まだ梅雨よ来ることなかれ
~side:遥人~
佐野さんが〝みなラブ〟を好きだということは
前回来た時に佐野さんが着ていた推しメンTシャツから気づいていたが
こんなにも楽しそうに笑う姿を見ていると
俺も嬉しくなってしまう
昨夜、俺が思わず涙を流して
店やヒカリちゃんに迷惑をかけてしまったことを謝りに来たのだが
佐野さんが楽しそうで
そのまま話を続けてしまう
「白川さん、この前のミーグリ行きました?」
ミーグリとは【meet&greet】
ミートアンドグリートの略称のことで
参加権、応募権付のCDを購入し
抽選に応募して当選することで
対象のミュージシャン・アイドルに会うことが出来る
といったファン交流イベントのことである
「ミーグリかぁ、俺行くことにちょっと抵抗があって、、、」
「えっ!何でですか、CDとか買わない派ですか?」
「いや、CDは毎回買ってますよ。何というか陰から応援する派といいますか、会いに行くのが恥ずかしいというか、、、」
「何言ってるんですか!会って応援できる喜びを逃すなんて!」
「と言いいましても、、会うとあの子、、、」
「あの子?」
俺が言い淀んでいると、、、
佐野さんは言葉を続けた
「私もヒカリも楽しみで、、、当たれーって願ってたけど今回はずれちゃったんです、、、」
しくしく、と佐野さんは泣き真似を始めるが
それと同時に
カラーン♪
と音がして入口のドアが開いた
高齢の男女6名が入店し
「いらっしゃいませ。いつものお席が空いてますよ」
と、佐野さんは常連らしきお客さんに声をかける
「白川さん。また〝みなラブ〟の話しましょうね♪」
「はい、俺で良ければ」
佐野さんはクルッとその場で回り
常連さんの方に向かって行った
ポニーテールが嬉しそうに揺れていた
それはまるで、しっぽを振る子犬のようで
可愛いいな
と思わず笑顔にさせられてしまった
―――――
クレソンのサラダ、ハニートースト、バニラアイス、コーヒー
どれもとても美味しかった
あの後、お客さん達が続々と来店し
満席となった店内を
佐野さんは一人で切り盛りしている
食後のコーヒーを持ってきてくれた時に
前オーナーである上村早苗さんの隠居に伴い
この店を引き継いだこと
まだ引っ越してきて間も無いことなど教えてくれた
まだまだ話したいことはあったが
途切れないお客さん達
対応の邪魔になると思い
コーヒーを飲み干して店を出ることにした
「佐野さん、とっても美味しかったです」
「ふふっ、良かったです」
「また来ますね」
「お待ちしています」
今日の佐野さんは、しっかりと俺を見ているようで
少し嬉しかった
会計を済ませ、店を出てから気づく
あ、俺今日謝りにきたんだった、よな、、、
今更になって店に来た理由を思い出す
また店内に戻って謝るのも迷惑をかけるだろうし
うーんどうしたものか
店の前で思案しているとLINEメッセージの着信音が聞こえた
ポケットからスマホを取り出し表示を見る
「なんと、まぁ。素晴らしいタイミングで」
メッセージの差出人は【白瀬ヒマワリ】
《みんな待ってます♪次のミーグリ、絶対来てください!来ないと泣きます!
来てくれなかったら、また職場に行っちゃうぞ♪》
以下、長文がずら~っと続く
『今回、抽選はずれちゃったんです、、、私』
と佐野さんは言っていた
楽しみにしていたミーグリの抽選に外れてしまった、と
ここはヒマワリのコネに甘えさせてもらうことにしよう
《知り合いと、その子供さんも一緒に行って良い?》
簡潔に短い文を打ち送信すると
スマホをポケットに入れようとする途中で返事がきた
《きゃーーーーー!!!もちろんOKに決まってます!!!すぐマネージャーさんに押さえさせます!!説き伏せます!!!!お待ちください!!ダメならアイドルやめるって言ってやります!!!!》
と物騒な返事だったので
《ありがとうヒマワリ》
とペンギンの可愛いスタンプを添えて送信しお茶を濁しておいた
〝みなラブ〟のリーダー:白瀬ヒマワリ
俺の元・担当患者で今はアイドル界のトップを走る女の子
色々と対立した時もあったが
今は俺を慕ってくれており
俺の過去を知りながら、今でもこうやって連絡をくれる数少ない友人
正式な連絡が来たら
また【ラムミン・ヴァロ】に来よう
佐野さん、ヒカリちゃん 喜んでくれるといいなぁ
そう思いながら歩く帰路では
なんだか胸は温かかった
もうすぐ梅雨が来ると天気予報士は言っていたが
今日の空は清々しいくらいに青かった




