プレオープン
「現れないね勇者も英雄も」
私は良い案が思い浮かんだとテンション上げて
念入りに居酒屋キッチンカーを作り上げ
外装も自分なりに少し飾って椅子やテーブルまで用意して
おもてなしする準備をきっちり仕上げたと言うのに
「何でいまだに誰も来ないのよ~」私はひとり叫んでいた。
折角準備万端整えたのにいまだに開店出来ていない事に
物凄く不満を感じていた。
勇者や英雄と言う名の冒険者達を撃退するためだった筈なのに
その目的も忘れ自分で作り上げた居酒屋キッチンカーを
オープン出来ないでいる鬱憤が溜まりに溜まっていた。
「森にはすでに何組かの冒険者が居るんだよね?」
私はアウラに冒険者達の気配を察知して貰った。
「ええ、森を彷徨っているようですが」アウラの説明に
そう言えばこの中心部に近い場所に辿り着くのに
私も精霊がいなかったら大変だと実感していたなと思い出した。
「もうさぁ、この際もっと呼び込もうよ
国の依頼背負っていようが暗殺目的だろうが
4人以下のパーティーだったらこの森に入れる様にしよう」
私は自棄になりそんな提案をしていた。
「何故4人組なのですか」アウラにそう聞かれ
「魔王討伐の勇者パーティーは4人組って言うのが定番なの
私の世界ではほぼそう決まっていたの」そう答えていた。
「それ以上だと私に不利だし戦争になっちゃうでしょ」
戦う術も無いのに私がそんな事を言いうと
「私は相手が何人でも不利にはなりませんが」
アウラがごもっともな返事を返して来るので
「接客が大変になるでしょって言う話もあるのよ
それともアウラも接客を手伝ってくれるの?」
思わず思い付きで負けずと言い返していた。
「私がですか?」唖然とするように聞き返すアウラに
「そうだソレいい考えかも、人間の大きさになってメイド服着て
冒険者達を接客するアウラはアリかも」そう答えていた。
「私に何をさせようと言うのですか」
「だってほらアウラって美人さんだしスタイル良いし
冒険者達も絶対に私の接客よりアウラの方が喜ぶと思う」
「人間にあまり姿を見せるのは良くないです」
「この森の中限定なら良いんじゃないの
みんな夢か幻だと思ってくれるよ大丈夫だって」
私は押しの一手でアウラを言いくるめる様に説得し
そしてアウラに接客の練習をさせた。
アウラが簡単に私の説得に応じたのにはきっと何か考えがあるのだろう
そんな事もふと思ったが
私はアウラと一緒に居酒屋キッチンカーを楽しめると喜んでいた。
勿論他に誰も居ないこの場での練習だったので
あらかじめお酒や料理を用意しておいて
私がお客になったのだけれどどうも思う様に上手いかず
仕方なく久しぶりに精霊達を全員招集した。
精霊達は誰も文句も言わず快く集まってくれたのだが
人間好きのシルフは自分も接客がしたいと言い出した。
ノームとサラマンダーとウィンディーネ達は
すっかりお酒の魅力に嵌ってしまい
ウィンディーネは缶の酎ハイやカクテルを美味しそうに飲み
ノームは日本酒やウイスキーを喜んで瓶ごと抱えて飲み
サラマンダーはキンキンに冷やしたビールを絶賛していた。
そして精霊達はお酒に関してはザルだった、底なしだった。
既に酔っていると言うのにいつまでも飲んでいた。
私も途中から飲みに参加して久しぶりの再会を喜び
またこうして集まれたことを喜びと楽しいお酒が続いた。
お陰でアウラもシルフも接客が大分板に付いてきたけれど
体力的にも時間的にも私の方が先に音を上げ丁重に帰って貰う事にした。
シルフは「楽しかったからまた来ますの~」と言って帰り
ウィンディーネは「とっても楽しかったわぁ」と言って帰り
ノームは「また明日も来るぞい」と宣言して帰り
サラマンダーは「ノームが来るなら私も参りましょう」と
同じく明日も来ると宣言しながら帰って行った。
精霊達の為に作った居酒屋キッチンカーじゃないけど
久しぶりにみんなの顔を見られて嬉しかったし
何よりこんなに喜んで貰えると思っていなかった。
しかし精霊達に振舞った出費の合計額を見て愕然とした。
かと言って今まで散々お世話になりながらお金を取る訳にも行かないし
明日も来るって言ってたよね、私は最速で頭を抱えた。
やっぱり何か内職を始めないと居酒屋キッチンカーは維持出来ない
その現実がしっかりと目の前に立ちはだかったのだ。
そうしてとても楽しかったとはいえ
すっかりと疲れたプレオープンとなったのだった。
読んでくださりありがとうございます。




