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観測者に見守られる屋敷で生きることにした ~静は世界を支配しない~  作者: 灯乃しんわ
第五章 静かな日常に役目が宿る

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第三話 木の実と、ちょっと得意な案内役

朝の空気はまだ少しだけ、冷たかった。


静は籠を手に屋敷の外へ出る。

朝食用の食材を集める、いつもの収穫。

霜が降りるほどではないが、息が白く見える。


その少し前を黒い影が跳ねる

ツキだった。


本人はどうやら「見回り」をしているつもりらしく

時折立ち止まっては周囲を見渡し

またぴょこんと歩き出す。

尻尾を立てて、誇らしげに


――ただ、どう見ても


(……散歩だよな)

静は苦笑する。


ツキは草の間から顔を出した赤い果実を見つけると、ぴたりと足を止めた。


「にゃぁ」

ちらっと静を見る。


「にゃぁ、にゃぁ」

もう一度、少し強めに鳴く

まるで「見て見て」と言っているかのように


「……ん~、食べたいのかな?」


静が近づくと、ツキはその場でくるりと一回転し

誇らしげに果実を見上げた。


ステータスメニューをそっと開く

「食用可能か……」


小さく頷き籠に入れると

ツキは満足そうに「にゃぁ」と鳴いた。

完全に自分の手柄という顔だった。


◆◆◆


その頃、屋敷の中ではセリナが礼拝堂を整えていた。

床を拭き、簡素な祭壇に花を供え、静かに手を合わせる。

朝の光が差し込み、部屋全体が柔らかく照らされている。


「……今日も穏やかな一日になりますように」


祈りの中で、ふと、柔らかな気配が降りてくる。


『もっと、自由にしていいのですよ』

声は短く、穏やかだった。


『楽しんでいますか?』

問いかけというより、気遣いのような響き。


(……はい)

セリナは心の中で答える。


最近はこうして時折、一言二言だけが聞こえる。

明日は冷える、とか

無理はしないように、とか


神託というより

――まるで娘を案じる母の声のようだった。


(今日はですね……)

セリナは祈りの中で静かに語る。


昨日あったこと

ツキがはしゃいでいたこと

静が少し照れた顔で料理を教えてくれたこと


話すたびに胸の奥があたたかくなる。


◆◆◆


朝食のあと、静がふと思い出したように言った。

「そうだ、セリナ、木の実を採りに行ってみない?」

「木の実ですか?」

「うん。この間ツキがさ、果樹園の先の森で見つけたんだ」


ツキがぴんと耳を立てる。


「向こうじゃ見たことない種類なんだけど、ステータスでは『食用可能』って出てて、何かに使えそうかなって」


セリナは少し考え、にこりと微笑んだ。


「ツキが見つけたなら、きっと美味しい木の実だと思います」


そう言ってツキを見る。

「ね?ツキ」


「にゃぁ」

胸を張るように鳴くツキ

完全に誇らしげだった。


◆◆◆


森の中は静かで木漏れ日が心地よかった。


ツキは少し前を歩き、時折立ち止まっては

「にゃぁ」と鳴いて振り返る。


――完全に案内役だった。


「あ、これは……」

セリナが指差す


「とても甘い木の実ですね。市場にもあまり出回らないんですよ」


「へぇ……」


説明を聞くたび、ツキが「にゃぁ」と鳴く。


――まるで

「でしょ?」と言っているかのように


「こちらは焼き菓子に合いますし、これは保存食にもできます」


「にゃぁ」

呼ばれてもいないのに、毎回返事をする。


やがてツキは静の足元に寄ってきて

前足でちょん、と触れた。


「……何か作ってほしいの?」


「にゃぁ」

即答だった。


そのまま静の足にすり、と頬を寄せる。


「はいはい……」

静は苦笑しながら、ツキの頭を撫でる。


「下処理して、明日なにか作ろうか」


「はい。楽しみですね」


ツキは嬉しそうに尻尾を揺らした。


二人と一匹の、何も起こらない、穏やかな一日

木漏れ日が優しく照らしていた。


――その日常は確かに世界の外側で育っていた。



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