優しい香り
~side:楓~
コンビニから戻ると
ヒカリはまだ布団の中で眠ったままだった
おはよう、起きて
と声をかけるとゆっくり起き上がり
洗面台の方に向かって行く
私は急いで朝ごはんに取り掛かり
簡単にベーコンと卵焼き、お味噌汁とサラダを仕上げた
ヒカリも同時に炊飯器から2人分のごはんをつぎ分け
冷蔵庫の麦茶をコップに注いでくれる
2人で一緒に朝ごはんを食べる
ヒカリはまだ寝ぼけたまま
ぼーっとテレビに映るアニメを見ていた
「ヒカリ、今日は遠足だからママお弁当作らなきゃなの」
「うん、えんそくだねきょう。たのしみ。」
「お弁当を急いで作るから、1人でお着替えできる?」
「うん、できる」
普段よりも早めにご飯を口に運びながら尋ねると、ヒカリはピースをしながら答えた
「じゃあ、ママ頑張って美味しいの作るから。お着替えがんばってね♪」
昨日のうちに選んでおいた洋服を指差してヒカリに促す
「おべんとうのあと、かみのけかわいくしてね」
ヒカリはウインクしながら
親指を立てて返事をした
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お弁当を作り終え
さっと洗い物を片付けた後
ヒカリの髪の毛を結っている
今日は好きなアニメのキャラクターに合わせて
ツインテールがリクエストだった
大きめの鏡台の前に座り
鼻歌を歌いながら私に身を委ねている
「きょうはねー、これとこれにするー♪」
ヒカリが指差したヘアゴムで
束ねた髪の毛をまとめる
左右のバランスは良く
使ってあげたヘアオイルも馴染んで可愛く仕上がることができた
ピーチの香りがするのをヒカリはとても喜んだ
「ママー、ありがとう♪」
振り向いてぎゅーっと抱きしめられる
私も抱きしめ返す
こんな何気ない時間が
とても愛おしい
わずか数秒の幸せは
ボーンっと響く振り子時計が
8時を知らせてくれたことで現実に引き戻される
「ママ、いってきますのじかんなのー」
「うん、そうだね。遠足、楽しんできてね。」
「きょうはね、ここあちゃんとあそぶやくそくしてるの。たのしみなんだよ♪」
もう10回以上聞いたヒカリの言葉
それでも
「へぇー、そっかー!じゃあ、きっと楽しくなるね♪」
ヒカリの楽しい気持ちに水を差さないように
返事をする
ヒカリは体に似合わない大きめのリュックを背負い
笑顔で手を振って学校に向かっていった
ちょっとだけ空いたファスナーの隙間から
昨日、私がこっそりと抜いておいたはずの
ペンギンのぬいぐるみが
私を見つめていた
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ヒカリを送り出した後
私は激しく後悔していた
「はぁーー、、、」
大きなため息を吐いた後つぶやく
「、、、恥ずかしい」
あの時
コンビニの前で
必死で大きな声を出してしまったが
そのことについては
まぁ気にしていない
、、、いや、静かな朝に響き渡る私の声
今思えばかなり恥ずかしい気もする
そんなことはまだ良くて
近くのコンビニに行くくらいなら
と思い、急いで家を飛び出したことを忘れていた
「超すっぴんだったぁ~」
メイクなし、学生時代のジャージ姿
走って乱れた髪の毛
度のきついビン底眼鏡
挙動不審な私
「油断してたよ~、うぅ~、変なやつだよ〜、私」
今更になり恥ずかしさがジワジワとこみ上げてくる
飲食店に身を置くものとして
普段から化粧は最低限にと心掛けているのだが
今朝の私は0点だったはずだ
恥ずかしさを搔き消すように
テーブルを力強く消毒していく
10分ほど身悶えしながら清掃を終えた
過ぎたことを後悔しても世界は好転しないのだから
私はいつものように
パンっ!
と両手で頬を軽く叩き気合を入れた
スマホで音楽アプリを操作しながら
店内のスピーカーから好きな曲を流す
まだ誰もいない店内
開店前の私だけの時間
「白川遥人———さん」
教えてもらった名前を口にしてみる
白川さんは奏多ではない
名前を繰り返すたびに
その事実が更新される気がした
コーヒー豆をゆっくり挽き
ドリッパーにフィルターを被せ
時間をかけてお湯を垂らす
店内には甘く、苦い何ともいえない良い香りがしている




