第4話 失った物の取り戻し
オリバーがアウスロッシャー重騎士団に所属してから、ゴブリンの長との戦いを経て六ヶ月が経っていた。
その日、彼は任務から帰還した。
全身は血に濡れ、鎧から滴る赤が床を汚している。
今回の任務は、第三武器開発基地の救援。
魔物の襲撃により発せられた救難信号を受け、オリバーが派遣された。
――
レポート
〇〇〇〇年〇〇月××日
オリバー率いるサンズ分隊は、第三武器開発基地に到着。
施設内部は静まり返っていた。
そして――血に染まっていた。
「おかしいですね……」
兵士の一人が呟く。
警備員たちは無惨に殺され、身体は真っ二つに裂かれていた。
分隊の一人が、死体を踏む。
その瞬間――
死体が、わずかに動いた。
「……今、動かなかったか?」
次の瞬間。
ガシッ。
足を掴まれる。
「うわっ、待て、やめ――」
骨が砕ける音。
「あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
悲鳴と同時に、アラームが鳴り響く。
シャッターが降り始めた。
オリバーは咄嗟にそれを受け止める。
その一瞬の隙。
死体が、起き上がった。
ミミック。
偽装していたそれらが、一斉に分隊へ襲いかかる。
「うわああああ!!」
「助け――ッ!」
突然の奇襲に、分隊は崩壊した。
一人は背後から腹部を貫かれ。
一人は恐慌のまま銃を乱射する。
「オラァッ! 死ね!!」
グサッ。
次の瞬間、天井から落ちた何かに頭を潰され、動かなくなる。
――混乱。
――誤射。
――悲鳴。
オリバーはシャッターを支え続ける。
外から監視していたOKBも内部へ侵入する。
やがてシャッターは完全に降りきり、オリバーも中へ滑り込んだ。
……静かだった。
赤い警告灯だけが、断続的に空間を照らす。
照らされるのは――動かないものだけ。
三日前まであったはずの声は、もうない。
オリバーは、振り返らない。
ただ、目の前の敵を殺す。
それは復讐に似た衝動だった。
ミミックは人の温もりを感知する。
冷たい装甲に覆われたオリバーと、機械であるOKBには反応しない。
だが、音には敏感だった。
わずかな気配に反応し、次々と襲いかかってくる。
OKBの探知網すら、完全には捉えきれない。
戦いは続いた。
一日。
二日。
三日。
「アアアアアッ!」
グサッ。
肉を貫く音と、自分の叫びだけが繰り返される。
やがて、すべてを殺し尽くした。
シャッターが開く。
外には、静かな夕焼けが広がっていた。
三日ぶりの太陽。
装甲越しでも、その温もりは感じられた。
「……OKB、回収の連絡を」
「はい、マスター」
一拍の後。
「その前に、伝言があります」
機体からコードが伸びる。
「これを接続してください」
オリバーはそれを接続した。
――起動。
エマが用意した記憶再生プログラム。
失われていた記憶が、一気に流れ込む。
博士の助手、エマ。
――自分の妻。
懐かしさと共に、強い衝動が湧き上がる。
会いたい。
この残酷な世界で、唯一の救いへ。
……だが。
返事は、なかった。
OKBは、機能を停止していた。
――
その頃。
ゴブリンの長から救い出された女は、エマの部下として働いていた。
廊下で、帰還したオリバーを見つける。
血に濡れた鎧。
無言のまま歩く背中。
「……あの……」
声をかけようとする。
だが――
「やめておきなさい」
エマが静かに制した。
「軍律よ。騎士と市民は関わらない」
女は言葉を飲み込む。
エマは目を伏せた。
――
オリバーは清掃室で血を洗い流し、整備室へ向かう。
台座に、OKBを置いた。
エマはそれを見て、すべてを理解する。
「……そう」
静かな声。
彼女はOKBを分解し始める。
その手つきは、丁寧だった。
まるで――何かを見送るように。
「……無茶したのね」
「必要だった」
短い返答。
それだけだった。
――
やがて博士が現れる。
状況を一目で察し、
「監視は切っておいた」
それだけ言い、去っていく。
静寂。
エマはオリバーに歩み寄る。
「……覚えてる?」
「少しだけだ」
その瞬間、エマは彼を抱きしめた。
「……よかった」
震える声。
オリバーは自分の手を見る。
――この手は、人を傷つける。
強くは抱かない。
ただ、そっと腕を添えるだけ。
それでも、離れなかった。
――
コンコン。
扉が叩かれる。
「オリバー! 騎士団長がお呼びだ!」
エマは静かに離れる。
オリバーもまた、無表情に戻った。
「……行く」
――
騎士団長の前。
「来たか」
低い声が響く。
「君たちを指名で選んだ」
一拍の間。
「次の任務は――異世界だ」
「武器開発部と協力し、転送装置を完成させる」
「そして、お前たちは行くことになる」
――異世界へ。




