第二十五話 温かなお土産と巡る日々
待ち合わせ場所であるセレニアの中央広場に到着すると、すでにミレイアとリーナ、そしてルゥとマルたちがベンチの近くで待っていた。
二人の膝の上では、ルゥとマルがミレイアからもらった蜜漬けのドライフルーツを「もぐもぐ」と幸せそうに頬張っている。二匹の小さな翼やしっぽが嬉しそうにパタパタ、ゆらゆらと揺れる愛らしい姿に、ミレイアもリーナも和やかな笑顔を浮かべていた。
「あっ、静たちも来たわね」
ミレイアたちが立ち上がると、ベンチの脇には購入した可愛らしいガラス細工や、ナッツとドライフルーツを砂糖で固めた香ばしいお菓子、そしてリーナが露店で見つけ出した古風な羊皮紙の書物が綺麗にまとめられていた。
そこへ、別の通りからアリアとフィア、そしてあかねとハルがやってきた。
飲食店系の露店を巡ってきた二人は、気に入った香ばしい肉串や厚切りハム、燻製ベーコン、ソーセージなどを大量に買い込み、マジックポーチへ仕舞い込んでいたようだが……フィアとお腹をぽっこり丸くしたあかねは、どうやら美味しさのあまり食べ過ぎてしまったらしく、少し苦しそうにお腹をさすっていた。
「うぅ……美味しくてつい食べすぎちゃった……」
「きゅぅ……」
「まったく、だから途中で『ほどほどにしておきなさい』って言ったじゃない」
アリアが呆れたように苦笑いを浮かべつつも、二人の背中を優しく撫でてあげる。アリア自身はほどほどに食べ歩きを楽しみつつ、お屋敷で静に美味しく調理してもらうための上質な燻製肉や食材を吟味して買ってきていた。
そこへ一足先にドライフルーツを楽しんでいたマルとルゥが、戻ってきた二匹に気づいてトコトコと駆け寄ってきた。
「ぷぷぅ!」「くぅ〜」
マルとルゥは、「これすごく美味しいよ! あかねもハルも食べる?」と言わんばかりに、手に持っていた蜜漬けのドライフルーツを差し出してみせる。
ハルは「ひゅん♪」と大喜びで羽を揺らし、ルゥからお裾分けしてもらったドライフルーツを嬉しそうにパクッと受け取って頬張った。
しかしお腹がパンパンのあかねは、甘く香ばしいドライフルーツを目の前にして「食べたい……でも苦しくて入らない……!」と葛藤し、前足をぽむぽむさせながら「きゅぅ……きゅぅ……」と悔しそうに涙目で首を横に振っていた。
「あはは、あかね、気持ちは分かるけど我慢だね」
「ふふ、無理をしてまたお腹を壊したら大変ですものね」
静やセリナが苦笑いしながら和やかに見守る。
「ごめんね、みんな。少し待たせちゃったかな?」
静が声をかけると、アリアたちは「ううん、私たちも今集まったところよ」と爽やかに笑った。
「あっちの屋台のソーセージが絶品だったのよ」「こちらの古い図録も素晴らしい掘り出し物だったわ」などと、お互いの戦利品や楽しかった思い出を賑やかに報告し合いながら、一行は人通りの少ない静かな裏路地へと移動した。
「それじゃあ、一度お屋敷に戻ろうか」
静が右手を軽くかざすと、ふわりと柔らかな光の粒子が全員を優しく包み込み、次の瞬間には一瞬でお屋敷の広々とした庭へと帰還していた。
◆◆◆
お屋敷に戻った一行は、それぞれ買い込んできたお土産や荷物を手際よく整理し、リビングで温かいお茶を淹れてホッと一息ついた。
セレニアの街で目にした大道芸や美味しい屋台料理の思い出話で盛り上がり、楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
やがて空が茜色に染まり始めた夕方前、静はフォルティナとフレイア、そしてルナとサンを送っていく準備を整えた。
玄関の前に集まった幼体たちが、お別れを察したようにルナとサンの元へと集まっていく。
「ぷぷぅ」「くぅ」「きゅきゅ!」「ひゅん」
マルやルゥ、あかねたちが「また遊ぼうね!」と伝えるように身体をすり寄せて甘え、ツキも静かに「にゃ」と鳴いて二匹の頭を優しく撫でるようになで付けた。
「くぉん!」「ぴぴっ!」
ルナとサンも名残惜しそうに尻尾を振り、翼をパタパタと揺らしてお返事をする。
「みんな、仲良くしてくれてありがとうね」
フォルティナとフレイアが幼体たちに優しく微笑み、静が右手をかざして温かな光の粒子とともに、いつもの「上弦の宿」の静かな一室へと転移した。
「フォルティナさん、フレイアさん。今回のお休みも本当に楽しかったですね。ぜひまた都合を合わせて、みんなで一緒に出かけましょう」
静が爽やかに微笑むと、フォルティナも胸の前で手を重ね、満面の笑みを返した。
「ええ、ぜひ……! また必ずお休みを確保しますので、その時はよろしくお願いしますね、静さん」
「私も楽しみにしているわね。フレンツに『醤』も渡さなくっちゃ」
フレイアも嬉しそうに頷き、静は二人に温かなお別れの挨拶をして、再び転移でお屋敷へと戻っていった。
宿に残ったフォルティナとフレイアは、窓から差し込む夕日を眺めながら、深く幸せな息を吐いた。
「本当に……夢のように温かくて楽しいお休みでしたね、フレイ」
「そうねぇ、ティナ。静さんたちの周りはいつも美味しいものと笑顔で溢れているわね。……さあ、支配人さんが手配してくれた馬車が来ている頃かしら。領主館へ帰りましょうか」
二人はたくさんの思い出とお土産を大切に抱え、領主館へと戻る馬車に乗り込むのだった。
◆◆◆
静がお屋敷のリビングに戻ると、みんなが温かな笑顔で迎えてくれた。
「静、お疲れ様。フォルティナさんたちも無事に送り届けられたようね」
「うん。みんな今日はたくさん歩いて疲れているだろうから、夕食は買ってきた美味しいものを色々並べて、ゆっくり休もうか!」
静の提案に、みんなが「賛成ー!」と嬉しそうに頷いた。
ダイニングテーブルの上には、アリアやフィアが買ってきた香ばしい各種燻製肉やソーセージ、ミレイアたちが選んだナッツやお菓子、そして静が空間の彼方から取り出した出来立て熱々の『食事焼き』と『甘味包み』が豪華にズラリと並べられた。
静は、一番出来の良かった熱々の『食事焼き』と、フルーティーな『甘味包み』を小皿に取り分け、丁寧にお重へと盛り付けた。
「みんなで美味しくいただく前に、神様へのお裾分けをしてこようか」
「はい、静様。本日もたくさんの素晴らしいお土産と恵みをいただきましたものね」
セリナが愛おしそうにお供えのトレイを抱えると、足元へツキがトコトコと歩み寄り、当然のようにその隣に並んだ。セリナとツキは寄り添うように静かな礼拝堂へと向かっていく。
清廉な空気が満ちる礼拝堂で、セリナは祭壇の前に膝をつき、胸の前でそっと手を重ねた。
「女神ルーナフィリス様。本日も無事に楽しい一日を過ごし、素晴らしい街の恵みをいただくことができました。セレニアの街で出逢った温かで美味しいお料理を、ぜひ女神様もお召し上がりくださいね」
母に語りかけるような温かな声で感謝を捧げると、セリナの隣にちょこんと座ったツキの額の黒晶が淡く煌めく。
トレイの上の出来立ての『食事焼き』と『甘味包み』が、ふわりと柔らかな光の粒子に包み込まれ、光が引くと同時に跡形もなくスッと消失し、胸の奥にじんわりと伝わる温かな気配が感じられ、セリナが優しく目元を緩める。
その気配を感じ取ったツキが、満足そうに一音「にゃん」と短く鳴いた。
◆◆◆
礼拝堂からセリナとツキが戻ると、いよいよ大賑わいの夕食タイムが始まった。
「「「いただきます!」」」
全員で手を合わせ、買ってきた美味しいご馳走を口々に味わっていく。
「んん〜っ! この『食事焼き』、お肉とチーズがトロトロでやっぱり最高に美味しいよー!」
「このソーセージもジューシーで美味しいわね。草芋のスープにも合いそうだわ」
フィアもすっかりお腹が復活したようで、両手に美味しいものを抱えて大はしゃぎし、アリアやミレイア、リーナたちも弾けるような笑顔で会話を弾ませている。
足元では幼体たちも、静から冷まして分けてもらった美味しいお肉や甘味に目を細め、「ぷぷぅ!」「くぅ」「きゅきゅ!」「ひゅん!」「にゃ〜」と大満足の声を響かせていた。
大樹の探検、豊かな恵みの収穫、そして春の街での温かな出逢いとお買い物。
たくさんの笑顔と美味しい思い出を胸に刻み、お屋敷の夜は温かく優しく更けていく。




