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第二十話 憎悪の女王

前回のあらすじ


 人間がオークの性的奴隷のような扱いを受ける【西の荒れ地/ダンジョン】の地下二階。

 そんな悲惨な光景の中でも冷静を保っていられることに仲間がいることの重要性を感じつつ、社たちは【看守長:オーククイーン】がいる階層へ続く階段を見つけるのだった。

【西の荒れ地/ダンジョン/看守長室】


 ダンジョンに入ってから三度目の階段を降りた先で俺たちが見たのは、広いドーム状の空間だった。

 俺たち四人が立っている踊り場のような場所からさらに階段があり、それが螺旋状に壁面に沿うように伸びている。

 幅としては人一人がなんとか歩ける程度の狭さで、正面や後方から襲われたら対応が難しいだろう。 

 そういうわけで、階段を降りる順番としては、キリツさん、アカシアさん、梢、俺の順番となった。前からきた場合はキリツさんがクロスボウで、後ろからの敵は俺が対応するという布陣だな。


「中央にいるのは……」

「『看守長』……でしょうね」

「社さん、あそこ武器庫みたいになってますよ」

「あれ全部をオーククイーンが使うってのはなさそうだから、きっとオークたちはここの武器を持っていくんだな」


 雑談を交わしながら階段を降りきる。

 階段でオークに襲われるってのは杞憂で終わったようだ。

 いまいち緊張感がないな……。

 

「これがこのクエストのボスってことでいいのよね?」

「多分な。こいつを倒せばクエストクリアのはずだ」

「なんだか偉そうですね」

「まぁ、クイーン(女王)だもんな」


 目の前の【看守長:オーククイーン】は、豪華な装飾を施された大きな椅子の肘掛けに背中と組んだ脚を乗せ、横向きの体勢で座っていた。

 姿は他のオーク同様、贅肉を纏ったデップリとした体型だが、クイーン(女王)というだけあって全身にジャラジャラとした装飾品を身につけ、複雑な刺繍が入ったドレスを着ている。

 身長は2m以上3m未満といったところで、通常のオークよりは一回り大きめだ。

 

Encounter!


 アナウンスとともにオーククイーンが起き上がる。

 ゆっくりとした動きで椅子から降り、俺たちを視界に捉えた。


『よぅコそ、反逆スル物ヨ。個々が看守の長たる綿死ノ心室デ有る琴は詩って射るノだロ』


 老若男女様々な声を無理矢理合成したような不気味な声が響く。

 イントネーションもアクセントも無視した、言葉というよりもむしろ『たまたま言葉のように聞こえるだけの音』というような声だった。


『貴様太刀ノ洋な異端者が射るセイで綿死ノ皮良い赤子が減った。ダカラ綿死ハ人間デ補充シタ野ダ。囚人トして、奴隷とシて。オークの雌ハ綿死ダケ打。増やす溜めニは別の種の雌に宿すしカナイのダ。働き手モ必用ダ。綿死の赤子ヲ屠る咎人ヨ。貴様太刀ハ何を臨む? 何故屠る? 何故綿死ノ前に建っている?』

 

 オーククイーンの体を赤黒い粒子のようなものが包み込む。

 繰り返し目にしたオークの血液のような赤色。

 俺たちが倒してきた何十体ものオークの血液をすべて集めたかのようなその粒子は、オーククイーンの体に集まり、凝固し、赤銅色の鎧となった。

 

『思考なき咎人よ。看守長の名において、貴様たちに罰を与える』


 最後の一言だけはハッキリと聞き取れた。

 向こうからすれば、こちらは立派な罪人というわけね。

 だからって「はいそうですか」と罰を受ける気なんてないんだけど。


「アタシは人間の味方のつもりだしね」

「あぁ、オークの言い分も分からなくはないがな」

「俺の立場は『勝った方が正義』だからな。怨みっこなしでいこう」

「……私は、社さんについていきます」


 決意表明が済んだところで戦闘開始だ。


「【腕力強化】」


 俺の腕が赤色の光を纏う。


「【筋力増強(ビルドアップ)】【走力強化(アクセラレーション)】【破砕強化(デストロイ)】【軌道拡張(ソニックブーム)】」


 梢の両腕が赤、両足が青、斧が紫と水色の光を纏う。


「【序曲:マインノーツ】」


 アカシアさんの演奏とともに、オーククイーンの周囲にカラフルな音符が浮かぶ。


「さて、開幕の号砲は私に任せてもらうぞ。【グレネードショット】」


 キリツさんが後方から手榴弾を撃ち込む。

 着弾。

 爆発した手榴弾は土煙でオーククイーンの姿を覆い、その爆発の余波が俺たちの横を吹き抜ける。

 

「やったか!」

「キリツちゃん、それはやってないフラグだから……」

「お二人とも冗談はあとで! 社さん!」

「おう、突っ込むぞ梢!」


 オーククイーンの視界が遮られているうちに俺と梢は駆け出した。 

 スキルで強化されている分、俺より梢の方が先にオーククイーンに届く。

 助走の勢いを利用した重い一撃。

 ガギンと斧が鎧に当たる音がする。

 数秒遅れて俺も【ストライク】を撃ち込む。

 ……しかし、攻撃が通った手応えはなかった。

 代わりにガコッという音がして、足元に赤銅色のプレートが四枚落下する。オーククイーンの鎧の一部のようだ。


「思いの外硬いですね……」

「……硬いというよりは、むしろダメージを全部受け止められてる感じだな」

「おーい、二人とも! なんか分が悪そうだからヒット&アウェイで慎重にいこう!」

「とりあえず一回音符で囲んでみるから離れてちょうだい!」


 後方からキリツさんとアカシアさんの指示が飛んでくる。

 接近戦の最中でも広い視野を保てるってものパーティーを組んだ利点だな。

 俺たちは一度後ろに跳ぶ。

 直後、周囲に浮かんでいた音符がオーククイーンに群がり連続で爆発。さらに青白い光の矢が飛んでくる。キリツさんの【サンダーショット】だな。

 さらに二枚のプレートが落ちるが、オーククイーンはふらつきもせずにこちらを睨んでいる。

 

『……貴様太刀の攻撃ハ綿死にハ届かない。綿死は綿死の皮良い赤子太刀ノ魄ト個々に射る。貴様太刀が屠っタ赤子と共ニ』


 憎しみの込められたような、低い呻き声ともとれる声が聞こえてくる。

 

「社さん、これってどういうことですかね」

「分からん。……だけど、とりあえずこの鎧を全部剥がないと攻撃が通らないっぽい」


 今までの攻撃で剥がれた鎧は全体の一割にも満たない。

 これは少々厄介そうだ。

 

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