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第3話 没落令嬢の涙と、聖女(元カノ)からの強制アクセス

 第3話:【悲報】没落領地のデータベース、隠しフォルダだらけのクソ仕様だった件

【カイトの脳内デバッグ・ログ:06:30】

  [状態] 覚醒・異世界サーバーへ完全定着

  [リソース] 魔力:測定不能(オーバーフロー中)

  [メッセージ] ログインボーナス:生存権を獲得しました


 眩しい朝日。ミサのいない、上司の怒号も聞こえない静かな朝。


「……生きてる、んだよな。俺。こっちの世界で」


 ベッドに寝たまま手をかざすと、空気中の魔力コードが視える。

  昨夜は応急処置だったが、今の俺ならはっきりと理解できた。


「ほんとやべーな、この屋敷の魔導回路は。素人が組んじゃったのかな」


 職業病だろうか。 目の前に「放置されたクソコード」があると、直さずにはいられない。


「よし……まずはこの、ガバガバなセキュリティからリファクタリング(再構築)するか」


 飛び起きて、屋敷内をぐるぐる回る。


「カイト、これカイトがやってくれたの?」


 振り返ると、リアナが目を丸くして部屋に入ってきた。

 屋敷は見違えるようだ。窓ガラス一枚に至るまで魔力のコーティングが施され、まるで王宮のような清潔さと神聖さを放っている。


「あ、おはようリアナさん。悪い、暇だったから目につくバグをパッチ当てした」


「パッチ?」


 丸くなった目が、細まる。リアナがぷっと笑い出した。 視線を辿ると、俺の寝癖がひどいことになっていたらしい。ケタケタ笑う声が、明るいキッチンに響く。 そのまま彼女が手を伸ばしてきたので、思わず息を止めて固まってしまう。


「ありがとう、カイト」


 寝癖を撫でて直してくれる、柔らかい手のひらの感触。 ドキドキが止まらず、ふーっと深呼吸した瞬間、その名前が口をついて出た。


「ミサ……」


「えっ? 今、なんて?」


「あ、いや! なんでもない。さあ、仕事続けるよ」


 誤魔化すように、俺は山積みの書類を魔導スキャンし、空間内に光る地図を描き、データベースを構築していく。 リアナも気を取り直したように、さっそく「初仕事」を指示してきた。


「お金が払えなくなって管理人もいなくなっちゃって。誰がどこに住んでいるか、よく分かっていないの。おかげで土地代があまりもらえていないのよね」


「それは領主にとってのライフラインじゃないか」


 地代の回収漏れ。いわゆる管理放棄されたデッドリンクだ。 順調に修正を進める中、特定の座標だけが「空白」になっていることに気づく。


「ここ、森のはずなのにデータが欠損してるな」


「そこはただの深い森よ。カイト、真面目にやってる?」


  「やってるよ! ひどいこと言うなあ」

 このくらいの文句なら可愛いものだ。前の職場の地獄に比べれば、ここは天国だ。 だが、解析を進めるログが【異常】を知らせる。


【カイトのデバッグ・ログ:異常検知】

  [詳細] 物理座標:B-201地点に矛盾。

  [解析] 目視では「森」だが、内部コードに『巨大な魔力溜まり』を隠蔽する処理を確認。


「リアナさん、これ『森』じゃないぞ。誰かが物理的なカモフラージュ・コードを上書きして、領地の一部を『見えない隠しフォルダ』にしてる」


「どういうこと?」


「何かがここにあるんだ。誰かがそれを隠そうとしている」


  「えっ、また妨害工作なの……!?」


 俺がその隠蔽魔法を指先でデリートした瞬間。 ホログラムの地図上に、本来リアナ家が所有しているはずの『高純度の魔石鉱山』が鮮やかに浮かび上がる。青々と、眩いほどに輝いている。


「なっ……! そこは数年前に『枯渇した』って報告を受けていた場所よ!?」


「いや、これは枯渇どころじゃない。潤沢な鉱山だよ」


 俺とリアナは、空間に浮かんだ美しい輝きを見つめる。


 「一体だれが」


 驚愕するリアナ。


「近隣の領の貴族か、あるいは内部の裏切り者か?」


  リアナは口元をぎゆっと抑えている。瞳の奥に、必死に怒りを抑え込もうとする光が見えた。それはそうだ。これがあったら、ここまで没落していなかったに違いない。


「管理人はどういう人間だったんだ?」


 「彼は背が高くて目が細くていかにも良い人って感じの人よ。ただ、ミスがあったり面倒ごとがあると、そうっとフェードアウトして逃げちゃう癖があったけど……」


「ああ、そういうタイプの人、いるよなあ」


 と俺は強く頷いた。職場にいたあいつもそうだった。最後の仕事も「カイト、それお前の仕事だ」と無責任に俺に押し付けて帰宅したっけ。せめてあいつが残って一緒に仕事を終わらせてくれたら、俺は死ななかったかもしれない……いや時間の問題だったか。


「カイト?大丈夫?」


 急に黙り込んだ俺の顔を、リアナが心配そうに覗き込んだ。


 「大丈夫!俺が絶対犯人を見つけてやるから!」


  俺は大きく請け負った。リアナ家を没落させるために、誰かがこの「金のなる木」を隠して私物化していたのだ。

 真っ当な努力をする人間から、盗む人間を俺は許さない。ふと見るとリアナの大きな目が潤んでいる。そっと体を寄せてきた。

 抱きつくのではなく、恥ずかしそうに僕の胸に近づいてくる感じ。

 これは俺に腕を回せということだろうか。華奢な彼女が俺の腕の中にすっぽり入りそうだ。


【カイトの脳内ログ:警告】

  [事象] リアナの好感度:閾値を突破。

  [状態] 物理距離:密接。回避不能。


 柔らかい体温と、彼女の涙。 守りたい。

 そう思った、その時だった。

 視界が真っ赤な警告色に染まる。


【カイトの脳内ログ:緊急警告:外部からの『強制アクセス』検知】

[送信元] ???

[音声出力]「……カイトくん。その子、だれ?」


 カイトくん。その呼び方は、リアナのそれはない。

 一瞬自分がどこにいるのか分からなくなり、視界がぐるりと回った。

 心臓が凍りついた。

  ログに残るその声は、間違いなく——俺が前世で置き去りにした「恋人ミサ」のものだった。


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