幼なじみと妹と勉強会
このテスト週間から、クラスメイトに勉強を教えたり、時に教わったりするようになり、朝会った時や顔を合わせた時に、クラスメイトから一言声をかけて貰えるようになった。
元々谷本など、一部の親しい人と挨拶したり話したりしてれば良いと思っていたし、事実これまではそうしていたが、クラスメイトから声をかけてもらえるというのは嬉しいものがある。
香織との勉強会もきちんとやっており、毎日一緒に勉強をしている。まだまだ香織に追いつくには程遠いことを実感しながら、香織に教えてもらう日々だ。
ここ数日間、そんな感じで日々を過ごし、今日は日曜日である。
俺は前回の中間テストよりも少しやる気多めに、勉強をして過ごしている。
なんせ教科が多いため、覚えることも多い。問題を解いては確認することを繰り返しながら覚えていく。
そんな時、俺の部屋のドアが勢いよく開いた。
「お兄ちゃん!なんで教えてくれなかったの!?」
「バァーン!」と効果音がついていそうな勢いで美咲が話しながら入ってくる。
「な、何をだよ。」
「勉強会だよ!香織おねーちゃんとやってるんでしょ?ずるいー!」
とりあえず美咲を落ち着かせるべく、座らせながら話を続ける。
「勉強会だぞ?遊んでるわけじゃない。」
「でも、香織お姉ちゃんに教えて貰ってるんでしょ?私も教えて貰いたいもん。」
「そうは言ってもなぁ……」
俺と香織も美咲と同じ中学校に通っていたので、中学でも成績の良かった香織は美咲に勉強を教えられるだろう。
ただ、もうテストの2日前である。俺と美咲にとっては教えて貰えるので助かるが、香織も自分の勉強に集中したいだろうし、今回は難しそうだ。
「もうテスト直前だしな。香織も自分の勉強がある訳だし、また次の時とかにしようぜ。」
それを聞いた美咲は頬を膨らませ、「むー」と唸っている。
「……じゃあ、香織お姉ちゃんが良いって言ったら勉強会してもいいんだよね?」
「それは、そうだが。」
「じゃあ聞いてみる。もしOKが出たらまたうちでやるからね!」
美咲は、そう言い放って部屋を出ていった。
そういえばLINE交換してたんだったなと思い出しながら、まぁ直ぐにやることにはならないだろうとタカをくくって、自分の勉強へと向かった。
それから数時間後、夕方になり始めた頃、また美咲が俺の部屋に訪れた。
「お兄ちゃーん、香織お姉ちゃんが、明日のお昼頃なら良いって!」
「えっ、マジで?」
「うん。明日は休みだけど、お母さんたちはお仕事だから、うちでやろうね。」
そう言って美咲は部屋を出ていった。
本当に良かったのか心配になった俺は、香織に確認してみる。
優斗 『テスト直前なのに、勉強会に付き合ってもらって、大丈夫か?』
かおり『大丈夫だよ。前々から勉強してたからあとは確認って感じだし。』
優斗 『ならいいんだけど。ありがとうな』
テスト直前まで時間を貰ってありがたい気持ちと、申し訳ない気持ちが半々だな。
俺は、せっかく教えてもらうんだしと、最後に確認しときたいことをピックアップしておくことにした。
翌日、お昼ご飯を食べ、リビングの準備を整えた辺りで、チャイムが鳴った。
「私、出てくるね~。」
美咲が玄関へと向かい、お客さんと話をしながらリビングに入ってくる。
「お邪魔します。」
「香織、いらっしゃい。」
一言交わしつつ、香織に座るように促して、飲み物を用意する。
「2人とも、飲み物は前と同じでいいか?」
「うん。大丈夫だよ。」
「ありがとー、お兄ちゃん。」
そうして、3人で机に座って、勉強会が始まった。
香織と美咲が隣同士で座り、香織の正面に俺が座っている。
隣同士で話したり、勉強したりする2人の様子を見ると、俺より兄妹らしく感じる。いや、そうなると姉妹になるのか。
そんな考え事も程々に、勉強に集中する。
正面では2人の話し声が聞こえる。
「なーんだ、美咲ちゃん、勉強出来るんじゃない。」
「そう言って貰えて嬉しいけど、そんなことないよ。こことか教えてください、香織先生!」
「えっと、ここはね……」
あまり見たことない様子の2人を微笑ましく思いつつ、勉強を進めて行った。
それから暫く話しながらも勉強を続け、2時間ほどが経った。
香織が伸びをしつつ、話し出す。
「んー、そろそろ、休憩にしよっか。」
「そうだな、休憩するか。」
「じゃあ私、アイス食べるー!」
そう言って美咲がキッチンの方へ向かっていく。
「ありゃ、アイスあんまりないや。」
「あれ?無かったか?」
俺もキッチンへ向かい確認する。確かにほぼ空っぽ状態だ。
「私、コンビニで買ってくる!」
「それなら、私もついて行くよ。」
「大丈夫だよ、香織お姉ちゃん。私ももう中学2年生なんだし、コンビニくらい1人で行けるよ。」
美咲はそう言って準備を始めるが、香織はまだ心配そうな表情をしている。
まだ香織が心配ならと俺は話す。
「美咲、3人で買いに行こうぜ。その方が楽しいんじゃないか?」
そう伝えると美咲は驚いた顔をして答える。
「お兄ちゃんもたまにはいいこと言うんだね。」
「一言余計だ。」
そう言いながらお金など準備を進める。
「ほら、香織、行こうぜ。」
「うん。」
そう言って家を出て、3人で賑やかにコンビニへ向かう。
コンビニに着き、アイスのコーナーへ向かう。
「どれにしよっかな〜?」
美咲は真っ先にアイスを選び始める。
その様子を見ながら、香織が選ぼうとしていない事に気づく。
「香織はどうする?」
「私、今日財布持ってないんだよね……」
アイスに夢中な美咲には聞こえないように、小声で俺に伝えてくる。
勉強会のお礼と言って、俺が買おうとしても断られるのは何となく予想がつくので、別の案を採用する。
「じゃあ、俺これにするから、一緒に食べようぜ。」
俺は2つに分けれるシャーベットアイスを手に取りながら、香織の方を見る。
香織は明るく微笑みながら「ありがとう」と言ってくれた。
「悩んだけど、私これにする〜。」
美咲はチョコの中にバニラが入った6個入りのアイスにするようだ。
美咲からアイスを受け取り、会計をして、コンビニを出た。
俺たちは、買ったアイスが溶けてしまう前に、早足で自宅へと帰る。
「香織お姉ちゃんはアイス買わなかったんだね。」
香織は美咲に話しかけられ、答えづらそうにしているのがわかった。
美咲にドジったこと知られたくないんだろうなと察しつつ、フォローする。
「香織はあんまりお腹すいてなかったんだよな?それで、半分にしようって話したんだよ。」
「あっ、そうだったんだ。それなのに付き合ってくれて、香織お姉ちゃん、ありがとう。」
「あっ、うん。どういたしまして。」
その後、自宅に着き、一足先にリビングに向かい、手洗いうがいをしてから、アイスを取り出して2人がリビングへ来るのを待つ。
「お兄ちゃん、アイスちょうだい。」
「ほいよ。」
美咲にアイスを渡しつつ、俺もアイスを開けて半分にする。
「ほら、香織。」
「ありがとう、優斗。」
香織が少しの申し訳なさと感謝を含んだような微笑みでそう言った。
俺は、そのありがとうに複数の意味が込められていることを知っているので、しっかりめに「どういたしまして」と伝える。
3人で楽しくアイスを食べてから、勉強を再開した。
休憩前と変わらず勉強を進めていると、一気にアイスを食べたからか、美咲がお腹痛いと席を立った。
「美咲ちゃん大丈夫かな。」
「うーん、一気に冷たいものがお腹に入って冷えたのかもな。」
香織と、美咲の心配をしながら話していたら、不意にリビングに繋がるドアが開いた。
美咲かと思い、香織と一緒に扉の方を向いた。
「ただいま。誰か遊びに来てるの?知らない靴が玄関にあったけど……」
そこには、そう話しながらこちらを見ている母さんの姿があった。




