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未来を見据えて行動していた才女は、支えることを諦めました  作者: しばゎんゎん


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6

公爵邸の応接室は、過不足なく整えられていた。


豪奢すぎず、しかし、上質。洗練された空間。


そこに座るだけで、自分の立場が測られる場所だった。


応接室でイザベラを待つカレンは、自然と背筋を伸ばしていた。


まだ、イザベラと向き合っていないが、視線は自然と正面を向く。


そして、無駄な動きは一切ない。


やがて、扉が開く。


「お待たせしたわね、急な呼び出しに応じてくれてありがとう。カレン」


柔らかな声と共に現れたのは、公爵夫人イザベラ。


ゆったりとした足取りで歩み寄り、向かいの席に腰を下ろす。


「お久しぶりね」


「ご無沙汰しております、イザベラ様」


完璧な礼。何の問題もない。


だが、イザベラはは内心で、静かに確信する。


以前のカレンなら、完璧のなかに親しみがあった。


礼儀正しさの中に、未来の家族としての温度があった。


だが、今日は何かが違う。


完全に公爵夫人イザベラに対する振る舞いに見える。


「学園での様子、聞いているわ」


穏やかに切り出す。


「最近、あまり発言をしていないそうね」


「はい」


短い肯定。


言い訳も、補足もない。


「理由を聞いても?」


その問いに、カレンはほんの一瞬だけ目を伏せた。


だがそれも、呼吸一つ分の間。


すぐに顔を上げる。


「必要がないと判断いたしました」


静かな声。


だが、その内容は明確だった。


イザベラの指先が、わずかに止まる。


「必要がない?あなたの意見はほかの生徒の模範になるはず。つまり、必要なのではないかしら」


「はい。現在の環境において、私が前に出ることで得られる利益は乏しいと考えております。また、それを求められてもおりません」


淡々とした説明。


感情は一切乗っていない。


イザベラは、わずかに目を細める。


この少女は、ここまで冷静だっただろうか。


いや、違う。


元からこういうところはあった。


「レオンの成績が落ちているわ」


あえて、核心を突く。


反応を見るための一手。


だがカレンは、微動だにしなかった。


「承知しております」


即答。


予想していたかのような、迷いのない返答。


「原因は?」


「複数ございますが、主因は本人の選択かと」


一切の躊躇なく、言い切る。


「レオン様は大切な、守るべきものを知ったようです」


そこに庇う意思はなかった。


その事実を、イザベラは静かに受け取る。


「では、もう一つ聞くわ」


少しだけ身を乗り出す。


「あなたはレオンの婚約者。それは事実。合っているわね?」


「はい」


「では、婚約者のあなたに問います。あくまで仮定の話として答えて。あなたがもし、レオンに関わらなければ、どうなると思う?」


「この問いには、婚約者としてではなく、カレンという自立した人間として答えてくれればいいわ」


カレンという人物を試す問い。


未来の公爵夫人としてではなく、


一人の判断できる人間としての答えを求める質問。


カレンは、わずかに考えて、答えを出す。


「評価を落とすでしょう」


「短期的には致命的な問題にはなりませんが、公爵家を継ぐ者としての責務、周囲の期待、それらに応えるだけの結果を出せなければ、最終的に…」


ここまで言って、一拍置く。


そして。


はっきりと告げる。


「後継としての信頼を損なう可能性が高いと考えます」


沈黙が落ちた。


重くもなく、軽くもない。


ただ、事実だけがそこに置かれる。


「では、前提を変えます。あなたは婚約者。落ち行く彼を救う気は?」


イザベラの問いは、静かだった。


だが、その奥には確かな意図がある。


まだ戻れるかを測る最後の問い。


カレンは、ほんのわずかだけ目を伏せた。


そして。


「ございません」


きっぱりと、言い切った。


「私はこれまで、十分に役割を果たしてきたと認識しております」


その声には、誇りも後悔もなかった。


「ですかま、レオン様は私を選ばず、拒絶された。私にとって、そこまでされてなお、支え続ける理由は現時点では見当たりません」


完全な線引き。


そこに、情の入り込む余地はない。


イザベラは、ゆっくりと背もたれに身を預けた。


すべてを理解する。


この少女は、もう婚約者ではない。


少なくとも、そのつもりでここには来ていない。


ならば、こちらも、選ばなければならない。


誰を残し、誰を切るか。


それは、当主の妻として、公爵家を守るために当然の判断。


「カレンさん」


名前を呼ぶ。


その声は、先ほどまでよりもわずかに低かった。


「あなたに一つ、提案があるわ」


空気が変わる。


穏やかさの奥に、鋭さが混じる。


「このまま、何もせずに引くのも一つの選択です。あなたは優秀だから、次もある」


視線が、まっすぐにカレンを射抜く。


「ですが、それでは少し、つまらないと思わない?」


意外な言葉だった。


だが、カレンは何も言わず、ただ静かに、続きを待つ。


「私はね、有能な人間が正当に評価されない状況が嫌いなの」


ゆっくりと告げる。


「だからこそ、あなたには証明してもらいたいの」


その言葉は、命令に近かった。


「あなたがどれだけの価値を持っているのか、そしてそれを失うことがどれほどの損失なのかを」


ほんのわずか、口元に笑みが浮かぶ。


カレンは、しばらく黙っていた。


その提案の意味を、正確に理解している。


これは単なる試験ではない。


誰が必要で、誰が不要かを明らかにする行為。


そしてそれは同時に、後戻りのできない選択。


だが、カレンには、もはや断る理由はなかった。


「承知いたしました」


静かに、頭を下げる。


その動きに、一片の迷いもない。


その瞬間。


カレンは完全に選ばれる側から選ぶ側になった。


そして、決定的な局面へと進み始めることとなる。



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