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宇宙怪獣vsVtuber ~地球最後の日に貴方は何をしますか? 答え:Vtuberの配信を見る~  作者: 桂かすが


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第35話 打ち上げ配信、打ち上げ直前

《南原宇宙技研の挑戦》


 ヤタガラス型ロケットの最大の特徴はその燃料にある。微細化したアルミ粒子の添付による燃焼効率のアップ。


 KR-X2ゲル化燃料は確かに強力な燃料だった。だが、誰もが口をそろえて言う。「扱いやすい燃料ではない」と。


 燃料タンクの温度がほんの数度ずれただけで、粘度が変わる。打ち上げ延期が長引けば、内部のナノアルミ粒子が静かに沈みはじめる。エンジン点火の瞬間、そのわずかな偏りが燃焼室の圧力波となって現れ、金属を震わせ、炎を揺らす。


 燃料はただの液体ではない。機体とエンジン、そして打ち上げまでの時間管理まで含めて、ようやく成立する“気難しい生き物”なのだ。

 それでも、KR-X2ゲル化燃料を捨てる者はいなかった。扱いにくい代わりに、火を入れた瞬間――

 そのエンジンは、普通のケロシンでは到底出せない推力で咆哮する。だから技術者たちは、今日も燃料タンクの温度計を睨みながら言う。


「機嫌さえ良ければ、こいつは世界一速い燃料なんだ」――――





 銀河そらが画面に表示されたネット記事のテキストを滑らかに読み上げる。


「宇宙系Vtuber銀河そらです! 本日は南原宇宙技研の商用通信ロケット打ち上げの第四回の実況を担当することになりました。ゲストは~、なんと! あの宇宙人系Vtuberのモコス・イクシス様に来てもらっております!」


 紹介を受けて、モコスのアバターが画面下からスイッと顔を出した。今回モコスは配信枠を取っていない。並行して配信する案もあったのだが、忙しくてそれどころではなかったからだ。なんなら今もヤタガラス参型の設計は裏で続行中である。


「宇宙怪獣と戦う銀河美少女! モコス・イクシス! 見・参・ですにゃ!」


「いやモコス様そんな登場セリフじゃなかったですよね!?」


「初見さんもいるので少しかましておこうかと」


 いつものように挨拶後にテンションを下げたモコスが言う。


「初見さん戸惑ってますよ! 普通にやって大丈夫ですから!」


「え~。じゃあいつものやりますね? こんばんにゃ! 宇宙人系Vtuber地球救済委員会委員長モコス・イクシスですにゃ!」


「……こっちもこっちで初見さんには意味がわかんないかもしれませんね?」


「そらさんがやれって言ったのにひどい!」


「初見さんに説明致しますと、モコス様は銀河連盟のほうからやってきた本物の宇宙人で、今は地球で迫りくる宇宙怪獣から地球を守る活動をされてるんですよね?」


「あってるじゃないですか! 宇宙怪獣と戦う銀河美少女!」


「モコス様や宇宙怪獣のことが気になる方は概要欄にありますモコス様のチャンネル登録などしておくといいですよ~。特にVtuber初のガチの宇宙からの配信は見応えがあります!」


「これがベテラン配信者の配信力ってやつですか……」


 モコスの抗議をさらりと流して宣伝をしてくれる銀河そらにモコスが感心する。


「はい。挨拶はほどほどにして、本日の主役、ロケット打ち上げのほうを見ていきましょうか。すでにロケットは発射台に立てられ、発射を待つばかりとなっております」


 ロケットにはすでに液体酸素と燃料であるKR-X2燃料が第一段と第二段に充填済み。そしてロケット全体の電子システムのチェックが何も問題なく終わっていた。


「このロケット、ヤタガラス弐型の特徴はなんといってもその燃料でしょう! 通常のロケット打ち上げに使われるケロシン燃料にナノアルミ粒子を添加したKR-X2ゲル化燃料は高燃費でハイパワーと夢のような性能を誇ります。その分扱いは難しいのですが、南原宇宙技研は見事にそれに成功しております」


「一段目には小型ロケットエンジンを七基搭載しており、六基が打ち上げ用。一基が帰還用として使われ、小型化をすることでKR-X2ゲル化燃料の扱いの難しさをクリアしているのです」


 銀河そらがロケットの簡単な構造から、打ち上げ準備の説明をイラストや実際の映像を交えて行い、それにモコスが適度に合いの手を入れる。


「燃料の充填が終わると、ロケット全体の電子システムチェックが始まります」


・エンジン

・誘導コンピューター

・通信装置

・姿勢制御装置  


「これらすべての機器が正常に動くか確認します。ロケットはほとんどコンピューターが操縦するので、このチェックがとても大事なんです」


 モコスが先ほど改変したシステムであるが、疑われることもなくチェックを通過したようである。


「今は今回打ち上げるテスト衛星の最終チェックの最中ですね。衛星の電源状態や通信リンクを確認します」


 忙しくPCに向かって作業をする管制室の様子がリアルタイムで映し出される。


「衛星はロケットの先端、フェアリングの中に入っています。ここで問題がなければ、

打ち上げカウントダウンが始まります」



『システムオールクリア! 最終チェック完了しました!』

『打ち上げカウントダウン開始せよ』

『カウントダウン、ー10秒、9、8、ーー』

『ゼロ。カウントダウンスタート』



「ここからは自動シーケンスになります。ロケットのコンピューターが

すべての工程を自動で進めていきます。主なチェック内容は――」


・タンク圧力

・エンジン温度

・燃料流量

・誘導装置


「もし異常があれば、この段階で自動的にカウントダウンが停止します」



『全項目正常値です。カウントダウン続行』



「あとは打ち上げ開始を待つばかりとなりました。モコス様、今回の打ち上げどう見ますか?」


「今回の打ち上げで四回目で、三回失敗しているんですが、前回、衛星の軌道投入には失敗したとはいえ、一段目ロケットの回収に成功しているのは大きいです。後は軌道投入が正確に実行できれば問題なく成功すると思われます」


「成功しますか!?」


「間違いなく成功します」


 モコスにとって打ち上げの実行とその成功は予定調和な出来事である。モコスが必要な改良を施し、完璧にシミュレート済み。失敗などあろうはずもない。問題はその後だ。


「宇宙人であるモコス様のお墨付きが出ました! 我々は安心して打ち上げ開始を待ちましょう!」


:宇宙人なの?

:本物の宇宙人だぞ

:そんなわけない。設定だって

:モコスたんが成功するって言うなら確実だな!


「ふむふむ。時間があるのでモコス様が宇宙人であることを証明する映像を見てみましょうか」


 せっかくコラボに誘ったのだ。モコスの宣伝も必要との銀河そらの考えである。映像が切り替わる。モコスが宇宙船で月面へと着陸し、月面ウォークをする一連の映像が流された。


:なるほど~、これは本物だあ、ってなるかあ!!!

:生身で月面は草

:CGでももうちょっとやりようがあっただろ……

:全部実写だぞ

:え? これリアル顔出し? めっちゃ可愛くない?

:アバターのそのままだし、本物のほうが美人じゃん


「ついでに月の石をお土産にしてリスナーに一〇〇人限定で抽選で配ってらしたんですけど、私は外れちゃったんですよね……」


「余りがありますよ? 後で差し上げましょう」


 地球人があんまり喜ぶから贈り物用にいくつか確保してあったのだ。こうしたちょっとした気遣いが商売を成功させるのだ。そうボスは言っていた。


「え? いいんですか!? やったー!」


:いいなー

:月の石プレゼントってどうみても詐欺だろ

:無料プレゼントでどうやって詐欺するんだ?

:住所とか連絡先を聞き出すやつ

:聞かれてないんですが?

:それでどうやって送るんだ???


「宇宙的なアレで届くようですよ?」


 銀河そらもさすがにモコスがハッキングで住所を特定したとは配信では言えない。


:草

:なんだ。詐欺じゃなくてジョークの類か

:ちゃんと届くってワイは信じとるで!


「横道に逸れるのはこのくらいして、発射後のロケットの動きを見てみましょうか」


 銀河そらがそう言ってまた画面に打ち上げ後のロケットの変位とイラスト化したものを表示する。


「リフトオフ後、ロケットはまず第一段エンジンで上昇します」


「約二分で高度七〇kmまで到達。この間にロケットは音速を超え、マッハ一〇近くまで加速します」


「リフトオフから約四分。高度一六〇kmで衛星を空気の層から保護するフェアリングを分離。六分後、高度三〇〇kmで第一段エンジンの燃焼を停止、第二段を切り離します」


「第一段ロケットは一旦ここで役目を終え、自由落下に入ります。ある程度高度が下がったところで七基のエンジンのうち一基を使い、洋上のタンカーを目指します」


「第二段ロケットのほうは点火し、宇宙でさらに加速、衛星投入軌道を目指します。そして十五分後には予定軌道に到達。第二段ロケットから衛星が切り離され、予定への軌道投入。ミッションコンプリートとなります」


「すごいスピードが出るんですね」


 モコスの合いの手に銀河そらが珍しく言葉を詰まらせた。宇宙船で小惑星帯まで行った宇宙人が何を言ってるのだという思いである。


「え、ええまあ。そうですね。打ち上げそのものは極めて短時間で終わるので見逃さないようにしましょう! さあ、間もなく。打ち上げ一〇分前の最終カウントダウンが始まります!」


『打ち上げ一〇分前。自動シーケンス開始』


「ここからはロケットのコンピューターがすべての工程を自動で進めていきます。チェック内容は、タンク圧力、エンジン温度、燃料流量、誘導装置など多岐に渡り、もし異常があれば、この段階で自動的にカウントダウンは停止します」


「発射三〇秒前になると、白い蒸気がロケットの周囲に出るのが見れると思います。これはウォーターカーテンと言って、排気熱から発射台や設備を守るためと、ロケットが発する音と振動からロケット自身を守るためでもあります。

 ロケットは点火すると、とてつもない爆音と衝撃波を出します。この音が発射台や機体に反射すると、ロケット自身や搭載している衛星に大きな負担がかかります。そこで大量の水を流して、音エネルギーを吸収する、音の反射を減らす、振動をやわらげるという効果を狙うわけです。

 そして排気で舞い上がる粉じんや破片を減らす、場合によっては火災リスクを下げる。つまり、ウォーターカーテンは防音装置 + 冷却装置 + 設備保護装置の役割を果たすわけですね」


「原始的ですが実に経済的でスマートな解決策ですね」


「げ、原始的ですか」


「正直、原始的で乱暴です。ですがこのような拙いシステムで宇宙に出ようという勇気は感服に値すると思います」


 モコスから見れば何もかも未熟で不確かな技術ばかりで、しかしそれでもこうやって宇宙へと到達させている。その熱意は認めざるを得ないのだ。


「宇宙人のモコス様から見て、我々は宇宙に出れますかね?」


 色々と問題は山積みではあるが、それでもきっと地球人は宇宙へと手を伸ばすだろう。そうモコスは本心から思う。


「ヤタガラスは優秀なロケットです。きっと人類を宇宙へと導いてくれるでしょう」


 そしてこんなことを言った以上、ヤタガラス参型のスペックをもう少し盛ったほうがいいだろうかとモコスは考えながら、不測の事態に備え、いつでも動けるようにロケットのカウントダウンを見守るのだった。


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