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交流戦、泣きのワンチャン。

アルファさんでキャラ文芸の賞に出しているので、もう一話追加しました。


 西の売れっ子作家として名高い『キノコ王子』。

 一見チャラいイケメンリーマン風な彼ではあるが、実のところ人見知りでコミュ障だったりする。

 ルナ先生こと成海トオヤとはデビューが同じ時期だったのと、メッセージのやり取りで気が合うことが分かり何とか話すことはできるが、それでも彼と会う日は少し緊張する。

 月に数回東京まで来ているのはSEの仕事と、友人のトオヤに会うためである。そこにある出版社への挨拶などは、一切することはない。担当編集にさえ会わず、メールのやり取りしかしていない。

 そんな彼は恒例になった東京の友人弄りを終え、喫茶店でひたすらノートパソコンのキーボードを叩いていた。

 友人に提供したネタだが、面白そうだと思い自分で書いてみたら思いの外ノリノリで執筆が進んでいる。


「ふむ。アイツが嫌だ言うからノリで書いたったけど、なかなかの出来やな」


 自画自賛しながらノートパソコンを閉じるキノコ王子。ふと目線を上げると、いつの間にいたのか目の前に座っている女性の存在に気付き、声にならない声を上げつつ大きく仰け反る。


「!?!?」


 後ろが壁のため大きく後ずさりは出来ないものの、可能な限り座っている女性から距離をとるキノコ王子。そんな彼の挙動不審な様子を気にすることなく、女性は口を開いた。


「やっとお会いできましたね。キノコ王子先生」


「……へ?」


「初めまして。あなたの担当編集である榛名はるなです。よろしくお願いします」


「……はい?」


 セミロングの髪は肩で緩くウェーブがかかり、黒目がちの瞳に長い睫毛と可愛らしいピンクの艶やかな唇。Aラインのワンピースにジャケットを羽織った彼女は、まだ若く可愛らしい。

 三十代半ばのキノコ王子にとって、人見知り以前に若い女性というのは鬼門である。若い女性たちと関わって良い思い出なぞ、悲しいことに彼には1ミクロンも無いのだ。


「某ルナ先生から、本日ここでキノコ王子先生と会うと聞きました。せっかくなのでご挨拶をと思いまして」


「はぁ……そう、です、か」


 ずり落ちそうになるメガネを指で上げ、なんとか平常心を取り戻そうと頑張るが難しい。そして某ルナ先生って、某の意味ないやんけ! と心の中で突っ込む。エアツッコミとは、声に出せないコミュ障の悲哀がある。

 それよりも、自分の担当編集は男だと思い込んでいたキノコ王子。メールだけのやり取りしかしていなかったというのもあるが、名前が『榛名晃はるなあきら』とあれば無理もないことだろう。


「それとですね、さすがにアニメ化にあたって一度は顔合わせしたいと思いまして……ですが、無理をさせてしまったようで」


 ションボリと俯く榛名に、西のキノコは慌てる。彼は人見知りでコミュ障である彼だが、人一倍のフェミニストであった。

 か弱い女性をいじめるなぞ言語道断。ましてや自分のせいで女性を落ち込ませることになるのならば、たとえ火の中水の中であっても助けねばならぬという気概を持っているのだ。


「確かに、俺は人見知りでコミュ障やけど、仕事と思えばスイッチ入れますんで」


「……先生?」


「本職では何とかできてたし、榛名さんの、ため、な、ら……」


 榛名の縋るような上目遣いプラス潤んだ瞳を真正面から受けてしまい、頑張って話していたキノコは後半萎れてしまう。それでも気合いで立て直し、背筋を伸ばす。


「頑張りますから。出来る限り、ですけど」


「キノコ先生! ありがとうございます!」


 花が咲いたような満面の笑みに、思わず見とれてしまった売れっ子作家。

 彼は後日トオヤに語った。というよりも叫んだ。


「誰や!! 『キノコ王子』なぞ、ふざけた作家名をつけたんは!! 誰や!!」


「お前だろがー!!」


 そして即、強力な裏手ツッコミで返されたという。

 半泣きで「キノコも王子もやめてつかーさい」と言った彼に、榛名は「分かりました先生」とクスクス笑いながら返した。

 彼女の仕草ひとつひとつに見惚れてしまう理由を彼が知るのは、もう少し時間がかかる。







「先生、さっき執筆していたのは新作ですか?」


「友人に提案したネタなんやけど、即却下されたネタ小説みたいなやつです。読みます?」


「もちろんです!!」


「ぐっ(可愛い)……ど、どうぞ」


「拝見します!!」


「……どうです?」


「こ、これは、もしや、せ、先生!!」


「ええ、一応女性向けで。初挑戦だから微妙かなって……うわっ!! 近い近い!!」


「ふぁっ、すみません!! これすごく面白いですよ!! 特にこのセリフ『俺のこと気になるんは、お前が気にするように俺が仕向けたからや。だから、早よ落ちてこい』『バカ……もう落ちてんだよ』ってお互いの熱いパトスを……」


「わああっ!? 読み上げるのらめぇぇっ!!」


 出版業界に、作家『キノコ姫』のデビューが決まった瞬間であった。






お読みいただき、ありがとうございます!!

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