潰える初恋
電話だ⋯。誰かわからないけどごめん、今は取れそうにないや⋯。
私は上手く力の入らない右手でスマホの画面を見る。⋯しかし、涙で滲んで画面が見えない。
私が誰かに恋をするのは初めての事だった。漫画を読んでいて美しい恋愛に憧れていたが、リアルにトラウマを持っているため、半ば諦めていた。
「つくづくツイてないな⋯、私の人生」
小さい頃に父を亡くし、恋愛に興味が湧き始める中学生の時に男性不信になった。高校に入って音無くんと出会って、これまでの苦労が嘘のように一つずつ克服していって⋯初めて恋を自覚した。
ーーそしてその恋は、たったの一週間で終わりを告げた。私があの時子供みたいなことをしなければ、現実に直面することはなかったのかもしれない。
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「蒼、間に合うかなー」
私がお手洗いから戻る時、既に花火の5分前だった。神社の隣をスルッと抜けて道なりに進むと、花火の方向以外を木々に囲まれたベンチが見える。お母さんと音無くんが座ってなにやら談笑をしているようだった。
(⋯こっそり近づいて驚かしちゃお)
変ないたずらごころのスイッチが入った私は、木の影に隠れながら静かに近づき、話の内容が耳に入ってくるほどに接近し、驚かせようとしたが⋯
「⋯こんな優しい子ならモテるはずなんだけど⋯」
恋バナ的な内容の会話が聞こえてきて、私は体が硬直する。飛び出しづらい話題に気になる内容。私はどうするべきか混乱するうちにも会話はどんどん進んでいく。
「⋯紫音とそういう関係かと⋯」
(お母さん!?私のいないところでなんてこと聞いてるの!?)
私は音を立てないようにその場にしゃがみこむ。私の心臓は爆発的に上昇し、音無くんの次を言葉を待つ。
「咲良さんは、大事な友達です。それはこれからも変わらないと思います」
(えっ⋯)
ドキドキして熱かった私の体は、心臓からサァーッと冷たくなっていく。頭は真っ白に、目の前は真っ黒に染まり、現実かどうかすら怪しくなっていく。
後ろで二人が会話を続けているようだが私の意識がそっちに向くことはない。ただひたすらに何も考えられない深い暗闇に落ちていく。
そのまま虚無になれるのならよかったが、近づいて来る足音で私は現実に戻される。
ーーヤバい、ここから離れないとっ⋯。
あとからお手洗いを出た蒼が戻ってきたのだ。私はとっさに茂みに隠れ、つたない足取りで本堂のほうへ歩く。
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そして今に至る。花火は既に始まり、見えないながらも中盤あたりまで進んでいると感じ取れた。涙なんてものはとうに枯れ、逆に頭はスッキリとしている。
ーーどこが間違っていたんだろう。
私はこれまでを振り返る。
私が自覚したこと、先週花火に行ったこと、隣の県に遊びに行ったこと、二人でテスト勉強をしたこと、宿泊研修で同じ班になったこと、出会った日、私が傘を忘れたこと。
⋯だめだ。どの場面を思い浮かべても出てくるのは音無くんの顔ばかり。そういえば、トラウマの克服を手伝うって言ってくれてから、音無くんとの思い出しかない気がする。
(⋯あ)
そうか、そうだったんだ。これまで一緒にいてくれたのは克服のお手伝いを頼んだからだったんだ。
もしかしたら、私が音無くんの楽しみを奪っていたんじゃないか。女の子と少しずつ話せるようになって一つわかったことがある。それは、音無くんは女の子にそこそこ人気があるということだ。
いつも一人でクールな音無くんだけど、近くに困っている人がいるとすぐに手を貸しているのを何度も見たことがある。男女問わず平等に優しくするその姿に、多数のクラスメイトが好印象を持っていて、好意を抱く子もいる⋯らしい。
私と出会わなければ、音無くんは普通に恋をして、普通の青春を送れただろう。
その人生の中で私の存在は⋯ただの枷でしかない。
「私にできることは⋯。やっぱり、これしかないかなあ」
人生で一番頭を回転させ考えたが、やはり最初に思いついたコレしかない。それ以上の選択肢が見つからなかった。
ーー解消しよう。この約束を、この関係を。出会う前に戻して、次は足を引っ張らないように⋯。
音無くんに説明しなきゃ。陽乃にも凛にも。
そうこうしているうちに、花火が終わった。私は変な顔になっていないか確認しお母さんに連絡を入れ、迷子になっていたと嘘をついて帰った。
私は何度も音無くんに説明のラインを打ち込んだが、始業式の日まで送信を押すことはできなかった。
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