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苦悩と告白




 ーー結局、咲良さんと花火を見ることはできなかった。


 戻ってきたのは花火が終わったあとで、何を聞いても俯いたまま。俺が家まで送って行ってもらって解散するまで、一言も言葉を交わすことはなかった。


 そしてその日から、咲良さんから遊びに誘われることはおろか、ラインすらも送られてくることがないまま、二学期の始業式を迎えた。




「ねえ、シオとなにがあった?」


 始業式の放課後、人の減った教室でぼうっとしていた俺に高良さんが声をかける。“なにか”ではなく“なにが”と言うのは、俺たちに何かがあったと確信を持っているのだろう。もしかしたら咲良さん本人からなにか聞いたのかもしれない。


「⋯分からない。高良さんはなにか聞いてない?」


「まだ聞いてない。多分私とハルが聞いたら教えてくれるだろうけど、今日のシオ声かけづらくてさ。だから音無にも聞いたんだけど⋯」


 高良さんは机に突っ伏して腕を伸ばす。


「⋯とりあえず、帰ってラインで聞いてみる。音無も何か分かったら教えてね」


 高良さんはそう言って教室から去る。俺も今は静観が最善と判断し、後を追ってそのまま家に帰った。






 その日の夜、俺はスマホの前で正座をして咲良さんからの通話を待っていた。

 何故星座をしているかというと、内容を何も知らされてないが故の緊張感だ。


 高良さんの方はすぐに動いてくれたらしく、夕方のうちに電話で話したというラインが送られてきた。しかし、その文章が俺にとっては困ったものだった。


 『シオと話した』『音無じゃないと解決できない』『夜の9時に通話するらしいから、頼んだよ』


 三通で簡潔に送られたライン。文脈からどの程度重大さがあるのかは不明で、内容を聞いても未読のままこの時間になってしまった。


 知らぬが仏というが、この場合は知らないほうが不安になる。姿かたちが分からない物体と対峙している気分だけ。


 ーー♪ーー


 何度も聞いたことがある着信音に、何度も見たことがある名前が表示される。つい半月前まで普通におせていた応答ボタンになかなか手が動かず、一呼吸おいてようやく押した。


『⋯もしもし。音無くん?』


 弱く遠慮がちな声。それは出会ったばかりの咲良さんと重なり、懐かしく、寂しい気持ちになった。


「うん、聞こえてるよ」


『⋯えっと、ちょっとまってね』


 そして無言が流れる。マイクに入るほどの大きな深呼吸が聞こえ、ガサガサと音が鳴った後に咲良さんが戻ってきた。


『ふう。⋯よしっ。それじゃ、早速本題⋯というか、正直に答えて欲しいんだけど⋯』


 もう一度深呼吸をして、咲良さんは口を開く。


『私と一緒にいて、楽しい?』


 俺は一瞬頭がクエスチョンマークで埋まる。悩むまでもなく、答えはひとつだった。


「もちろん。俺友達少ないし、咲良さんと趣味も合うから話してても遊んでても楽しいよ』


『⋯友達。そう、友達なんだよね』


 意味深に言葉を重ね、咲良さんは語る。


『宿泊研修が終わってからね、何人か女の子の友達ができて、お話することが増えたの』


 確かに、咲良さんは女の子の友達ができていた。隣の席に人が集まる機会が増え、内容は分からないが楽しく談笑していることが度々あった。


『そのお話の中で、みんなの恋バナを聞いてて、恋人と友達ってなにが違うんだろうって思ったんだ』


『お家で二人で遊ぶのも、遠くに行ってお出かけするのも、友達でもできるんじゃない?って。私、つい口に出しちゃったの。そしたら』


『立花さんがね、『友達と恋人じゃ、デートの楽しさが天と地ほど違うのよ』って、とっても幸せそうに言うんだよ。それを見て、ああ、恋人になるってこういうことなんだって』


 これに関しては、俺も同意見だった。実際、俺に逐一報告に来てくれる坂下くんの様子を見ていたからだ。付き合う前は不安と期待が入り交じり、付き合ってからは幸せ一色で報告してくれる。


『私、憧れちゃった。憧れたからこそ、今、落ち込んじゃってるんだ』


「⋯?」


 なぜ、落ち込むのだろう。男性不信の点なら改善してきているはずだけど⋯。


『少し時期を変えるね。あの花火大会の日⋯あっ、2回目のほうね。その時のことで、ふたつ謝りたいことがあって』


『まず一つ目なんだけど⋯。私、迷子になってたわけじゃないの。一人である所にいて、そこでじっとしてた。連絡を入れなくて心配させてしまってごめんなさい』


「そう、だったんだ。でも、無事に戻ってきてくれてよかったよ」


 色々気になるところはあるが、とりあえずは全て聞いてからにしようと言葉を抑える。


『そして、もう一つ。実は私、お母さんと音無くんの会話を盗み聞きしてたの』


「⋯え?どういうこと?」


『全部に関係する話だから、順を追って話すね。えっと⋯』


 咲良さんは話してくれた。俺と由希さんの話を聞いて、動揺しているところに蒼ちゃんが戻ってきてとっさに逃げて、一人で神社のそばで座っていたことを。


 その話を聞いている時に、俺は違和感に気がつく。いや、確信的と言うことも出来た。⋯その対象が俺でなければ。


「でも、咲良さんの話を聞いてると⋯あの、えっと、咲良さんは、お、俺を⋯」


 俺と由希さんの会話でショックを受けたことと、今日のはじめにした会話の内容。それが表す答えはたったひとつだった。



『はい⋯。すき、です。音無くんのことが⋯』



 どんどん小さく、消えゆくように発されたその言葉に、俺は喜びの感情とともに、一滴の冷や汗が流れた。






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