたること。
――定期的な状況報告を求める。
報告経路はフォルツ冒険者ギルド経由でも可とする。
リーナが思わず息を吐いた。
「……かなり、柔らかいわね」
アリアは続きを読む
――緊急時に限り
短文のみ送信可能な連絡用魔道具を貸与する。
その一文にフィアが目を丸くする。
「本気だ……」
だが、書状の最後に記されていた文言が、彼女たちの視線を釘付けにした。
――【当該案件の主の要望は、すべてに優先する。】
教会・王国・冒険者ギルドは
これを侵してはならない。
しばらく……誰も言葉を発せなかった。
「……つまり」
ミレイアが、静かに言う。
「守るための役目を、正式に任されたってことね」
「ええ」
アリアは頷いた。
「それ以上でも、それ以下でもない」
リーナが、ほっとしたように肩の力を抜く。
「切り離されなかった」
「同時に」
ミレイアが続ける。
「境界に立たされた」
重い役目だ
だが――
アリアは、ゆっくりと笑った。
「悪くないわ」
三人が彼女を見る。
「誰かが前に出て、名を与えて、囲い込むより
知っている私たちが、距離を保つ方がいい」
フィアが、少し照れたように笑う。
「……門番、ってやつ?」
「似たようなものね」
ミレイアが答える。
「通していいものと、通しちゃいけないものを分ける役」
アリアは、書状を丁寧に畳んだ。
(静……)
あの屋敷で過ごした、穏やかな時間
誰かを支配する気配も、利用する意志もなかった人
(この役目なら……
あの人たちの日常を、壊さずに済む)
アリアは、静かに決意する。
「引き受けましょう」
三人は、迷いなく頷いた。
夜は、まだ深い。
だがこの夜は、《ルミナ・ヴェール》にとって
世界と日常の間に立つと決めた夜でもあった。
夜の王都が静かに眠りにつこうとしていた。
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物語の方も順調に書き進めていますので宜しくお願い致します。
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