過去の失敗
昨日あげようとしたらガッツリメンテナンス期間でした⋯
ーー突然の告白。
相手から直接気持ちを伝えられたのは人生初めてだったが、俺の頭は平静を保っていた。いや、過去の失敗による疑念や警戒心が熱くなりそうになった頭を冷やしてくれたのだろう。
「⋯ありがとう」
無言を避けるために感謝の意を示す。しかし続く言葉が見つからず、必然と静寂が訪れる。
「ごっ、ごめんね、急に。私に言われても困っちゃうよね⋯」
「違うっ!嬉しいのは本当だよ。これは俺の問題なんだ⋯」
おそらく咲良さんは本心を伝えてくれているのだろう。このようなところで嘘をつく人では無いのは、この数ヶ月の日々で十分に理解している。だが⋯
ーー俺は自分が信じられない。
咲良さんに選んでもらえる程の魅力があるのか。俺が咲良さんに釣り合うほどの男なのか。もっとお似合いの相手がいるんじゃないか。俺が、咲良さんを幸せにすることが出来るだろうか。
⋯俺に恋愛対象としての魅力があるのか。
ネガティブな思考だけが頭の中を駆け巡る。あの出来事をきっかけに、俺は自分が信じられなくなり、恋愛が怖くなった。
『すぅ⋯ふぅー⋯』
自分自身と格闘していると、スマホの奥から深呼吸が聞こえてくる。その音を聞いて、俺はハッとした。
咲良さんは過去の自分と向き合い、想いを伝えられるまでに乗り越えた。そこにはいくつも壁があり、ぶつかる度に勇気を振り絞って乗り越えてきたのだろう。
それに対して俺はどうだ。偉そうに手伝っているようで、ただただ自分の過去から目を背けているだけ。手伝うという名目の現実逃避だった。
勇気を出さず、ネガティブに逃げ続けた結果のこの顛末。今こそ、俺も過去と向き合う時だと直感した。
だからこそ、答えはすぐに決まった。
「⋯今すぐには、返事ができない」
スマホ越しに「えっ」と言葉をこぼし、今にもパニックになりそうな咲良さん。俺は言葉が足りなかったことを謝りつつ、補足説明をする。
「答える前に、聞いてほしい。⋯俺の過去の話を」
俺はあの頃を思い出しながら順を追って説明する。
俺の、二つの失敗談を。
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「おはよ、怜斗!」「音無くんおはよー」「怜斗ー。数学の課題教えてー」
俺が入学した中学校は近くの小学校の人達が集まるということもあり、学年の三割が同じ小学校出身だった。知り合いが多く、俺はクラスメイトとすぐに打ち解けることが出来た
「おはよー。課題は明日だから急がなくて大丈夫だよ」
俺は一人一人に返事をする。当時の俺は、クラスメイト全員と積極的に話すタイプで、今とは真反対と言ってもいいほどキャラが違った。
「れーいとっ!おっはよー」
活発な声を出して肩を組んでくるのは源愛理。中学からこっちに引っ越してきたので知り合いはいないらしいが、その愛嬌ですぐにクラスに馴染んでいった。
ことある事に俺に絡み、周りに様々な憶測が流れるようになった。そのうちに俺も愛理が気になるようになり、まだ不明瞭ながら恋愛感情が芽生えようとしていた。
しかし、俺は恋愛感情に発展する前に真実を知ることになる。
「愛理はやっぱり音無くんが好きなの?」
ある日の放課後、俺が忘れ物を取りに教室に戻ると、中から女子数人の会話が聞こえ、ドアを開こうとして出した右手を止める。
俺は自分の名前が出てきたことにドキドキし、その後の展開を固唾を呑んで耳をすませた。
「違う違う!れいとといたらみんな話しかけてくれるから一緒にいるだけで、好きとかじゃないよー」
気がつくと俺は逃げるように走っていた。頭の中がぐちゃぐちゃになり、恋愛についての理解が全て消え去った。
こうして俺の初恋は、恋愛感情が定まらないままの未遂に終わった。
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「ーってのが、一個目の失敗」
咲良さんは、時折相槌をはさみながら丁寧に聞いてくれた。そして一つ、質問をなげかける。
「でもこれって、音無くんの失敗なの?女の子が悪い気もするけど⋯」
「いや、俺の失敗だよ。相手を理解しようとしなかった、俺の問題だ」
そう。この話はここで終わりではなかった。
それから俺は、愛理と距離を置くようになった。最初は絡んでくる愛理も、俺の態度に気がついたのか、夏休み前には会話を交わすことが無くなった。
夏、秋、冬と季節が巡り、愛理の周りから人が一人、また一人と去っていき、学年の上がる春がやってきた。
クラス替えの貼り紙を眺め、俺は無意識に愛理の名前を探す。だが、どこを見ても愛理の名前が見つからなかった。
周囲を見渡すと最後まで愛理と仲の良かった女子を視界に捉え、俺は彼女に声をかけた。すると第一声に放たれたのは、恨みに溢れた怒号だった。
『音無っ!なんでっ!なんで愛理を突き放した!なんで、あの子の居場所を奪った⋯!』
両腕を掴まれて乱暴に引っ張られるが、俺は意味がわからず茫然とした。その後、話の全貌を聞いて、俺は酷く後悔し、自らを責めた。
「彼女はいじめられっ子だったんだ。小学生の時に女の子からいじめにあって、嫌な環境から逃れるためにこちらに引っ越してきたんだ」
無理をして愛嬌を演じ、周りと友情を育もうとしている大事な時期に、俺が距離を置いてしまったのだ。
恋バナを良くしていた愛理は、それ以降恋バナに入ることはなく、愛嬌を演じることをやめて暗い子に戻った。すると友達が次々に離れていき、その孤独感でトラウマがフラッシュバックし、学校に来れなくなり再び引っ越したという。
それが、この話の結末だった。
「俺が言葉一つで距離を置かなければ、こうはならなかった。少しでも彼女を理解しようとすれば、辛い思いをさせることは無かった」
それから俺は、人との間に一定のラインで線引きをした。みんなの気持ちを理解する重みを抱えることから、逃げたのだ。
人と仲良くなるのが、怖い。
これが、俺の人生の一つ目の失敗だった。
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