表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
破滅都市ヴォーデンベック ―記憶喪失兵オリバー  作者: ケロタコス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/5

第4話 失った物の取り戻し



オリバーがアウスロッシャー重騎士団に所属してから、ゴブリンの長との戦いを経て六ヶ月が経っていた。


その日、彼は任務から帰還した。


全身は血に濡れ、鎧から滴る赤が床を汚している。


今回の任務は、第三武器開発基地の救援。


魔物の襲撃により発せられた救難信号を受け、オリバーが派遣された。


――


レポート


〇〇〇〇年〇〇月××日


オリバー率いるサンズ分隊は、第三武器開発基地に到着。


施設内部は静まり返っていた。


そして――血に染まっていた。


「おかしいですね……」


兵士の一人が呟く。


警備員たちは無惨に殺され、身体は真っ二つに裂かれていた。


分隊の一人が、死体を踏む。


その瞬間――


死体が、わずかに動いた。


「……今、動かなかったか?」


次の瞬間。


ガシッ。


足を掴まれる。


「うわっ、待て、やめ――」


骨が砕ける音。


「あ゛あ゛あ゛あ゛!!」


悲鳴と同時に、アラームが鳴り響く。


シャッターが降り始めた。


オリバーは咄嗟にそれを受け止める。


その一瞬の隙。


死体が、起き上がった。


ミミック。


偽装していたそれらが、一斉に分隊へ襲いかかる。


「うわああああ!!」


「助け――ッ!」


突然の奇襲に、分隊は崩壊した。


一人は背後から腹部を貫かれ。


一人は恐慌のまま銃を乱射する。


「オラァッ! 死ね!!」


グサッ。


次の瞬間、天井から落ちた何かに頭を潰され、動かなくなる。


――混乱。


――誤射。


――悲鳴。


オリバーはシャッターを支え続ける。


外から監視していたOKBも内部へ侵入する。


やがてシャッターは完全に降りきり、オリバーも中へ滑り込んだ。


……静かだった。


赤い警告灯だけが、断続的に空間を照らす。


照らされるのは――動かないものだけ。


三日前まであったはずの声は、もうない。


オリバーは、振り返らない。


ただ、目の前の敵を殺す。


それは復讐に似た衝動だった。


ミミックは人の温もりを感知する。


冷たい装甲に覆われたオリバーと、機械であるOKBには反応しない。


だが、音には敏感だった。


わずかな気配に反応し、次々と襲いかかってくる。


OKBの探知網すら、完全には捉えきれない。


戦いは続いた。


一日。


二日。


三日。


「アアアアアッ!」


グサッ。


肉を貫く音と、自分の叫びだけが繰り返される。


やがて、すべてを殺し尽くした。


シャッターが開く。


外には、静かな夕焼けが広がっていた。


三日ぶりの太陽。


装甲越しでも、その温もりは感じられた。


「……OKB、回収の連絡を」


「はい、マスター」


一拍の後。


「その前に、伝言があります」


機体からコードが伸びる。


「これを接続してください」


オリバーはそれを接続した。


――起動。


エマが用意した記憶再生プログラム。


失われていた記憶が、一気に流れ込む。


博士の助手、エマ。


――自分の妻。


懐かしさと共に、強い衝動が湧き上がる。


会いたい。


この残酷な世界で、唯一の救いへ。


……だが。


返事は、なかった。


OKBは、機能を停止していた。


――


その頃。


ゴブリンの長から救い出された女は、エマの部下として働いていた。


廊下で、帰還したオリバーを見つける。


血に濡れた鎧。


無言のまま歩く背中。


「……あの……」


声をかけようとする。


だが――


「やめておきなさい」


エマが静かに制した。


「軍律よ。騎士と市民は関わらない」


女は言葉を飲み込む。


エマは目を伏せた。


――


オリバーは清掃室で血を洗い流し、整備室へ向かう。


台座に、OKBを置いた。


エマはそれを見て、すべてを理解する。


「……そう」


静かな声。


彼女はOKBを分解し始める。


その手つきは、丁寧だった。


まるで――何かを見送るように。


「……無茶したのね」


「必要だった」


短い返答。


それだけだった。


――


やがて博士が現れる。


状況を一目で察し、


「監視は切っておいた」


それだけ言い、去っていく。


静寂。


エマはオリバーに歩み寄る。


「……覚えてる?」


「少しだけだ」


その瞬間、エマは彼を抱きしめた。


「……よかった」


震える声。


オリバーは自分の手を見る。


――この手は、人を傷つける。


強くは抱かない。


ただ、そっと腕を添えるだけ。


それでも、離れなかった。


――


コンコン。


扉が叩かれる。


「オリバー! 騎士団長がお呼びだ!」


エマは静かに離れる。


オリバーもまた、無表情に戻った。


「……行く」


――


騎士団長の前。


「来たか」


低い声が響く。


「君たちを指名で選んだ」


一拍の間。


「次の任務は――異世界だ」


「武器開発部と協力し、転送装置を完成させる」


「そして、お前たちは行くことになる」


――異世界へ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ