エスコートされるだけの簡単ではないお仕事 0
「全く、王都とは堅苦しい」
イライアスは案内された客室を見回した。どれもきちんと整えられ、国境の砦とは雲泥の差だ。差がありすぎて気持ち悪いほど。
背後で重たげなものが置かれたような音がする。振り返れば、小柄な副官が重かったと言いたげに荷物を睨んでいた。
「俺がもつといったのに」
「どこに、荷物を運ぶ王子がいるんです? 砦なら許されてもここはダメです」
「ほかにも手があるだろう」
「それで荷物が行方不明になったらどうするんです?
まったく、殿下は能天気」
やれやれと言いたげに言われイライアスはそれに返答しないことにした。口の達者な副官にかてることもない。
「それにしても、物々しい」
そういって副官が荷物を整理し始めた。鞄二つ分はその立場から考えると少ない。
イライアスは急な招集で追い立てられるように領地の屋敷を出てきた。ろくに荷物もない。こちらで用意するのでという話にきな臭さがある。
イライアスは窓に近づき、開けようかと思ったがほんのわずか開くだけだった。腕の一本も通ればよいくらいだ。二階とあって安全のために開かないようにしている可能性もあるが、下を覗けば二人ほどたっているのが見えた。
目があったので、イライアスは窓とカーテンを閉めた。
暗いと文句を言う副官を無視して、足音を立てずに廊下側の扉に近づいた。そっと押すと開くが人の気配がある。
「なにしてんです?」
国境近くの砦という野蛮な場所で生活しているわりにその辺は鈍い副官がそう聞いてくる。
「監視されている」
「でしょうね。逃げて欲しくない感はひしひしと感じてます。あと、私も排除されそうな予感がしますのでそのあたり強固に保護してください」
「下賜品持ってるだろ。それが効かねえ相手にはもう無理だ」
「無情ですね……」
「後ろ盾もろくにない庶子に何期待してんだよ」
副官は肩をすくめて、荷物整理に戻った。
「そういえば、陛下から何か直々に渡されてましたけどなんだったんですか?」
城に着くなり、荷物を降ろす間もなく王である父に呼ばれた。
そして、紙の束を渡されどうか頼むと言われたのだ。その顔色はよくなかったので、イライアスは受け取った。可能な限りは、という返答をしたのは嫌な予感がしたからである。
「読むか?」
「いいえ。
越権行為になりますので、お断りします。どうしてもお話したいというのであれば拝聴いたします」
イライアスは肩をすくめた。要約してくれたほうが楽であるという目論見は見透かされていたようだった。
それはある令嬢についての報告書だった。
シュウレイ男爵令嬢の婚約は解消された。その件について従妹が関与しており、婚約をなかったことにした。
彼女は現在は、侯爵家への養子となりウィンルイ侯爵令嬢となっている。
シュウレイ家は貴族であるとは別に武門の主である。その息女という立場は決して軽くなく、他家へ嫁ぐことのできるという唯一無二の存在である。
イライアスが娶るよう努力せよ。それが不可能であれば、誰とも縁付かせないように立ち回るように促していた。
迂遠な言い方をしたがる手紙の作法を無視したような直接的な表現にイライアスは眉を寄せた。さらにその先を読み彼は書類を机の上に投げた。
「それほどアレなんですか?」
「情報が足らん。
辺境まで噂が届く前に、ここに着く前に余計なことを聞かぬように、急かされたんだろう」
隠そうとすればするほどうに、何かあると察せるものだ。イライアスが気がつかぬほどお愚かであってもよいし、気がついても手遅れか諦めると思っている。
「腹の立つ」
「拝見してもよろしいでしょうか」
イライアスの態度に感じることがあったのかティムが珍しくそう切り出した。イライアスが頷くとその紙を手に取る。
「…………ええと、これ、レティシア嬢ですか?」
「うん?」
「ああ、殿下、貴族に全く詳しくないどころか興味ないのは知ってましたが、主要なところは覚えてくださいとあれほどっ! いえ、それが問題ではなく、どこの武門かわかってます!?」
「それなりのというとグレッグかカミルか? じゃなきゃ、カワード」
「……リュウガです。わかります?このやばさ」
その武門は上層部にはあまりいないが、中層に広く分布している。多くの街に道場があり、格安ということで通わせるものが多い。そのため貧乏貴族の三男以降が良く習っている。
これは、傭兵や軍の主構成員と合致している。
そんな一門のご令嬢相手に王の姪がやらかしていた。
「…………王家滅亡すんな?」
「円滑にすげ替えするつもりなのかもしれませんねぇ……」
乾いた笑い以外何も出てこない。
「ちょっと、金に糸目をつけないからすぐに情報集めてこい。やばいどころじゃない」
「承知しました」
その後、追加で得た情報が、もっとすごいこと過ぎて主従二人であきれ果てたのである。




