第二十三話 打ち上げ
前回までのあらすじ
【西の荒れ地】でダンジョンを攻略した社一行は、アカシアの提案で食事に行くことに。
【始まりの町/食堂街】
梢からのメッセージに従って、始まりの町にある食堂街に出てきた。
薬草なんかを買った商店街は雑貨屋や露店が並んでいたが、この食堂街はレストランや喫茶店、食べ歩き用の軽食の売店が列をなしている。
あのダンジョンを抜けた後では食欲が湧かないと思っていたが、道の両側から漂っている匂いのおかげでその心配も杞憂になった。
体は正直だ、といったところだな。
「さて、そろそろもう一度梢に連絡入れようか」
パーティーチャットを起動して電話をかける。
すると、ワンコールで梢が出た。
「……もぐもぐ……んく。あ、社さん! 用事は済みましたか?」
「あぁ、もう大丈夫だ。……もう目的地着いてるのか?」
「はい、もうとっくに着いてますし、先に始めさせてもらってます」
咀嚼音とそれを飲み込む音をさせながら梢が応答する。
そしてその後ろからはアカシアさんとキリツさんの声、そしてもう一人、若い中性的な声が聞こえている。
店員かな。
場は大分盛り上がっているようで、そろそろ行かないと乗り遅れてしまいそうだ。
「なぁ、梢。そっちの店名教えてくれないか?」
「えーとですね、店名は【宵闇の待ち人亭】です。テラス席もある大きめの食堂なのですぐ分かると思いますよ」
「なるほど。ありがとう」
「いえいえ」
向こうの邪魔をしないように会話を短めに切り上げる。
気遣い、のつもりだ。
「さてと。【宵闇の待ち人亭】ね。」
なかなか洒落たネーミングだな。
黒歴史として胸の奥にしまい込んだものを刺激してくる。
いやぁ、俺にもあったな。“宵”とか“闇”とかが好きだった時期が。
……今でもそんなに悪いセンスだとは思ってないが。
「……っと、ここか?」
目的の店は梢の言う通り簡単に見つかった。
見た目は、店名の仰々しさからは想像できない木製のコテージ。
テラス席には四人用のテーブルが2つ、間隔を広めにとって設置してあり、テラスと店内の間には仕切りがなく、開放的な作りになっている。
「宵闇の」というよりは、「日だまりの」とかそういった言葉が似合うような造りのレストランだった。
店の外からは梢たちの姿は見えないので、とりあえずテラス席を突っ切って店内に入ることにする。
「クックック……待っていたぞ、寝台で眠りし探求者よ!」
「………え?」
店内に入るやいなや不思議な言葉使いで声をかけられた。
声の主は身長150cm後半ほどの少女で、黒髪のショートヘア、片目には眼帯、服装は黒地に満天の星空を思わせる意匠が施されたショート丈のドレスという、なんとも“患ってそう”な見た目だった。
プレイヤー名は「シャ・ノワール」。
黒猫という意味だが、「シャ(猫)」と「ノワール(黒)」を区切っているのが見事だ。しっかりと語源を調べてあるという微笑ましさがある。
先ほどの呼び掛けと合わせると、おそらくこの人物がこの店の主なんだろう。
「さぁ、探求者よ選ぶがいい! 貴様はどちらを望む? 世を照らす灼熱の火玉に曝されるか、我が統治する城の庇護の下聖餐を行うか!」
「……」
あぁ、痛い。
自分の古傷をこじ開けられているように痛い。
なるほどなぁ……中二病ってこんな感じに見えるのか。
おそらく入店時の言葉は「待っていたぞ」が「いらっしゃいませ」で(「待ち人亭」という店名に由来してるのかな)、「寝台で眠りし」はベッドなどに横になってやるVRゲームを、「探求者」は「プレイヤー」を表してたんだろう。
「選ぶがいい」という台詞は「テラス席と店内の席、どちらで食事中なさいますか」といったところだな。
「あ、あの……やっぱり分かりにくかったでしょうか……」
おっといけない。考えてる間に店主がヘタりはじめてきた。
まだ羞恥心を捨てきれていないのかもしれない。
ここは先達としてしっかり理解を示さなければな。
「いや、大丈夫。ちゃんと理解できてるよ。テラス席か店内かで言えば店内で。と、いうか俺の知り合いが3人、先に入ってると思うんだけど分かるかな?」
「……! き、貴殿は我の言葉を解するのか! いいだろう、貴殿をかしましき三人娘の元に案内してやる! こっちです!」
言葉が通じたことか嬉しかったのだろう。見るからにテンションが上がり、呼び方が「貴様」から「貴殿」にランクアップしていた。
最後はもう普通の言葉使いになってるあたり、罹患してまだ日が浅いのかもしれないな。
「あ、社さん!」
「おう梢、すまん遅くなった」
店内には俺たちの他に客の姿はなく、正方形のテーブルの四辺に椅子が一つずつ置かれたテーブルに案内された。
席順は俺から時計回りにアカシアさん、梢、キリツさんで、元々のバディ同士が向かい合う格好になっている。
「ねぇ、どうこのお店? なかなか面白いでしょ?」
「えぇ、まぁ。アカシアさんも彼女の言葉分かるんですか?」
「まったく分からないわよ」
「え……会話とか困りませんでした?」
「アカシアは何言われても『可愛い!』ばかりだったな」
「……なるほど」
キリツさんの話が本当なら、店主の彼女はさぞやり辛かっただろう。
確かに言動からは必死に背伸びをしているような可愛らしさが感じられるだろうか、本人は至って真面目なのだ。
やはり経験者(といっても、ここまで露骨に人にぶつけてはなかったが)たる俺が理解を、というか付き合ってやらないといけないなと思う。今では痛い思い出だが、楽しかったことも事実なのだ。
「貴殿が我の城で聖餐を望むなら、このグリモワールの中から己の糧とするものを選ぶがいい! 我の理解者たる貴殿には特別なものを用意した、存分に宴を楽しんでください!」
「メニューか、ありがとう」
「礼には及ばぬよ!」
正面と両側から妙な視線、それも会話が成立してることへの称賛ではなく、会話が成立してしまっていることへの「あ、同族なんだ」といった生暖かな視線。
正直、居心地はあんまりよくない。
さっさとメニュー決めて食事に集中してしまおう。
と、思ってグリモワールを開いた俺は絶句した。
『業火で踊る屠殺されしミノタウロス』
『コカトリスは大地の恵みと共に白濁の海に沈む』
『赤色の大地を黄色い空が覆う』
『白銀の世界に堕ちる月』
『使い魔のスペシャリテ(デザート)』
「……なるほど、こうきたか」
「社さん、なんですかこれ?」
「私たちのメニューは普通に料理名書いてあったけど……」
「ふむ、なかなかに物々しいな」
「特別なものを用意した」というのはこういうことか。
普通のお客にはまともなメニュー表を出すが、理解できる人が現れた時のために準備してたんだな。
「すみま…… 「決まりましたか!」 ……せーん」
早いよ。
多分、メニューの内容が伝わるか不安で気が急いたんだろう。
「えっと、ガッツリ食べたいから『業火で踊る屠殺されしミノタウロス』と、あと『使い魔のスペシャリテ』をお願いします」
「あいわかった! しばし待たれよ!」
最後のは中二病的な口調ではない気もしたが(時代劇か?)、シャ・ノワールちゃん(多分年下だから「ちゃん」付け)はオーダーをとって店内奥へと消えていった。
そういえば、ゲーム世界の料理ってどうやるんでしょうね?
「えーと、お待たせしました! 『業火で踊る屠殺されしミノタウロス』と『使い魔のスペシャリテ』です!」
待つこと数分、俺の前に持ってこられたのは400gほどのステーキと巨大なパフェだった。
俺の予想では「ミノタウロス=牛肉」だったのだが、無事正解のようだ。なんとなくニュアンスで「焼かれた牛肉」ってことぐらいは分かるだろうに、他の3人は不思議そうな顔をしている。
「うん、旨そうだ。いただきます!」
「め、召し上がれ!」
ゲームの世界でも現実さながらに食事ができるなんて、技術の進歩もたいしたもんだ。
見た目も匂いも本物そっくりで、ここがゲーム世界であることを忘れさせるほどだ。
いざ、ナイフとフォークを手にとって……
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俺が意識が途絶えたのは、それからすぐのことだった。
「宵闇の待ち人亭」の特別メニューについて。
『コカトリスは大地の恵みと共に白濁の海に沈む』=鶏白湯鍋
『赤色の大地を黄色い空が覆う』=オムライス
『白銀の世界に堕ちる月』=卵かけご飯




