19.正五位上③
【人物】
藤原夏良 主人公 14歳。 10歳の時、高熱から前世の記憶がよびおこされる。 父親は藤原冬嗣。藤原北家
桓武天皇 737年〈天平9年〉- 806年4月9日〈延暦25年3月17日〉は、日本の第50代天皇(在位:781年4月30日〈天応元年4月3日〉 - 806年4月9日〈延暦25年3月17日〉)。諱は山部。
清水寺が完成していた。
ここに来るのは何度目だろう。
本堂の千手観音の前に、ゴザの上に寝転がっている坂上田村麻呂将軍。
相変わらず、のんびりしている。
「ここは景色がいいですよね」そう。この地を下賜された時から考えていた。
本堂の西側は平安京の南側が一望できる。
今の人には気になるだろうが、この頃には未だ舞台はない。
藤原夏良は続けた。
「父藤原冬嗣より聞きました。私の事、天皇家の内情の事。」
「すまん、政治は得意じゃない。ただ、桓武天皇に仕えているだけで、後のことは考えてこなかった」
「そうなると、私の事も報告されますか?」
「そうなんだよ。報告すると、宮中が荒れ果てる可能性があるが、どうしたものか、思案している」
「それなら、一緒に行きませんか?坂上将軍の部下として従事していることが分かれば、安心すると思うんです。若干藤原の家の影響もありますが、一応、自力でここまでこれたつもりです」
「報告した方がいいのは分かっているんだが、報告する事で宮中が騒ぎになる事は分かっているので、どうしたものかと思案してたとこだよ」
同じ事を言われている事から相当思案していた様だ。
「申し訳ありません。私の事を案じて隠していただいた多くの方に迷惑がかかったとしても、父親である帝だけには報告すべきと思います」
「そうなると、皇后派閥の立場もあるし、宮中の各派閥への影響とか政治的な力に触れないといけないので大変な事になるのには間違いない。しかし、今後の事を考えると避けて通れないと思われるので、困っていた」
「帝の事は私は分かりませんが、筋の通る事は納得されるのではないでしょうか」
「つまり?」
「皇后様は私も助けたい一心で父に預けたと。今回、私の事を父藤原冬嗣から聞き、想像以上に早く宮中で広まりそうなので事前に報告した方が良いかと言うところで、天皇にご報告に来たと言う事を説明すれば、どちらに対しても義理が立つのではないでしょうか。別々に報告すると義理が立たないので、苦しくてもお二人の時に報告しないとダメだと思います」
「そうだよな。あと、可能であれば忍びの者も取り除きたく思いますが、可能でしょうか」
「その方面なら大丈夫。事前に根回ししておく。政治的ではない軍事的な事であれば任しておいてくれ」
そういうと、従者の所に下がり、何やら話すと戻ってきた。
「取り急ぎ宮中へ行こう。早いほうがいい」
「はい。私もそう思います」
「すみません、目立つ事がこんな事態になるとは。申し訳ありません」
歩きながら坂上田村麻呂は答えた。
「いやいや、遅かれ早かれこの様な事態になった事には間違いないので、仕方ない」
馬車に乗る。「馬車の方がいいですか」
「ああ、宮中ではなるべく君の顔を見えない様にしたい。できれば、布で顔を隠せないか?」
「傷でもあって隠すかの様にしましょうか」
「うん。それでいいだろう」
朱雀門に着き、下車すると、坂上将軍を見る全てのものがお辞儀をして止まるのであった。
「時の方ですから、まあ、こうなりますよね」
「うむ、目立つと意味がないのだがな」
「いえ、おかげで安心して入れます」
冗談混じりで歩いて行く。
健礼門から入る時に門衛から多くの質問を受けたが、「蝦夷討伐のご報告だ」という言葉に全ての者が断る術を知る事は無く、ほぼ無審査で通過するのである。
健礼門に入り、大広間に案内される。
神々しい方が座られていた。
「坂上田村麻呂、急ぎご報告参りました」
「ご苦労であった。控えているのは、有名になった藤原夏良だな。表を上げ」
藤原夏良は周辺を確認し、お二人以外の気配がない事を確認した。
「藤原冬嗣長男、藤原夏良でございます」
はらっと口元を隠していた布を取った。
顔を見た桓武天皇は一瞬驚いたが、
「神野親王は何を戯けているのじゃ?」
神野親王戯けて藤原夏良を演じていると思ったようだ。
「いえ、神野親王さまとは別人でございます」
黙ってしまった帝に何と声を掛けて良いか思案している坂上田村麻呂。
「帝、申し訳ありませんが、神野親王様を密かにお呼びできないでしょうか」
「相分った。使いを出すのでしばし待たれよ」
控えの方に歩いて行き、しばらく戻らなかった。
一瞬、謀反かと疑われたかと思ったが、一人で戻ってこられて安心した。
「今使いを出したのでしばし待たれよ。」
※一部内容に誤りがあり修正しました。
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